The last love word act21
►2008/08/08 20:00
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いつの間にか、玲人は寝入ってしまっていた。
今の玲人には休養が大事と、再び美智たちはリビングに戻った。
「先生、玲人さんは大丈夫なんでしょうか?」
美智が心配したのは怪我の方ではなく、メンタルな部分のほうだ。玲人は始め、明らかに記憶が無かったように見受けられた。羽鶴来の取った手段は多少荒療治だったが、あれで玲人は自らの行動を省みる結果になった。玲人には可哀そうなことをしたが、あの場合はしょうがなかったと思うしかない。
「僕は外科専門だからね、精神科の領分はよくわからないけど」
いったん言葉を切った羽鶴来は、怜悧に整った顔に冷ややかな笑みを浮かべて言う。
「麻酔から覚めて、一時的に記憶が混乱していたのかもしれないね。それとも本人が意図的、もしくは無意識に記憶を抹消しようとしていたのかも。どっちにしろ、本人の精神的な弱さの発露だと僕は感じた。だからあんな言い方になってしまったけど、本人に現実を直視してほしかったんだ」
謝罪のような言葉ぶりだが、羽鶴来に反省しているような素振りはない。おそらく美智たち同様、逃避しようとする玲人の姿にもどかしさを感じたのに違いない。腹に一物も二物も隠しているような羽鶴来ならばもしくはそれは、苛立ちだったのかもしれない。
「とにかく、手術は成功しましたからね。何かと衆目を集める方ですから、縫い痕は最小限にしておきました。抜糸が済めば、ほとんど目立たなくなると思いますよ」
丁寧な口調でそう告げた羽鶴来に、美智は「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
「彼の目が覚めたら連れて帰っていいからね。………ああ、ところで料金のことなんだけど」
今思い出したという風に羽鶴来はそう言って、ニッコリとほほ笑んだ。玲人のことで頭がいっぱいだった美智は、(しまった…!!)と内心冷や汗をかきながら羽鶴来の言葉に耳を傾けた。
「知らなかったら申し訳ないと思ってね。一応言っておくけど」
「…はい」
嫌な予感がして思わずゴクリと息を飲めば、羽鶴来は満面の笑みのまま言った。
「ここ、保険は利かないからね?」
…美智には羽鶴来の笑みが悪魔の微笑に見えたのだった。
玲人が自宅に帰ることができたのは夜になってからのことだった。羽鶴来の忠告通り、マンションに着いた頃、玲人は熱を出していた。あらかじめ貰っていた(とはいえこれも料金の内だ)解熱剤を飲ませると、玲人は少し落ち着いたのか再び眠りについた。
一段落つくとあらためて、とんでもない一日だったと思う。吾一が機転を利かせてくれたおかげで、玲人の命も名誉も守ることができたが、そうでなければ今頃大変な騒ぎになっていたに違いなかった。
(立ち直ってくれるといいけど…)
願うことはただ一つ。以前のように、大好きな音楽の仕事で活躍してほしい。これは美智だけの願ではなく、世界中にいる荻久保玲人のファンの総意だろう。今ここで玲人が立ち直れないまま、音楽活動を辞めてしまうなどということになれば、嘆くファンはどれだけの数だろうと思う。
(大丈夫、玲人さんならきっと大丈夫)
今までだって、様々な困難を乗り越えてきたのだ。きっと今回も、時間はかかるにせよ乗り越えてくれるはずだ。玲人の寝顔を見守りながら、美智はそう自分を鼓舞するしかなかった。
一方吾一は、病院の前で美智と大門と別れた後、里村のマンションに向かっていた。
玲人をバスルームで見つけた時、かろうじて流しっぱなしにしてあった湯を止めただけで、あとはすべて放り出してきてしまっていた。それらの後始末をするために、吾一は里村のマンションに戻ったのだった。
バスルームは玲人が発見された、その時の状態のままだった。血を溶かした湯も、玲人が腕を切った剃刀も。吾一はそれらの生々しい痕跡を全てきれいに片づけると、酷く疲労を感じて、休息を取ろうとリビングに向かった。
リビングにも生々しい痕跡はあった。おそらく玲人が零しただろうコーヒーがラグにしみ込んで、すっかり乾燥してしまっている。どんなシチュエーションでそれがこの状態になったのかは想像に難くない。すべてが里村の死をきっかけに狂い始めてしまったのだと思うと、やるせない気持ちになる。
里村が長年過ごしたこのマンションもそのうち売りに出すことになるだろう。おそらく二人が多くの時間を過ごしたであろうこの部屋も、いつかは他の誰かのものになる。里村自身、こんなにも早く自らの死が訪れることなど考えてもみなかっただろう。遺言など残しているはずがなかった。
せめて何か形ある物を玲人に遺してはいなかっただろうか…。
そこまで考えたとき、吾一はかなり重要なことを失念していたことに気がついた。
『…ごいち、おまえに、たくしたい、ものが………』
里村は確かに遺言を遺していた。死の間際、もう何もしゃべってくれるなという制止を振り切り、必死の想いで紡いだあの言葉を、どうして自分は今の今まで忘れていたのか。
『ひきだしに、…わたしの、おもい…が』
『わたして、ほしい…、あの…ひとに』
意味はわからない。しかし、里村は確かに何かを自分に託した。
「玲人さんに、渡してやらなきゃな…」
吾一は拳を固めて里村のマンションを飛び出していた。
〜To Be Continued…〜

↑読んで下さってありがとうございます☆お気に召しましたら、ポチっとお願いします♪
【追記】
ブログ拍手お礼♪
おーい様♪
羽鶴来センセイは、またいつかどこかで出演していただこうと思っております。
かっこいい吾一は次回…かな?
走れ吾一!!
無記名様♪
するどいツッコミありがとうございます(汗)。
羽鶴来センセイ、自分で「あまり刺激しないように」とか言っておきながら、自らドSにレイちゃんを責め立てております。たぶん、センセイもイラっとしたんだと思います(笑)。
アーサーさんは次回登場します。
牛歩の歩みな連載ですが、もう少々お待ちくださいませm(__)m
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今の玲人には休養が大事と、再び美智たちはリビングに戻った。
「先生、玲人さんは大丈夫なんでしょうか?」
美智が心配したのは怪我の方ではなく、メンタルな部分のほうだ。玲人は始め、明らかに記憶が無かったように見受けられた。羽鶴来の取った手段は多少荒療治だったが、あれで玲人は自らの行動を省みる結果になった。玲人には可哀そうなことをしたが、あの場合はしょうがなかったと思うしかない。
「僕は外科専門だからね、精神科の領分はよくわからないけど」
いったん言葉を切った羽鶴来は、怜悧に整った顔に冷ややかな笑みを浮かべて言う。
「麻酔から覚めて、一時的に記憶が混乱していたのかもしれないね。それとも本人が意図的、もしくは無意識に記憶を抹消しようとしていたのかも。どっちにしろ、本人の精神的な弱さの発露だと僕は感じた。だからあんな言い方になってしまったけど、本人に現実を直視してほしかったんだ」
謝罪のような言葉ぶりだが、羽鶴来に反省しているような素振りはない。おそらく美智たち同様、逃避しようとする玲人の姿にもどかしさを感じたのに違いない。腹に一物も二物も隠しているような羽鶴来ならばもしくはそれは、苛立ちだったのかもしれない。
「とにかく、手術は成功しましたからね。何かと衆目を集める方ですから、縫い痕は最小限にしておきました。抜糸が済めば、ほとんど目立たなくなると思いますよ」
丁寧な口調でそう告げた羽鶴来に、美智は「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
「彼の目が覚めたら連れて帰っていいからね。………ああ、ところで料金のことなんだけど」
今思い出したという風に羽鶴来はそう言って、ニッコリとほほ笑んだ。玲人のことで頭がいっぱいだった美智は、(しまった…!!)と内心冷や汗をかきながら羽鶴来の言葉に耳を傾けた。
「知らなかったら申し訳ないと思ってね。一応言っておくけど」
「…はい」
嫌な予感がして思わずゴクリと息を飲めば、羽鶴来は満面の笑みのまま言った。
「ここ、保険は利かないからね?」
…美智には羽鶴来の笑みが悪魔の微笑に見えたのだった。
玲人が自宅に帰ることができたのは夜になってからのことだった。羽鶴来の忠告通り、マンションに着いた頃、玲人は熱を出していた。あらかじめ貰っていた(とはいえこれも料金の内だ)解熱剤を飲ませると、玲人は少し落ち着いたのか再び眠りについた。
一段落つくとあらためて、とんでもない一日だったと思う。吾一が機転を利かせてくれたおかげで、玲人の命も名誉も守ることができたが、そうでなければ今頃大変な騒ぎになっていたに違いなかった。
(立ち直ってくれるといいけど…)
願うことはただ一つ。以前のように、大好きな音楽の仕事で活躍してほしい。これは美智だけの願ではなく、世界中にいる荻久保玲人のファンの総意だろう。今ここで玲人が立ち直れないまま、音楽活動を辞めてしまうなどということになれば、嘆くファンはどれだけの数だろうと思う。
(大丈夫、玲人さんならきっと大丈夫)
今までだって、様々な困難を乗り越えてきたのだ。きっと今回も、時間はかかるにせよ乗り越えてくれるはずだ。玲人の寝顔を見守りながら、美智はそう自分を鼓舞するしかなかった。
一方吾一は、病院の前で美智と大門と別れた後、里村のマンションに向かっていた。
玲人をバスルームで見つけた時、かろうじて流しっぱなしにしてあった湯を止めただけで、あとはすべて放り出してきてしまっていた。それらの後始末をするために、吾一は里村のマンションに戻ったのだった。
バスルームは玲人が発見された、その時の状態のままだった。血を溶かした湯も、玲人が腕を切った剃刀も。吾一はそれらの生々しい痕跡を全てきれいに片づけると、酷く疲労を感じて、休息を取ろうとリビングに向かった。
リビングにも生々しい痕跡はあった。おそらく玲人が零しただろうコーヒーがラグにしみ込んで、すっかり乾燥してしまっている。どんなシチュエーションでそれがこの状態になったのかは想像に難くない。すべてが里村の死をきっかけに狂い始めてしまったのだと思うと、やるせない気持ちになる。
里村が長年過ごしたこのマンションもそのうち売りに出すことになるだろう。おそらく二人が多くの時間を過ごしたであろうこの部屋も、いつかは他の誰かのものになる。里村自身、こんなにも早く自らの死が訪れることなど考えてもみなかっただろう。遺言など残しているはずがなかった。
せめて何か形ある物を玲人に遺してはいなかっただろうか…。
そこまで考えたとき、吾一はかなり重要なことを失念していたことに気がついた。
『…ごいち、おまえに、たくしたい、ものが………』
里村は確かに遺言を遺していた。死の間際、もう何もしゃべってくれるなという制止を振り切り、必死の想いで紡いだあの言葉を、どうして自分は今の今まで忘れていたのか。
『ひきだしに、…わたしの、おもい…が』
『わたして、ほしい…、あの…ひとに』
意味はわからない。しかし、里村は確かに何かを自分に託した。
「玲人さんに、渡してやらなきゃな…」
吾一は拳を固めて里村のマンションを飛び出していた。
〜To Be Continued…〜
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【追記】
ブログ拍手お礼♪
おーい様♪
羽鶴来センセイは、またいつかどこかで出演していただこうと思っております。
かっこいい吾一は次回…かな?
走れ吾一!!
無記名様♪
するどいツッコミありがとうございます(汗)。
羽鶴来センセイ、自分で「あまり刺激しないように」とか言っておきながら、自らドSにレイちゃんを責め立てております。たぶん、センセイもイラっとしたんだと思います(笑)。
アーサーさんは次回登場します。
牛歩の歩みな連載ですが、もう少々お待ちくださいませm(__)m
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