Perfect Love act14
ガーナーが語ったレイの過去に起きた様々な出来事は、実に凄惨なものだった。
思い出すたび、アーサーは忌々しい気分になる。
二年前、レイの華々しい人生はある事件によって大きく狂ってしまった。
おそらく、一番信頼していただろう相棒の手で。薬物で発狂した男によって顔面を損傷し、それ以上に、レイの人格が壊れてしまった。
『記憶退行』というのだという。あまりにも耐えがたい苦痛を感じると、人間はその記憶をなかったことにしてしまうことがあるという。
今、レイは10歳までの記憶しかない。言動が幼稚に思えたのはそのせいだったのだ。
そしてもう一つが『パニック障害』。レイの場合、強引な接触などの強いストレスを感じると心臓発作に似た症状が出る。まさに昨夜、アーサーが引き起こしたあの発作のように。
すべて自分の勘違いだった。
シノン氏とレイの出会いは五年前、『CHINON』の低迷期にイメージモデルとして起用されたのがきっかけらしい。その当時すでにアジアで抜群の知名度を誇っていたレイのおかげで『CHINON』は復活の足掛かりを得たのだという。
そして二年前の事件。『L-ing For(エリングフォー)』というユニットグループで人気を得ていたレイとケイゴの二人だったが、人気も絶頂だったある時、ケイゴが薬物所持で逮捕されてしまった。しばらく活動を自粛せざるをえなくなった時期に出会ったのがシノン氏で、レイは必死にユニットの存続のため尽力していたが、そんなレイにケイゴが暴力を振るうという惨事が起きた。すぐに病院に運ばれたレイだったが、マスコミはスーパースターを襲った悲劇を執拗に報道した。ついには病院の中にまで入り込み、ミイラのように包帯でグルグル巻きにされたレイを報道した。病院でさえ安息の場所でなくなったレイに救いの手を差し伸べたのがシノン氏だった。シノン氏はレイをパリに呼び寄せて、一流の腕を持つ医師を集めてレイの顔を復元させた。それが整形手術の顛末である。
顔は元に戻った。しかしレイの心は、おそらく何の悩みも苦痛もなかった10歳の頃のままだ。そんなレイにシノン氏が肉体関係を迫るはずもなく、過保護なほどの愛情も、レイを心配すればこそだった。
一人になるとすぐ発作を起こすレイをいつもそばに置いているうちに、リハビリを兼ねてモデルをさせるようになったのが始まりらしい。モデルを始めてから発作が少なくなったとガーナーは言う。
自分は何も知らないまま理不尽な怒りでレイを傷つけてしまった。この代償はとてつもなく大きい。今すぐレイに会って謝りたい。この気持ちをレイに伝えたかった。
しかし、レイは自分に会ってくれるだろうかと、アーサーはらしくもなく弱気になる。それにはまず保護者の許可が必要だろう。
アーサーは、携帯の履歴に残されたシノン氏の自宅へと電話を掛けたのだった。
結局、会議には遅刻してしまったが、二時間会議を遅らせても聞く価値のある内容だった。
「遅いですよ」
秘書のガルストンがその整った顔にわずかな不快を表して抗議する。アーサーはそんな秘書をギロリと睨みつけ、ここ数時間わだかまっていた怒りをぶつける。
「お前、俺に何か報告し忘れていることがあるんじゃないか?」
何のことについて言われたのかすぐに理解した様子のガルストンは、不敵にさえ見える笑みを浮かべる。
「おや。私は不必要な情報だと判断して削除したまでですが?」
「レイはシノン氏の愛人なんかじゃなかった。あの報告書は嘘だった!」
「報告書に虚偽はありません。ただ不必要と思われる部分は削除させていただきましたが」
「それが嘘だと言っている!」
「私は噂のお相手にあたる人物がレイジ・オギクボだったと書いたまでです。それを読んであなたがどう判断するか…。そこまでは私の責任の範囲内ではありませんから」
「お前よくもぬけぬけと…!お前が情報を操作したせいで俺は…!」
今にも掴みかかってきそうな勢いのアーサーからひらりと身をかわし、会議室のドアを開ける。
「さあ、みなさんお待ちかねですよ。ご機嫌を直してください」
口元は微笑ませたままで、しかし、眼鏡の下は冷徹な光を宿した秘書はまだ若いアーサーなど足元にも及ばぬ知略家だった。
アーサーは、フンッと鼻を鳴らすと気分を入れ替えるようにスーツの襟を正した。
「お前、覚えておけよ」
会議室に入る前に捨て台詞を残すのも忘れなかった。
〜To Be Continued…〜![]()
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