Je te veux 〜after Arthur〜 act30 (完結)
生産性よりも従業員の福利厚生や待遇の改善に力を入れたアーサーの改革は、当初反対する者も多かったが、少ないコストでの増収という好結果を招いた。ヨーロッパ経済の中心を担っていた『IBC』が立ち直ったことにより、その経済効果は欧米全体にも広がり、少しずつだが一時の不景気は好転しつつある。
『IBC』を復活に導いたアーサーは稀代の経営者として注目されるようになり、アーサーが執った従業員重視の改革は「IBC方式」とよばれるようになった。そうしてアーサーがCEOのポストに戻って三年が経つ頃には『IBC』は昔日の繁栄を取り戻していたのであった。
34歳になったアーサーに変化があったとすれば、とある令嬢と婚約を交わしたことである。
相手は24歳のスペイン人の女性で、溌剌とした美人である。彼女の家は高級車として名高い自動車メーカーを経営している一族で、母親の血筋を辿れば、かのハプスブルグ家の末裔だという、これ以上ないほど条件の良い相手である。しかしアーサーが婚約を決めたのは彼女が美人だったからでも、結婚相手として相応しかったからでもない。
相手側からこの話を持ちかけられた時、アーサーははっきりと断った。自分には結婚をする意思はない。それは相手に不足があるからではなく、自分自身が生涯独身を貫くことを決めているからだと。しかし相手側の家から返ってきた返事は切羽詰ったような懇願で、どうしてもそうしてくれないと困るという不可解なものだった。
「とりあえず娘と話し合ってみてほしい」という彼女の両親の強い要請に負け、本人と顔を合わせることになったのだが、どれだけ押しの強い女性だろうかと身構えていたアーサーは、本人のあからさまに気乗りしない様子の態度に拍子抜けしてしまった。
そして彼女は会って早々にアーサーに向ってカミングアウトをした。自分はレズビアンで現在恋人がいること。結婚を迫る両親に女性の恋人がいることを明かしたが大反対され、余計に口煩くなってしまったこと。このままでは恋人にまで妨害の手を伸ばしかねない両親が、彼女との交際を条件に出したのがアーサー・ギルフォードとの結婚だったこと。今日アーサーに会い、どうにかして婚約に持ち込むことができれば恋人に対する嫌がらせは行わないということ、などなど。ちなみにそういった裏事情は両親から口止めされていたらしいのだが、レズビアンの自分が男と結婚なんてできるはずがないと、さばけた性格の彼女は気持ちいいくらいにそう言い張った。
おそらくそれはアーサーがゲイだと思われていることも関係しているのだろう。レイとの騒動以来、アーサーには「女装癖のある男が好みのゲイ」という激しく不名誉な通説が定着してしまっていた。レイがミュージシャンとして成功し、アーサーも『IBC』のトップとして復活を遂げた今ではそんな俗説も薄れつつあるが、頭の固い中年層の人間は未だにそんなたわごとを信じている輩も多い。だから彼女の両親もアーサーを選んだのだろう。
自分が安くみられた件についてはひどく腹立たしかったが、彼女のことは気に入っていた。その性癖ゆえに自分に媚を売ることもなければ、女性扱いを嫌う彼女には無用な気を使う必要もない。
アーサーも、自分には一生涯心を捧げている人がいると伝えた。彼女はそれを承知していて(相手がレイだということは言わずともわかっているようだった)、仮面夫婦でもよければしばらく婚約だけでもしてほしいと言ってきた。それで問題を曖昧にするのではなく、その間に親から自立する準備をしたいという話だった。
その若さのわりに、しっかりとした将来のビジョンを持ち、相手を心から慈しみ深く愛するその姿勢に心打たれたアーサーは婚約を了承した。26歳の自分が世間の荒波に負け、レイの手を放してしまったことが彼女たちの姿に重なり、彼女たちにはそんなことにならないようにという気持ちも少なからずあったのは事実だ。
しかもファッションビジネスに乗り出そうとしている彼女には、紡績産業が母体である『IBC』とのコネクションを作るという目的もあった。そのしたたかさにはアーサーも舌を巻くばかりで、もしその時はビジネスパートナーとして喜んで協力するという約束も結んだ。
だから婚約したといっても、彼女とは男女の関係というよりも、友情のそれに近い。週に何度か彼女からかかってくる電話も恋人同士の甘い会話など程遠い、ビジネスや経済の話ばかりで、そんな彼女との関係をアーサー自身楽しんでいた。
婚約を解消する際にはそれなりの騒動になることは双方覚悟の上で、そのリスクはアーサーも彼女も平等に背負うことになる。しかし彼女はできるだけアーサーに迷惑をかけたくないと(婚約を了承した時点でそれなりに迷惑を被っているのだが)、その理由については自分に非があるように公表すると言い張った。それしきのスキャンダルで今更自分の地位が揺らぐことはないと自信を持っているアーサーには、彼女の矜持は無駄に意地を張っているようにしか思えなかったが、それでも彼女が自分の力で未来を切り開くためにそれが必要な試練なのだとしたら、アーサーは彼女のやり方を見守るしかないのだろう。
そんな風に仕事でもプライベートでも多忙にしていたアーサーの元に、ある日、意外な人物から連絡が入った。それはひどく困惑した様子のユベール・ド・シノンからで、自分を若造扱いしていた高慢な印象が強いアーサーは何があったのかと心配したのだが。
「レイが自殺を図った」
そんな報告を受け、アーサーは呆然としたのであった。
〜『Je te veux 〜after Arthur〜』END〜![]()
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【あとがき】
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
時間軸無視しまくりのグダグダ連載でしたが何とかエンドマークをつけることができました。
連載中、ブログ村や拍手にポチって頂き、執筆の励みになりました。
次回から『Sweet Bitter Chocolate』から三年以上経ったレイちゃんのお話を書きたいと思います。
アーサーは34歳、レイちゃんは38歳(!)。
BLというよりはMLって感じの年齢になりましたね…。
次回のお話にはアーサーは出て来ませんが、アーサーに知らされた衝撃的な報告の理由が明らかにされる予定です。タイトルは『The last love word』になる予定です。
これからもよろしくお願いします♪





コメント
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No:280 2008/06/24 22:55 | #[ 編集 ]
秘密コメントのゲストさま♪
Kさま、いつも温かいコメントありがとうございます♪
ようやくアーサーのその後を書くことができて私もホッと肩を撫で下しております。
レイちゃんのお話の方は当初act20くらいでサラッと終わらせる予定だったのですが、書いているうちにダラダラと長くなってしまい、結果的にはアーサー編よりも長くなってしまいました。かなり自由に書いたのでレイちゃんがキャラ崩壊をおこしている場面も多々ありますが、筆者の未熟ゆえと大きな心で受け止めていただけると嬉しいです。
そしてKさま御贔屓のアーサーさんには『The last love word』の次のお話で活躍していただく予定です。そして、そのお話でこのシリーズを締めたいと思っています。完結までお付き合いいただけると幸いでございます。
コメントありがとうございました_(._.)_
No:281 2008/06/25 14:48 | れおん #-URL[ 編集 ]
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