The last love word act4
里村は病院に運ばれてすぐに息を引き取った。
頭を強く打ったために脳挫傷を起こしていたということだった。
吾一は医者に食らいついて、「生き返らせろ」と無茶苦茶なことを言い募ったが、そんなことはできないことくらい吾一自身よくわかっていた。
理解できない、理解したくない。
自分の目の前で起きた出来事、里村の弱々しい笑みも、安らかな顔で目を閉じたその死に顔も。誰か嘘だと言ってくれと願うが、どんなに待っても吾一には里村が死んだという現実しか残らない。
自分たちの会社の社長である寺内和成に連絡を入れると、彼もまた絶句していた。自分の最も信頼する、旧知の仲である里村が突然の事故で亡くなったと聞かされて、信じられない思いだっただろう。急いで駆け付けた寺内は里村の亡骸に対面すると、「ええ顔や」と言って苦く笑った。確かに里村の死に顔は生前の険しい顔付きが嘘のように穏やかなものだった。おそらくそれは死ぬ間際に彼の心をよぎったのが恋人のことだったからだろう。
寺内も同じことを思ったのか、玲人のことを口にした。
「あのべっぴんさんには連絡したんか?」
どうやら吾一の知らないところで玲人と面識があったらしい。そんな口ぶりの寺内に、吾一が首を振ると、寺内はやるせないため息を吐いて言った。
「つらい役目かもしれんけど、お前から教えてやってくれへんか?」
吾一は一瞬拒絶の言葉を口にしかけて、止めた。それは自分にとっての絶対的権力者である寺内の言葉だからというわけではなく、自分しか適任者がいないと理解したからだ。里村の事故の場面に立ち会い、その死を看取った吾一がそれを知らせるのは当然のことのように思われた。
玲人にとって、事務的に第三者から知らされるのと、吾一から知らされるのと、どちらがマシなのかは分からない。しかし吾一なら、共通の思い出を共有する人間として玲人を慰めることができるのではないか。
吾一には重責だったが、いつか誰かが知らせなければいけない。里村の死を知らされた時の玲人のショックを想像すれば気が重い。しかしそれができるのは自分だけなのだと奮い立たせて、吾一は今、里村のマンションの前にいる。
里村の部屋には明かりがついていて、室内に玲人がいることが確認できた。
責めを受ける覚悟はできている。
あの時、吾一があんなことを言ってからかったりしなければ、里村は車の外に出ることはなかったかもしれない。おそらくあの時里村が吾一に言いかけた言葉の続きは…。
『吾一、やっぱりな…』
コーヒーを飲み過ぎないようにという玲人の言葉をうけて、里村は代わりのものを吾一に頼もうとしたのではないか。だとすれば、里村の死の責任は自分にもある。
事故の直接の原因はトラック運転手の飲酒による居眠り運転らしい。昼間から堂々と飲酒運転などしていた若い運転手は確かに法律で裁かれるべき憎き犯罪者だ。しかし、里村を殺してしまった一因は自分にもあるような気がしてならない。できることなら自分が代わりに死ねばよかったとさえ思う。自分には死んでも悲しんでくれるような恋人も親もいない。母親はどこかで生きているだろうが、14歳の時に家を出て以来連絡さえしたことのない息子のことなど、彼女も忘れていることだろう。
どうして里村が死ななければならなかったのだろうと思う。確かに吾一にはとても厳しくて、大きなミスを犯した時には鉄拳が飛んでくることもあった。しかしそれ以上に自分に厳しい人だった。吾一よりも先に事務所に来て掃除をし、吾一よりも遅くまで残って仕事をしている里村を吾一は心から尊敬していた。
チーマーあがりのろくに学校も通っていない頭の悪い自分を根気よく教育してくれた。分からないことを聞いても馬鹿にしたりすることは決してなかった。同じことを質問しても、何度も同じように丁寧に説明してくれるような人だった。
生意気な性格ゆえに上司や先輩とぶつかることもしばしばで、どこにいっても仕事が長続きしたことのなかった吾一が五年もの間、今まで頑張ってこられたのも全て里村のおかげだった。
これからもずっと一緒に仕事をしていけると思っていた。まだまだ未熟な自分をこれからも厳しく指導してほしかった。
どうして神様というやつは、いい人間に限って早くあっちの世界に連れていってしまうのだろうと、吾一はそれが悔しくてたまらない。それは自分の父親しかり、チーマーから足を洗うきっかけになった親友しかり…。いつも大切な人ばかりが先に逝ってしまう。そしていつも後悔するのだ。どうしてもっと優しくできなかったのだろう、ちゃんと止めてやることができなかったのだろうと。
今回の里村の死についても責任を感じている吾一は、玲人が自分を責めることでこの悲しみから立ち直ってくれるなら、どんな責め苦にも耐える覚悟をしていた。どんな罵詈雑言も、玲人の言葉なら受けとめる。そんなことしか今の自分にできることはないと思っている。そしていつの日かその傷が癒えた時には、笑って思い出話ができるようになればいいと思う。
里村の部屋の前に辿り着いた吾一は、震える指でインターフォンを押す。「はーい!」という玲人の明るい声が聞こえ、吾一はすぐさま踵を返して逃げたくなったが、自分を奮い立たせてその場にとどまった。ガチャリと施錠を開ける音がして、吾一は呼気を震わせた。
〜To Be Continued…〜![]()
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