Perfect Love act10
ユベールのもとにその電話が掛かってきたのはもう深夜といっていい時間だった。パーティーどころではなくなったユベールは、後をスタッフに任せて自宅へ戻っていた。
電話はやはりアーサー・ギルフォードからだった。自宅の電話が鳴った時点でユベールは全てを悟った。発作が起こった場合、自力で動くことが不可能になった時のために連絡先を記入したメモを持たせていたからだ。
彼は電話で多くを語らなかったが、彼らしくない張りのない声が全てを物語っていた。
傷つけたのだ、彼が。おそらく、最も卑劣な方法で。
レイを乗せた車がユベール・ド・シノンの邸宅に着いた時、すでに日付が変わっていた。ユベールが急ぎ足で家を出て門を開けると、そこに派手なスポーツカーの前で所在なさげに立ち尽くす青年の姿があった。以前見た時よりも、一回りは小さく見えるその姿に反省の度合いが窺えたが、たとえレイが彼を許しても、自分だけは許さないと、そう強く思う。
「レイは?」
開口一番は、ここまで運んでくれたアーサーへの労いではなくレイの安否確認である。
こんな下劣な男を労わってやる言葉などない。ユベールのそんな態度にも、さすがのアーサーも今は気にかける気力もないようだった。
「車の中で眠っています」
そう言ってアーサーが助手席で眠っていたレイを抱き上げて運ぼうとした。
「君はいい。私がやる」
ユベールはこれ以上指一本触れさせてなるものかと言わんばかりにアーサーを押しやると、レイの身体を軽々と抱き上げた。
そしてアーサーを一瞥もせずに門の中へと入っていく。
「ムッシュ・シノン…」
背後で青年の声が聞こえたが、今更言い訳など聞いてやる義理もないと無視を決め込む。
ユベールが鉄門扉を閉じ、背中を向けた瞬間、
「待ってくれ!」
青年の悲壮な声がユベールの背中に突き刺さる。鉄柵をガタガタと揺らし、あまりにも必死な様子にユベールはゆっくりと振り返った。
アーサーに軽蔑の視線を向けて。
「君がレイにしたことは大体の想像がつく。わかっただろうがレイは君の手に負える人間ではないし、遊び相手にも向かない。アバンチュールならよそでやってくれ」
これ以上はないほどのはっきりとした拒絶だった。それでもアーサーは引き下がらない。
「頼む、待ってくれ!」
鉄柵から腕を伸ばし、プライドを投げ打ってでもこの絆を断ち切りたくないのだと必死に伝えてくる。まるで恋人と引き裂かれた男のような哀れな姿に、しかしユベールは同情の余地などあるはずもないと冷やかに青年を見下ろす。
「レイに謝りたい。機会を与えてくれ、…頼む」
それが人にものを頼む時の態度かとユベールは呆れたが、ヒマラヤ級のプライドを持つ青年にしては上出来というべきだろう。それにいくらレイが軽いとはいえ、いささか腕が疲れてきた。長々と付き合ってやる余裕などユベールにはない。
「シャルマン通りのガーナー医師を訪ねるといい」
親切とは言い難かったが、これだけヒントを与えてそれを活用できないようならアーサー・ギルフォードは本物の無能だろう。
(自分をここまで突き動かす感情にまだ名前もつけられない若造が、私からレイを奪おうなどとは笑止千万)
青年の青さに眩しいものを感じつつも、今日の一件は決して許すつもりはないユベールであった。
〜To Be Continued…〜![]()
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