Perfect Love act12
次の日、アーサーはシノン氏に教わったシャルマン通りに来ていた。
シャルマン通りにはいくつか個人病院が点在していたがガーナーという名前の医師は一人しかいない。
ガーナーは精神科医でカウンセラーだった。
昨夜、ホテルに呼びつけた医師から心臓の病気ではないと聞かされていたので覚悟はしていたが、まさか精神科だとは思ってもみなかった。
ガーナー氏の診療所は古いビルの四階にあった。
呼び鈴のないドアをノックすると中から、
「どうぞー」
と明るい男の声が聞こえた。
ドアを開けてまず目に入ったのは、床掃除にいそしむ背の高い赤毛の男だった。
長い髪を一つに束ね、プレスされていない皺だらけのシャツに穴のあいたジーンズ姿の男は、とても精神科医には見えない。おそらく清掃員か何かだろうと見当をつけて、他に人の気配もなかったので、アーサーはこの男に話しかけることにする。
「ガーナー医師に会いに来たんだが」
目の前の男がまさか医者だとは露ほども思わず、無駄足になったかと内心で落胆していると、男は親指で自らを指して言った。
「オレがニコル・ガーナーだけど?悪ィな、精神科なんてやってるように見えねぇだろ」
よく言われるんだと、ガーナーは豪快に笑う。
「やあ、ミスター・ギルフォード。あんたに会えるのを楽しみにしてたゼ」
人懐っこい笑みを浮かべ、握手を求めてくる。その求めに応じながら、アーサーは男を検分する。不精ひげに、医者らしからぬ体格の良さはどう見ても肉体労働者のそれだ。米国英語のフランクさが鼻に付く、清潔感からは程遠いこの男が、本当に精神科医などという繊細さを要求される専門医なのだろうかと訝しい気持ちになる。
「まぁ、座ってくれよ」
着座を勧められたアーサーは、所々穴のあいた安っぽい合皮のソファに腰かける。やたらと色の薄いコーヒーを出されたが、味に期待できなそうなその飲み物に口をつける気にはなれなかった。
「時間がないんだ。手短に話がしたい」
午後から重要な会議が控えているアーサーは早々に話を切り出したが、それをガーナーが遮った。
「そう焦りなさんなって。まったく、イギリス人はニューヨーカーの次にせっかちでいけない」
そう言って、ガーナーもアーサーの斜め横のソファに腰を下ろす。
「レイのことだろう?昨日…いや、今日か。夜中、ムッシュ・シノンに電話で叩き起こされてな。多分、今日にもあんたが来るだろうって。まさか本当に来るとは思わなかったが」
シノン氏はアーサーがまんじりともせず、すぐに行動を起こすことを予測していたらしい。行動を見通されていたことは気に食わないが、話は早い。
「しかしだ。おれには医者としての守秘義務がある。レイの病気について聞きたいんだろうが、オレから話せることは何もない」
「は…。そうか。ならば仕方無い」
最初からここに来ることの意味を図りかねていたアーサーは、これはやはりシノン氏の嫌がらせなのだろうと判断した。ここに来たのは無駄足だったかと腰を浮かせて帰ろうとしたアーサーを、「まぁ、待て」とガーナーが制止する。「諦めが早ぇなあ〜」とぼやいて、ガーナーは続ける。
「そのかわりに、レイが初めてここへ来たときのことを教えてやろう」
さあ聞けと言わんばかりに不敵に笑うガーナーに、アーサーは胡散臭さを感じながらもその話に付き合うことにしたのだった。
〜To Be Continued…〜![]()
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