Perfect Love act6
フランス外相主催のパーティーから一か月が過ぎていた。
意外なことにあの後ギルフォード氏からレイへのコンタクトはなく、それが逆に不気味でもあったが、結局彼はレイを諦めたか、もしくは他に意中の女性が現れたのかもしれないと思い、深くは考えなかった。
ユベールがデザイナーを務めるファッション・ブランド『CHINON』が創業20周年を迎え大規模なイベントが催されることになっており、その準備に忙殺されていた彼は、ギルフォード氏のことを頭の隅に追いやってしまっていた。
そしてイベント当日。
仏政府の協力を得て、ルーブル美術館、ベルサイユ宮殿などで華やかに行われたショーは大きなハプニングもなく大成功のうちに幕を閉じたのだった。
「すごい!あれってカレン・キンダーソンじゃない!?超キレイ!」
その日の夜は大型クラブを借り切って盛大なパーティーが行われていた。レイの横でテンションが上がりっぱなしになっているのは、最近ロシアからパリに出てきたばかりの駆け出しのモデル、アリーシャである。彼女はこういったパーティーも初体験で、見知った著名人を見掛けるたびに大はしゃぎだ。
何かと懐いてくるアリーシャはレイにとって妹のように可愛い存在だったが、彼女がレイに懐いているのはレイがシノン氏のお気に入りで特別な関係だとも噂される人物だからだ。
それに彼女はレイといると自分たちがとても視線を集めることに気づいていた。二人が腕をからめて体を寄せ合ってはしゃいでいる姿は、まるで種類の違う血統書つきの猫がじゃれあっているようだった。
先ほどから何人かの男性に声を掛けられたが、レイが及び腰のために全て断っている。火遊びがしたい年頃のアリーシャには、それが何より不満であった。
「やあ、二人とも。今日は御苦労だったね」
そんな風に労をねぎらう言葉を掛けてきたのはユベールだ。
本日の主役であるユベールは、是非一言挨拶がしたいと願う著名人や、取材のカメラからようやく解放され、ショーが終了してからはじめてレイと顔をあわせることができたのであった。
「アリーシャ、君はもう帰る時間じゃないのかね?」
ユベールは未成年のアリーシャをからかうように笑いながら、彼女を追い払う算段をする。彼女がレイに近づこうとする理由など、ユベールにはお見通しである。
「そんな〜!こんな楽しいパーティー初めてですもの、もう少しここにいたいわ」
口元には笑みを浮かべながらも冷やかな視線を投げかけるユベールに、アリーシャも負けじとしなを作る。
そんな二人の殺伐とした雰囲気に気づかないレイが、何か言いたげにユベールのジャケットの裾を引っ張る。ユベールが耳を傾けると、
「スカート脱ぎたい」
ぼそりとレイが耳打ちした。
この会場にはショーに参加したモデルが多数いたがユベールはその全員に『CHINON』の今期のテーマである、スクールテイストの衣装を着させていた。レイの今の姿も白いシャツとネクタイに際どい丈のチェックのプリーツスカートというスタイルだ。とても似合っていると思うが、成人男子にとってこんな姿を衆人の目に曝されるのは耐え難い羞恥に違いなかった。
「わかったよ、今日は疲れただろう。君は先に帰りなさい。今、車を用意させよう」
本当は一緒に帰ってやりたいところだったが、主役であるユベールがパーティーを抜け出すわけにはいかなかった。
レイがほっとした様子で嘆息した時、スタッフが電話を片手に近づいてきた。
「ムッシュ、お電話です」
「ああ、今出るよ。…ここで待っていなさい。車が手配できたら呼びにくるから」
そう言ってユベールは通話に適した静かな場所を求めて、レイから離れていった。
「本当に愛されてんのね」
ユベールの過保護っぷりにアリーシャもつい皮肉めいた口調になる。
確かに二人の間にはただのデザイナーとモデル以上のものを感じる。皆がそろって口にする噂についてアリーシャが問いただそうとしたその時、レイの後方から長身の男性が近付いてきた。この薄暗い会場の中で顔を隠すかのようにサングラスをしているが、その圧倒的な存在感と美貌は隠しようもない。
アリーシャはチャンスとばかりにこの大物に最高の笑顔をふりまく。
「ハーイ」
しかし、チャーミングな笑顔と共に振り上げられた手はあっさりと無視されて、男性は迷うことなくレイの肩に触れた。
「やあ、楽しんでるかい」
声を掛けられたレイは男性を見てもキョトンとしていたが、彼がサングラスを外すとアリーシャが驚きの声を上げた。
「アーサー・ギルフォード!」
まるでファッション雑誌から抜け出してきたようなハンサムはまさしく、アーサー・ギルフォード、その人だった。
〜To Be Continued…〜![]()
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