Perfect Love act19
気がつくとレイのことばかり考えている。
彼の表情、彼の言葉、そして彼の唇…。
その感触は柔らかく、吐息は甘く、すべてがアーサーを酔わせた。百戦錬磨のアーサーがキス一つで理性を失うなど、あの時はどうにかなっていたとしか思えない。…しかし。
『キスは嫌じゃなかったよ…?』
レイはアーサーが怒って立ち去ったと思っていたようだ。何とかフォローしようと思って出たのがそんなセリフだったらしい。
『何か、僕が気に障ることしたのならごめんなさい』
アーサーはそのまま立ち去ることができなくなった。もしそうしていたらレイは、本当にアーサーに嫌われたと勘違いしていただろう。
『だから、行かないで…』
縋るような言葉をアーサーは無視することなどできなかった。
それから二人は、レイの服が仕上がるまで他愛もない話をして過ごした。目の前に餌をぶら下げられた状態のアーサーにとっては、ある意味酷な時間だったが。
レイの服はモーリスの宣言通り、彼の卓越したクリーニング技術によって元の美しい姿を取り戻した。レイは大喜びで、すっかりモーリスに懐いてしまった。そしてモーリスもレイに手放しで褒められ、皺だらけの顔をゆるませてひどくうれしそうだった。
出会って間もなかった頃、レイは人見知りするタイプだと思っていたがそれはまったくの間違いだったことに気づく。レイは人の心を和ませる天才だ。レイと一言でも話せば皆彼を好きになった。レイが帰る時など、皆がエントランスの外まで出て見送ってくれたほどだった。ギルフォード家の人間でもそんな待遇は経験したことがない。
翌日にはシノン氏からお礼の電話があった。レイがとても喜んでいたという。
シノン氏がなぜアーサーにレイを預ける気になったかは謎だった。あんなことをした直後だったというのに、何か考えるところがあるのか、未だにその意図を掴めずにいる。
今、レイは何をしているのだろう。レイを回想するにも二人の思い出はあまりにも少なすぎる。毎日でも会いたいところだがお互い仕事を持つ以上、そうもいかない。特に今は、アーサーの事情がそれを許さなかった。
「ガルストン、午後の予定は入っていなかったはずだな?」
書類を届けにきた秘書に確認をいれる。
「ええ。午後からは特にこれといった予定はございません」
「では私は午後から終日フリーだ。邪魔するなよ」
「…わかってます。しかし携帯の電源は入れておいて下さい。いつ病院から連絡があるかわかりませんから」
ガルストンの言葉に、アーサーは苦々しく頷く。
「ああ。わかった」
昨日父親の病床を見舞ったばかりのアーサーは、その時の光景を思い出し、胸が塞がれるような気分になった。
父親はもう口も利けないほど衰弱していた。灰色にくすんだ肌、落ち窪んだ目、まだ50を過ぎたばかりだというのに髪は抜け落ち、残った髪も真っ白だった。医者ではなくても、もう父親の命がそう長くはないことがその様子でわかった。
あと一週間保つかどうか、と医者は言った。アーサーもその覚悟はできていた。父親が亡くなれば、いろいろとアーサーは身動きが取れなくなるだろう。その前に一目でもレイに会いたかった。
先日教えてもらったレイの携帯番号に連絡してみるが繋がらない。仕方なくシノン氏に連絡をすると、何とレイは今日から水泳を習いに行ったという。それを聞いてアーサーは居ても経ってもいられなくなった。水泳ということは、あの面積の少ない水着を身につけ、必然的に肌を晒すことになる。
(レイが水着…!?絶対にだめだ!)
アーサーはシノン氏から教えられたスポーツクラブへとすぐさま車を飛ばしたのだった。
〜To Be Continued…〜![]()
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