Perfect Love act4
人々の視線の先にいた人物はまさしく『ヴィクトリア』でぶつかったあの少女だった。
これは一体どういう偶然なのだろうと思う。否、これは偶然などではなく必然の出会いなのか。
白い華やかなドレスを身にまとった少女はこの会場にいるどんな女性よりも可憐で美しく、目を引いていた。いや、自然と引き寄せられてしまうのだ。
人間離れした彼女の無垢な美しさが万人の目を引き付ける。男性ばかりか女性までもが惚けたように彼女に見とれていた。
アーサーの足はまるで吸い寄せられるように自然と少女へと向かっていた。今までどんな女性にも感じたことのなかった胸の高鳴りを抑えることができなかった。
少女の周りには4,5人の男たちが群がり彼女の気を引こうと懸命に話しかけていたが、アーサーの顔を見るなりみな引け腰になった。圧倒的なオーラと美しい容姿、彼の持つステイタスがその場にいた男たちに格の違いを思い知らせ、戦意を喪失させた。
邪魔者がいなくなり、ようやくアーサーは少女と対峙することができた。
「やあ」
当然覚えているものと声を掛けたが少女の顔にはクエスチョンマークが浮かぶ。女性に顔を忘れられたことがないアーサーにとっては少なからず驚きだった。
「昼に『ヴィクトリア』で会ったね。コンタクトレンズは大丈夫だった?」
「…あ……!」
少女がハッとした表情になり、昼間の失態を思い出したように顔を赤らめた。
「あの時はちゃんと謝らないで帰ってしまってごめんなさい。びっくりしちゃって…」
「いいや。君のような可愛い人に押し倒されるなら何度でもお願いしたいね」
アーサーの言葉に少女は一層困ったように俯いてしまう。こんなに美しいのに少女はひどく人見知りで恥ずかしがり屋のようだ。自分の美貌をひけらかすような素振りもなくアーサーに媚を売るわけでもない。今まで見たことのないタイプでますます興味をひかれる。
二人きりで話がしたいと思ったが、ここはギャラリーが多すぎる。美しい一対は会場の視線を一身に集めていた。
そこでアーサーは一計を案じることにする。多少汚い手だが、警戒されずに二人きりになるにはこうするしかない。
「何か飲み物は?」
手始めにアーサーがそう問うと、少女は、
「アルコール以外だったら何でも」
と言う。ボーイを呼びとめてジュースを持ってこさせると、アーサーの手からグラスが手渡される。しかし、
「あっ!」
グラスは少女の手に渡ることなく床に落ちてしまった。ガラスが砕け散り、少女の純白のドレスは無残にもジュースの色に汚されてしまった。
「ど、どうしよう…」
「これは申し訳ない」
動揺する少女を尻目にアーサーは駆け付けたボーイに素早く指示をする。
「君、シミ抜きをお願いできるかな。あと個室も」
「はい、こちらにどうぞ」
ボーイの案内ですぐに二人は個室に通された。
もちろん、すべてがアーサーの思惑通りである。アーサーはわざと、彼女が受け取りにくいようにグラスを手渡したのだ。そして、彼女がそれを取り損ねるだろうことも全て計算の内だった。
すぐに専門の職人の手によってシミ抜き作業が行われたが、ドレスは元通りにはならなかった。
「すまなかったね。せっかくのドレスが台無しになってしまった」
「いいえ、そんな…」
「名前を聞いてもいいかな。それと連絡先も。あとで代わりのドレスをプレゼントさせてほしい」
アーサーの申し出に少女は大きく手を振った。
「いいえ、あれは私も悪かったんだし…」
「私はアーサー・ギルフォード。会社をいくつか経営している。君は?」
「レイジ・オギクボといいます」
「レイジ…?変わった名前だね」
「日本人なんです。みんな、短くレイって呼びます」
アーサーが意外だという反応をすると、
「祖父がロシア人なんです」
とその訳を教えてくれた。彼女の容姿は日本人的特徴をほとんど現していない。彼女の持つ白い肌や色素の薄い瞳はスラブ系の血の成せる業だったようだ。
「じゃあ、私もレイと呼んで構わないかな?」
「…はい」
「では、私のこともアーサーと呼んでくれるかい?」
「え、え…と、…はい」
何とか会話の第一歩は成立した。あとはアーサーの持ち得る社交術を駆使して相手の心を開いていくしかない。
「それにしても発音がきれいだね。こちらで育ったのかい?」
「いいえ、育ちは日本です。パリには二年前から住んでいます」
「仕事で?シノン氏と交流があるということはモデルかな?君ならどんな服も似合いそうだが」
そう言うとレイは恥ずかしそうに俯いてしまう。否定しないということは本当にモデルなのだろうか。確かに、すんなりと伸びた細い手足は十分に鑑賞に値する美しさだとアーサーは納得する。そうなると、秘書から聴いた同棲しているというモデルというのは彼女ということなのだろうか。
さらに根ほり葉ほり聞き出そうとしていたところに、
「よろしいかな」
ノックの音と共に男性の声が聞こえ、タイムオーバーをアーサーに知らせる。ドアの向こうから現れたのはやはりシノン氏であった。
「ユベール!」
レイの声が嬉しそうなのがアーサーには気にくわない。密かに敵意の視線を向けるアーサーを尻目に、シノン氏がまるで自分の優位を見せつけるかのようにレイを抱き寄せた。
「レイ、大丈夫だったかね?」
シノン氏の言葉に皮肉めいたニュアンスを感じたのは気のせいだろうか。アーサーの浅はかな奸計などお見通しだと暗に伝えているような言い様である。
「ユベール、ごめんなさい。ドレスにジュースをこぼしてしまって…」
「気にしなくていい。さあ、今日はもう帰ろう。君も話し疲れただろう」
シノン氏はまったくアーサーを見ない。まるで存在しないかのような扱いにかすかな憤りを感じた。
「またお会いしましたね、ムッシュ・シノン。今、彼女と偶然の再会に話に花を咲かせていたところでした」
シノン氏がようやくアーサーに視線を向ける。屈辱的だったがアーサーが切り出さなければそのまま二人は自分を無視して帰ってしまいそうな雰囲気だったのだ。
「そうでしたか。またご迷惑をおかけしてしまったようで。我々はここで失敬するよ。君はパーティーを楽しみたまえ。美しい花はよりどりみどりだ」
口調は柔らかいがやはり言葉にトゲを感じる。最後の一言は(他にも美女はいるのだからレイにかまうな)という警告にも取れる。
二人の男が静かに火花を散らしているとは知らないレイが、
「あの、今日はありがとうございました。…おやすみなさい」
日本式のお辞儀をして立ち去ろうとする。
すると、ドレスの下からレイが履いていたものと思われるハイヒールが現れた。履き慣れず、足が痛かったのだろう、足もとまで隠れていたドレスの中でこっそりと脱いでいたらしかった。歩いた時の違和感に、ハイヒールを脱いでいたことに気づいたレイが気恥ずかしそうに顔を赤らめる。
シノン氏への敵対心に燃えていたアーサーは、その微笑ましい光景に、一瞬にしてそんな殺伐とした気分を殺がれてしまった。
「シンデレラ、忘れ物ですよ」
アーサーが靴を揃えてレイの足もとに運んでやると、
「ありがとう…」
レイは恥ずかしそうに頬を染めてハイヒールに足を通す。
「レイ、ちょっと待って」
アーサーは胸のポケットから名刺を取り出してレイに手渡した。
「連絡して欲しい。いつでも会いに行く。…君のことをもっと知りたい」
名刺を渡すとき、アーサーはすかさずレイの手を取って、その甲に軽いキスをした。するとレイは過剰なほどビクリと体を震わせてあわてて手を引っ込めてしまった。キスを見せつけることによってシノン氏への宣戦布告をする意図もあったのだが、残念ながらレイには嫌われてしまったようである。
「さあ、帰ろう」
明らかに不愉快な顔になったシノン氏は、レイを急かして部屋から出て行ってしまった。
しかしドアの外からレイの声がしたので、気付かれないように少しだけドアを開けて二人の会話に聞き耳を立てる。
「ユベール、お腹すいちゃった」
レイはまるで子供のような口調で甘えている。それに対しシノン氏も先ほどの不機嫌が嘘のように優しい声で、「どこかで食べて帰ろう」と返している。
「あそこにあったピンク色のテリーヌ食べちゃダメ?すごくおいしそうだったの」
アーサーは思わず吹き出しそうになる。まるで子供の会話だ。ついでに女性らしくもない。
やがて二人の会話は聞こえなくなり、アーサーには温かい、胸をくすぐられたような感覚が残った。こんな感覚はいままで経験がなく、戸惑うしかない。しかしそれがあの美しい少女によってもたらされたというのは悪い気分ではなかった。
〜To Be Continued…〜
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コメント
れおんさん!おはようございます♪
先日は!ご訪問、ありがとうございました!!コメントまで貰っておきながら削除してしまい・・本当に済みませんでした(謝)
記事をUPしていた時は、気が動転していたのかもしれません。あの記事の内容は・・詳しくは言えないんですが・・
●年来のダチのことで・・ちょっとショックな出来事があり・・例により落ち込んでしまったんです・・ですが・・コメントを頂き、落ち込んでばかりもいられないんだよ・・自分自身何が出来るか・・そう思い直せたのもれおんさんのおかげだと思います・・
なのに、コメント削除してしまったこと・・本当に済みませんでした!!
お話の方、読まさせて頂きました♪
レイちゃんを巡ってのユべールとアーサーの目に見えぬ戦い!凄いですね♪冷戦のような駆け引きが読んでいて面白いです♪今後の二人に目が離せません!!
アーサーの策略も面白かったです!こなれてる感がイイ!!(笑)
また、お邪魔させて頂きますね♪
No:9 2007/08/30 09:10 | 古田 #WGr3aBVIURL[ 編集 ]
大丈夫ッスか!?
落ち込んでいる人に「頑張れ」という言葉を使ってはいけない、というセオリーを無視してもこの言葉を古田さんに送りたかったのです。なんかすごく落ち込んでいるみたいだったので…。多分、あのコメントを読んだ人はみんな古田さんを心から心配したと思うよ!なにがあったかはわからないけど、元気出してくださいね!古田さんの書く小説も好きだけど、古田さんの元気な愚痴も好きなので☆
私の小説は今日のアップ分で完結となります。でも、アーサーとレイの物語はまだまだ続くので、よろしかったらお付き合いくださいませ〜♪
No:10 2007/08/30 09:42 | れおん #-URL[ 編集 ]
ご心配おかけしまして!済みませんでした(汗)
れおんさん!!コメント読みまして・・マジで嬉しかったです!!ありがとうございます!!(涙)
まだれおんさんと知り合って日は浅いんですが・・・
ス・・すみません!!俺からのバトンっ!・・受け取って貰えますか??つーか!!受け取ってください(苦笑)
図々しくて済みません!!(涙)
詳しくは「星降る夜に・・・」にて・・
No:11 2007/08/30 12:56 | 古田 #WGr3aBVIURL[ 編集 ]
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