Perfect Love act16
二人は美しく手入れされた庭園を無言のまま歩いていた。
美しく咲き乱れたバラに見とれて言葉を失くしていたわけではなく、実のところアーサーはどう話を切り出すべきか迷っていた。ここへ至るまでの車中でも、自分がレイを緊張させているのがわかっていたので、当り障りのない会話しかできなかった。本当はあの夜のことを謝りたいとずっと思っていた。それなのになかなか言葉が喉から先に出て行ってくれない。こんなもどかしい思いをしたのは初めてで、自分の不甲斐なさに腹立たしさすら覚えた。
「あ!」
ふいに、レイが沈黙を破るように声を上げた。何事かと思わず身構えたアーサーに、レイが何処かに指をさして言う。
「今、リスがいた!ちっちゃいリス!」
そんなことかと弛緩したアーサーだったが、そんなレイのおかげで張り詰めていた緊張感がなくなった。
「レイ」
名前を呼ぶと、レイの大きな瞳がアーサーを捉える。「なあに?」と甘い声が聞こえてきそうな仕草で小首を傾げる姿は、思わず抱きしめてしまいたくなるほど愛らしい。
いや、これはどんなに可愛かろうと自分と同じ男なのだと必死に自分に言い聞かせ、思わず手を伸ばしそうになった自分を制する。
「ずっと君に謝りたいと思っていた。あの日、私は君にとても酷いことをした。謝って許してもらえるとは思わないが…」
あれは誤解だったのだと、自分は何も知らなかったのだと言いたかったが、どれも言い訳じみていて、それ以上の言葉が出てこない。
するとレイがフッとかすかに笑って言った。
「僕、ギルフォードさんのこと怒ってません。だって、男のくせにスカートなんかはいてた僕も悪いんだし…」
誤解されるような格好をしていた自分も悪いのだとレイは言う。
おそらくレイは自分の意志で女装をしていたわけではない。例え自分の意思だったとしてもそれを暴力の理由にしていいはずがない。
「みんなに僕とユベールのこと、変な関係だって言われてることも事実だし。何でそんなこと言うのかわからないけど、でも僕、ユベールと変な関係なんかじゃないんです。ユベールは僕の…、僕の…お母さん?」
「お母さん?お父さんじゃなくて?」
アーサーが指摘すると、レイは頬をふくらませて反論する。
「お父さんなんかじゃありません、ユベールはお母さんです!優しいし、お料理上手だし、…抱きしめてくれるし」
なぜそんなにムキになるのか分からないが、最後の一言はやはり引っかかる。普段、二人がどの様な生活をしているのか気になるところだ。
アーサーが無用な嫉妬に頭を悩ませていると、突然レイが声を上げた。
「あ、僕あれ乗りたいな!」
ため池に向かってレイ駆け出す。どうやら池に浮かんでいるボートに興味津々の様子だった。
この庭はすべて英国式の庭園で、自然を模した造りになっている。この池も湖を模したもので人工的なため池だった。ボートも人を乗せるために作られたものではなく、ただの風景の一部だ。
そう説明すると、レイはひどく残念そうに項垂れた。
「僕、ボートに乗ったことないから乗ってみたかったな…」
そんな姿を見ると、許可をしない自分が悪者になったような気分になる。
ボートは大の大人が二人乗るのに十分な大きさだったし、見た目には十分乗り物としての機能を果たしそうだった。
「わかったよ。その代わり、私のことはギルフォードさんではなくアーサーと呼ぶんだ。いいね?」
とたんにレイは表情を輝かせて言った。
「ありがとう、アーサー!」
たったそれだけのことで相好を崩したアーサーは、まんまと無意識の小悪魔の罠に引っ掛かってしまったのであった。
〜To Be Continued…〜![]()
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