Perfect Love act13
アーサーにはそれが意味のあることには思えなかったが、ガーナーはそんなアーサーの白けた態度にも構わずに話し始めた。
「レイが初めてここへ来たのは一年前くらい前のことだった。レイはその前に別の精神科に通っていたがあの顔だからな。…色々とあったらしい」
ガーナーのその言葉は、以前にもレイが性的暴行を加えられたことがあるということを示唆していた。昨夜の愚行を少なからず反省しているアーサーとしては、いたたまれない気分にさせられる。
「だからここに来た時はシノン氏もレイもひどく警戒していた。特にレイはシノン氏の背中に隠れてなかなか顔を見せてくれなかった。まるで野生のリスみたいだったな」
ガーナーはその時のことを思い出したのか、ふと笑みを浮かべる。
「でも応接室に置いてあるピアノを見たとたん表情が変わった。ピアノを弾いていいかと訊いてきたんで、どうぞと言った。とたんにレイは目を輝かせてね。ベートーベンのソナタを弾きはじめた。『月光』の第三楽章だ」
知ってるかい?と問われてアーサーは首を横に振った。ベートーベンくらいは知っているが、好んでクラシック音楽を聴く趣味はなかった。
「かなりテクニックを要する曲なんだが、初めて聞いた時はぶったまげたね。名だたる演奏家達にまったく引けを取らないすばらしい演奏だった。その時オレは直感したんだ。この子はとんでもない才能を持ってるってね」
レイにそんな特技があるとはアーサーには初耳だった。そしてガーナーは、拳を握り締めてなおも熱く語る。
「しかもレイは作曲もするんだぜ。即興でスラスラ弾いてたりする。間違いない、レイは音楽の神様から愛された稀世の天才だ。モデルなんてやらせておくのはもったいない。早く以前のようにミュージシャンとして世に出してやるべきだとね」
「…ちょっと待て。以前のようにとはどういうことだ?レイはミュージシャンだったのか?」
「あんた知らなかったのか?レイは日本じゃ超有名なミュージシャンだったんだぜ?日本どころかアジア中で活躍してた。ジャンルはクラシックじゃなくてポップスだったけどな」
初めて知り得た情報の数々に、アーサーは漠然と違和感を感じはじめていた。なぜこのような重要な情報が自分のもとに入らなかったのか。本来なら、報告書に書かれていてもおかしくはない情報のはずだ。
「あんた、もしかしてレイのこと何にも知らないとか言うんじゃないんだろうな?まさかあんたもレイがシノン氏の愛人だって思ってるクチ?」
「違うって言うのか」
憮然とするアーサーにガーナーは、ハハ〜ンなるほどね、とニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。
「それであんたはムカついたんだな。あんな清純そうな顔してシノン氏の愛人なんかしてるレイが気に食わなかった?セックスなんて知りませんってな感じに澄ましてる化けの皮をはがしてやろうって?」
言い方は最悪だがガーナーの言う通りだった。レイがシノン氏の愛人だと知った時、ショックと同時に激しい怒りが込み上げて我を失った。しかもレイは男で、自分よりも年上で、整形手術をしているなど、信じがたい事実を知ってパニックになった。
「もしもだ。百歩譲って本当にレイがシノン氏の愛人だったとしよう。だからってそれがあんたに何の関係がある?愛の形は人それぞれだ。同性だろうと年が離れていようと二人が納得して付き合っているなら放っておけばいい。違うか?」
ガーナーの言うことはもっともだった。なぜ自分がこんなにも憤っているのか、その理由を考えようとすればするほど迷宮に迷い込んでいくようだった。その先に自分がもっとも認めたくない事実が待っているようで恐ろしい。
「…レイは整形手術をしているだろう。あんな女みたいな顔にするなんて、男の気を惹こうとしているとしか思えない」
レイを信じたいという思いとはうらはらに、罵る言葉ばかりがついて出る。レイはやはり汚れた存在なのだと必死に思い込もうとしているかのように。
するとガーナーは信じられないというようにアーサーを見つめ、「おいおいおい」とぼやきはじめた。
「あんた、本当に何も知らないんだな。二年前の事件のことも」
二年前の事件とはどういうことなのか。アーサーにはまたしても初耳だった。
「確かにレイは手術をしたさ。でも元に戻しただけだ。優秀な整形外科医の手によって忠実に復元された。奇跡的にな」
「何があったんだ。その、二年前に」
アーサーは、もしかしたら自分はとんでもない思い違いをしているのではないかと思い始めていた。そんなアーサーの気持ちの変化に気づいたガーナーは、しょうがねぇなぁ〜とぼやいた。
「あんたのためじゃなく、レイの名誉のために教えてやるよ。あんたはおそらく、とんでもない思い違いをしてるみてぇだからな」
そうして、ガーナーが語り始めたレイの真実は衝撃的なものだった。
〜To Be Continued…〜![]()
↑読んで下さってありがとうございます☆お気に召しましたら、ポチっとお願いします♪





コメント
コメントの投稿