Je te veux 〜after Arthur〜 act13
►2008/05/31 20:00
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仕事を終えてアパートに戻ったら、まずはシャワーで汗を流して身体を綺麗にしてからブラウンとメイファンの所に行く。最近ではブラウンも余計な事を言わなくなったし、小馬鹿にしたような目線をすることもなくなった。初日以来、真面目に働いているアーサーを一応は評価してくれているらしい。
メイファンの部屋へ向かうと、いつものように美味しそうな匂いがアーサーを出迎えてくれる。呼び鈴を押すと、最近ではローランが顔を見せるようになった。
「お疲れ、ディック。今日はね、ミートローフなんだよ!」
滅多にない御馳走にローランが声を弾ませている。子供は苦手なはずのアーサーも、ローランが嬉しそうにしているのを見るのは気分がいい。
「ディック、今日もお疲れ様」
「やぁ、メイファン。今日は何かの記念日かい?」
ローランと共に室内に入ると、メイファンが笑顔で迎えてくれる。何だか夫婦のようだとアーサーも思うが、勘違いも甚だしいので口には出さない。メイファンの方にアーサーに対してそう言った意味の好意がないのは明らかで、だからこそアーサーは気兼ねなく食事を世話してもらっているのだ。
「あなたがお肉をたくさん買ってきてくれたおかげで、毎日肉料理を作らなくちゃならないでしょ?メニューを考えるのが大変なの」
だから今日はミートローフなのだと嬉しそうにそう言うので、アーサーも悪い気はしない。肉料理などそう頻繁に食べることがなかったらしいローランは、そういう意味でもアーサーを歓迎している。
アーサーが食卓につくと次々と料理が運ばれる。いつもよりテンションの高いメイファンに、やはり何かいいことがあったのだろうと推測できた。するとメイファンから「仕事が決まった」と報告があった。
「ウェイトレスの仕事なんだけど、ある程度時間の都合をつけてくれるっていうし、そんなに下品なお店ってわけでもないからすぐに決めてきたの」
店によっては際どい衣装を身につけ、男性客に身体を触らせる低俗な店もあるらしいが、そういった類の店ではないというのでアーサーは安心した。
「そうか、よかったな。じゃあ、ローランはどこかに預けるのか?」
「そうね…、ブラウンが面倒みてくれるって言ってくれてるけど、そこまで迷惑かけられないし。いい保育所見つけたらそこに預けようと思ってるの」
九月からはジュニアスクールに通うことになるローランに不憫な思いをさせたくはないという親心が伝わってくる。片親など今時めずらしくはないが、経済的な苦しさを子供にまで味わせたくないというのはアーサーにも理解できる心情だった。
「私に協力できることがあれば何でも言ってくれ。出来る限り、力になりたい」
今は何の権力も持たない一労働者のアーサーだが、それでもこの親子の為に何かしたいと心からそう思っていた。
「ありがとう、ディック。今でも十分助かってるわ。こうして話を聞いてもらえるだけで随分楽なのよ」
少し申し訳なさそうに控え目に笑う顔はやはり、想い人のそれに重なる。自分がこんなにもメイファンに肩入れしてしまうのは、その所為もあるとアーサーは思う。
時折思い出してはアーサーの胸をチクリと痛ませるその面影は、未だにアーサーの心から消える気配はない。忘れようと努める、その努力こそがレイを忘れられない証拠のような気がしてならない。恋をするべき対象がこうして目の前にいるにも関わらず、いまいち踏み切れないのは心を占める存在の大きさのためだった。
メイファンの作る料理をありがたく頂きつつ、他愛無い会話を交わしていると、聞き覚えのあるメロディが耳に入り、音源に目を向ける。
メイファンの年季のはいったラジカセから女性の歌声が聞こえてくる。その歌を聴いた覚えはないのに、どこかで聞いたことのあるメロディにアーサーは記憶を巡らせる。
ラジカセを注視するアーサーに気づいたメイファンが、
「あなたもシャンソン好きなの?」
と訊いてくる。
「いや、音楽自体あまり聴かない」
ミュージシャンの恋人がいたにも関わらず、アーサーは全くそういったことに興味がなかった。レイが作った曲だといわれても、アーサーが興味を持っているのは本人のほうであって、音楽はそれに付随するものでしかなかった。そういう認識もあり、もとより芸術方面に関しては元々関心が薄いため、身を入れて音楽を聴くということをしたことがなかった。
「どこかで聴いたことがある曲だと思ったんだ」
「これは『あなたがほしい』っていうタイトルだと思ったけど」
「随分情熱的な曲名だな」
「そうね。でも確か、元はクラシックの曲だったはずよ。フランスの作曲家のピアノ曲なの。『Je te veux』っていう」
そのメイファンの説明で思い出した。これはよくレイが弾いていた曲だった。同時に思い出した苦々しい記憶にアーサーは自然と眉間に力が入る。
『アーサー、今の曲ね、サティの…』
そうだ、あの時レイが弾いていたのはこの曲だった。
〜To Be Continued…〜

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メイファンの部屋へ向かうと、いつものように美味しそうな匂いがアーサーを出迎えてくれる。呼び鈴を押すと、最近ではローランが顔を見せるようになった。
「お疲れ、ディック。今日はね、ミートローフなんだよ!」
滅多にない御馳走にローランが声を弾ませている。子供は苦手なはずのアーサーも、ローランが嬉しそうにしているのを見るのは気分がいい。
「ディック、今日もお疲れ様」
「やぁ、メイファン。今日は何かの記念日かい?」
ローランと共に室内に入ると、メイファンが笑顔で迎えてくれる。何だか夫婦のようだとアーサーも思うが、勘違いも甚だしいので口には出さない。メイファンの方にアーサーに対してそう言った意味の好意がないのは明らかで、だからこそアーサーは気兼ねなく食事を世話してもらっているのだ。
「あなたがお肉をたくさん買ってきてくれたおかげで、毎日肉料理を作らなくちゃならないでしょ?メニューを考えるのが大変なの」
だから今日はミートローフなのだと嬉しそうにそう言うので、アーサーも悪い気はしない。肉料理などそう頻繁に食べることがなかったらしいローランは、そういう意味でもアーサーを歓迎している。
アーサーが食卓につくと次々と料理が運ばれる。いつもよりテンションの高いメイファンに、やはり何かいいことがあったのだろうと推測できた。するとメイファンから「仕事が決まった」と報告があった。
「ウェイトレスの仕事なんだけど、ある程度時間の都合をつけてくれるっていうし、そんなに下品なお店ってわけでもないからすぐに決めてきたの」
店によっては際どい衣装を身につけ、男性客に身体を触らせる低俗な店もあるらしいが、そういった類の店ではないというのでアーサーは安心した。
「そうか、よかったな。じゃあ、ローランはどこかに預けるのか?」
「そうね…、ブラウンが面倒みてくれるって言ってくれてるけど、そこまで迷惑かけられないし。いい保育所見つけたらそこに預けようと思ってるの」
九月からはジュニアスクールに通うことになるローランに不憫な思いをさせたくはないという親心が伝わってくる。片親など今時めずらしくはないが、経済的な苦しさを子供にまで味わせたくないというのはアーサーにも理解できる心情だった。
「私に協力できることがあれば何でも言ってくれ。出来る限り、力になりたい」
今は何の権力も持たない一労働者のアーサーだが、それでもこの親子の為に何かしたいと心からそう思っていた。
「ありがとう、ディック。今でも十分助かってるわ。こうして話を聞いてもらえるだけで随分楽なのよ」
少し申し訳なさそうに控え目に笑う顔はやはり、想い人のそれに重なる。自分がこんなにもメイファンに肩入れしてしまうのは、その所為もあるとアーサーは思う。
時折思い出してはアーサーの胸をチクリと痛ませるその面影は、未だにアーサーの心から消える気配はない。忘れようと努める、その努力こそがレイを忘れられない証拠のような気がしてならない。恋をするべき対象がこうして目の前にいるにも関わらず、いまいち踏み切れないのは心を占める存在の大きさのためだった。
メイファンの作る料理をありがたく頂きつつ、他愛無い会話を交わしていると、聞き覚えのあるメロディが耳に入り、音源に目を向ける。
メイファンの年季のはいったラジカセから女性の歌声が聞こえてくる。その歌を聴いた覚えはないのに、どこかで聞いたことのあるメロディにアーサーは記憶を巡らせる。
ラジカセを注視するアーサーに気づいたメイファンが、
「あなたもシャンソン好きなの?」
と訊いてくる。
「いや、音楽自体あまり聴かない」
ミュージシャンの恋人がいたにも関わらず、アーサーは全くそういったことに興味がなかった。レイが作った曲だといわれても、アーサーが興味を持っているのは本人のほうであって、音楽はそれに付随するものでしかなかった。そういう認識もあり、もとより芸術方面に関しては元々関心が薄いため、身を入れて音楽を聴くということをしたことがなかった。
「どこかで聴いたことがある曲だと思ったんだ」
「これは『あなたがほしい』っていうタイトルだと思ったけど」
「随分情熱的な曲名だな」
「そうね。でも確か、元はクラシックの曲だったはずよ。フランスの作曲家のピアノ曲なの。『Je te veux』っていう」
そのメイファンの説明で思い出した。これはよくレイが弾いていた曲だった。同時に思い出した苦々しい記憶にアーサーは自然と眉間に力が入る。
『アーサー、今の曲ね、サティの…』
そうだ、あの時レイが弾いていたのはこの曲だった。
〜To Be Continued…〜
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