Perfect Love act25
アーサーとレイは、パリ郊外のギルフォード家別邸へと向かっていた。一か月前とまったく同じシチュエーションであるにも拘らず、車中の空気はまるで違っていた。一か月前は景色の美しさと未知の場所への期待でキラキラと輝いていたレイの瞳が、今はまるで何も見えていないかのように暗く淀んでいる。その姿はあまりにも痛々しく、目を背けたくなるほどだった。
アーサーはガーナーのような専門家ではないので、レイを傷つけない一番良い方法などわからない。だからアーサーは彼自身の方法でそれを行うしかない。
レイを覆っている、薄いが強固で、透明だが中身の見えない殻を打ち破ることができるのは自分だけなのだと確信していた。
レイに会いに行く前に、アーサーはガーナー医師に電話をしていた。自分がおぼろげながら立てていた推理が本当なのか、それを確かめるために。そしてレイを傷つけずに、その殻を破る方法を教えてもらうために。
ガーナーは言っていた。もうレイにも覚悟はできているはずだと。ただ、それを受け入れてくれる存在が必要なのだと。父親というキーワードについても詳しい情報は教えてはもらえなかった。知りたいのならレイから聞けばいいと言う。
どんな事実を聞こうとも受け入れる覚悟はできている。そしてレイに自分の想いをはっきりと告げよう。アーサーにも、全ての覚悟はできている。
「レイ。もう、やめないか」
あの時と同じように庭を散歩しながら言葉を切り出す。どうか、レイに届くようにと願いを込めて。
「…何のこと?」
わずかに肩が震えたのをアーサーは見逃さなかった。
「もう思い出しているんだろう?何もかも」
これはアーサーの勘だった。一か月前にレイが口にした呟きだけを頼りに、勝手に推理したにすぎない。それでも、アーサーには確信があった。最近のレイの行動、言動。全てが一つの答えに向かっているように思えた。
「何、言って…」
「このままじゃいけないと、君だってわかっているんだろう?だから今、君は悩んでいる。違うか?」
「………」
俯いて髪が顔を覆ってしまった横顔から表情を読み取ることはできない。しかし、唇を強く噛みしめている口元だけは覗えた。
「君のしていることはただの逃避だ。痛みから逃げているだけだ」
アーサーがそう言うなりレイが勢いよく振り返った。髪を振り乱したその表情には鬼気迫るものがあった。涙を流しながら、強く、アーサーを睨みつけている。その表情は今までアーサーが見たこともない激しいもので、到底10歳の子供のする表情ではなかった。
「逃げることが、そんなにいけないことなの!?思い出すことも嫌な過去を、思い出さずにいることが罪だというの!?…貴方にはわからない!記憶が、どれだけ僕を苦しめてきたか、貴方にはわからない…!!」
それは、レイを覆っていた優しく、強固な殻が音を立てて崩れた瞬間だった。
〜To Be Continued…〜![]()
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