Perfect Love act27
次の日の朝、ユベールのもとに目を真っ赤に泣き腫らしたレイが帰ってきた。昨夜、アーサーからレイを一晩預かると電話が来た時には二人が大人の関係に至ることも覚悟していたが、レイの説明曰く、
「泣き疲れて、気がついたら朝になっていた」
ということらしかった。
疲れるほど泣いたにしては、レイの表情は晴々としていた。一晩のうちにレイを大きく変えるような変化が訪れたのだろうとユベールは推測した。それがユベールにとって歓迎できない結果になろうとも、それがレイの幸福ならば受け入れなければならない。
「ユベールにも謝らなきゃいけないことがあるんだ」
唐突にレイが言った。心臓をギュッと掴まれたように胸が苦しくなった。
「僕、本当は少し前から昔のこと思い出してた。でも、そしたらユベールの傍にいられなくなるって思ったら恐くてユベールに言えなかった。ごめんなさい…」
誰よりも多くの時間を共に過ごし、誰よりもレイを見てきたユベールがそのことに気がつかないはずがない。ユベールがそれに気づいたのは、やはり、あの男が現れてからだ。レイがあの男に乱暴されそうになり発作を起こして帰ってきた辺りから、レイに変化が見られるようになったと思う。時折苦しそうに顔を歪めたり、ぼうっと思案にふけることが多くなった。そんな時のレイの表情は、ひどく大人びて見えて、見ている方が胸を締め付けられるような思いをしたものだった。
レイが記憶を取り戻して普通の生活ができるようになったら、ユベールがレイを引き留めている理由はなくなる。レイの心の回復を誰よりも願っているように見えて、実はそれを妨げていたのが自身であることにも気づいていた。
レイのユベールへの依存。それが何よりレイの自立を妨げていることに、とっくに気づいていた。臆病だったのはユベールも同じだ。
「ユベールに甘えて、頼って、独占してるのが心地よくて、ずっとこのままでいたいって思ってた」
それはユベールとて同じだ。レイを甘やかし、レイが自分なしでは行動できないように緩やかに仕向けたのは自分だ。レイが自分だけを見るように、レイを永遠に束縛したいと願ったから。
「でも、それじゃダメだってようやく気が付いたんだ。もう、ユベールを解放してあげる。これからは一人で頑張っていくから。僕、強くなるから」
解放なんてしないでくれと心が叫ぶ。君なしで、これからどうやって生きろというのだと嘆き、悲しむが、これが彼の選択なのだ。
「だから、僕、もうここを出て行かなくちゃ。このまま一緒にいたら、また僕はユベールを頼ってしまうから…」
引き留めたいという心を押し殺し、ユベールは沈黙を続ける。今言葉を発すれば、レイの決意を鈍らせるみっともない言葉が口をついて出そうで怖かった。
(行くな、行かないでくれ。私を、一人にしないでくれ…!)
言葉は喉元まで出かかったが、寸でのところで押しとどめる。
もう、自分にできることは、レイの未来を祝福することだけだと、そう言い聞かせて。
「…今までありがとう、ユベール」
(受け入れろ、受け入れなければならない。それが彼の幸福ならば…)
今までとはまるで違う、少し距離のある抱擁を受けながらユベールはいつかの言葉を思い出していた。
『ずっとそばにいてくれる…?』
(身体は離れていても、心はいつも君と共にある)
そっとレイの背中に手を添えて、その華奢な身体の感触を心に刻みつけたユベールであった。
〜To Be Continued…〜![]()
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