恐怖のバクテリア〜バクテリア王国へようこそ〜

御厨鈴音(みくりやれおん)が勝手に作り上げた恐れるにたらぬ王国。小説とも呼べない駄文ばかりですので、読むときっと後悔します。そんなの嫌だ、という方と18歳未満の方、BLという二文字に嫌悪を感じる方は今すぐお逃げ下さい。
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御厨 鈴音

Author:御厨 鈴音
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Sweet Bitter Chocolate act5

►2008/03/31 20:00 

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 それから数日後、百合花が事務所を訪れたのは、里村が外回りに出かけたのと入れ違いだった。まるで見計らったかのようなタイミングで訪れた百合花に、吾一はひどく嫌な予感がしていた。
 事務所に入るなり仁王立ちになり、どこからかき回してやろうかと辺りを見回す百合花に、吾一の背筋に戦慄が走った。
「ちょ…、お嬢さん、今日は里村さん、いませんよ…?」
 無駄とわかりつつ吾一は恐る恐るそう言ってみたが、百合花は吾一を歯牙にもかけない素振りで里村のデスクに向かった。里村の不在をいいことに、百合花は里村のプライバシーを暴こうというつもりらしい。机の上の書類などを引っかき回し始めた百合花に、さすがの吾一も見かねて制止を入れた。
「お、お嬢さん、それはちょっと…!」
 書類に触れたことが知れて後で怒られるのは吾一なのである。勘弁してくれと心の中で叫びながら、どうか玲人に繋がるような証拠が出てきませんようにと祈った。百合花は机の上ばかりか、引き出しの中身まで探りを入れたが、結局望んだようなものは出てこなかったようだ。
 安堵した吾一だったが、その矛先が今度は自分に向いたことに脅威を覚えた。
「なぁ、里村の女、知ってるんやろ?どんな女なん?」
「い、いや、どんなって…」
 知っているだけに、どう嘘をつくべきか迷ってしまう。まさか、相手があの荻久保玲人だなどとは口が裂けても言ってはならない。
「ウチより若い…ってことはないやろ?何歳なんやろ?顔は?ウチよりキレイ?」
「あ…と。えぇっと…。さぁ、どうなんすかね?あはは…」
 今更しらばっくれても遅いことはわかっていたが、この質問に正直に答えればきっと自分の命はない。特に、最後の質問は。
 百合花は、今どきの女性らしく目鼻立ちのくっきりとしたどちらかといえば派手な顔立ちの美人だったが、女性のメイクオフ後のリアルな現実を知る吾一には、それがメイクテクニックによる幻だということくらいわかっていた。長いまつ毛も、美しく整えられた眉毛も、アイラインで大きく見える瞳も、数々のメイクアイテムと彼女らの労力の賜物である。
 しかし、新年早々に見知ってしまった玲人の本物の美しさに、百合花が敵うはずもなかった。もちろん、里村が美貌だけで玲人と付き合っているとは思えないが、それで勝負をしようとすればその勝敗は明らかだった。
「何やねん、はっきり言わんかいな。どうせ、どこぞの商売女なんやろうけど、そんな年増に里村はやらへん。ウチのほうがピッチピチやん。なぁ?」
「はぁ…」
 追及の手が緩んだことに安心しきっていたために、そのあと百合花がとった行動にまで気を回していられなかった。百合花は「喉乾いた」と呟くと、冷蔵庫に手をかけた。吾一がその存在に気が付いたときにはもう手遅れであった。
「…ちょっと。何やねん、コレ」
 百合花の手にあるのは、里村に頼まれて吾一が買ってきたチョコレートの包装箱だった。いかにも高級感を漂わせるそれは、どうみても本命チョコにしか見えない。
 自宅に置いておくとたまに訪れる玲人に見られてしまう可能性があるため、事務所の冷蔵庫で保管していたのだが、それが仇になってしまうとは里村も思わなかっただろう。
「コレ、銀座の有名な店やんなぁ?女からもらったん?それにしては、早すぎちゃう?まだ一週間もあんのに…」
「い、いや…。それは、その…」
 焦りのために吾一の掌が変な汗で湿る。それが貰ったものではなく、これからあげるものだとは百合花は思いもしないだろうが、確かにこの時期にそんなものがあるのは不自然だ。
「それは、俺が貰ったんですよ…。当日には会えそうもないからって…」
 吾一がついた苦し紛れの嘘はいとも簡単に見破られてしまう。
「アホか。お前にこんな高い本命チョコやる女がいるわけないやん。ありえへん」
 確かにそうなのだが、あまりにも酷い言葉でそう決めつけられて、吾一は涙目である。
「ひ、ひどいっすよ、お嬢さん…」
「わかるわ、そんなもん」
 吐き捨てるようにそう言って、百合花はその口元にしたたかな笑みを浮かべる。
 含みのあるその微笑に、吾一の胃がざわりと騒ぎ、落ち着かない気分になった。
「…ふん。まあ、ええわ。こんなもんで負けたとも思わんし」
 事務所に乗り込んできた時の勢いから、チョコレートの箱を踏みつぶすくらいのことはするかと思われたのに、百合花は大人しくそれを冷蔵庫に戻した。それが吾一には逆に恐ろしく、不気味にすら感じられた。
「ウチが今日ここに来たこと、里村には言ったらあかんで。わかってるやろ?」
 暗に例のナンパのことをにおわせて、百合花は念を押した。
「は、はぁ…」
 ナンパしたことをばらされるよりも今はもっと怖いものがある気がして、吾一は嫌な予感を覚えるのだった。


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Sweet Bitter Chocolate(完結) | Comment(0) | Top ▲

Sweet Bitter Chocolate act4

►2008/03/29 20:00 

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 里村と吾一が務める寺内不動産には月に二、三度、小さな台風がやってくる。里村も吾一も、「彼女」の来訪を内心面倒だとは思っているのだが、立場上、それを口にすることなどできるはずもない。特に吾一などは、渋谷で女性をナンパしようと声をかけたところ、それが「彼女」だった、という前科があり、『バラされたくなければ言うことききなさい』と脅されている立場なので完全に頭が上がらない。
 二月も数日過ぎたある日、不意打ちで訪れた「彼女」の出現に、二人に緊張が走る。
「里村ぁ〜?元気でやってる〜?」
 若い女性の甲高い声が響くと、里村と吾一はほとんど同時にため息を吐いた。
 寺内不動産の社長令嬢、寺内百合花(てらうちゆりか)は今年二十歳になる生粋のお嬢様だ。一人娘で、蝶よ花よと育てられたためか、我の強い、我が儘なところのある少女である。里村は父親である寺内和成に若い頃から世話になっているため、百合花のことは産まれたときから知っている。百合花が幼い時には里村はよくおもちゃにされたものだが、年ごろになってからは会う機会も滅多になくなっていた。ところが最近、百合花はこの事務所に頻繁に顔を出すようになった。どういう意図かは分からないが、百合花が事務所に訪れることによって業務に支障をきたしているのはまぎれもない事実だった。
「あ〜、里村、おるんやったら返事くらいしてくれたってええやん」
「…お嬢さん」
「そのお嬢さんて言い方やめてってゆうてるやん。もうウチ、二十歳になるし『百合花』って呼んで」
「………」
「あ、ちょっと〜、吾一!飲みもんくらい出されへんの?気ぃ利かんな、お前も」
「…は、はい……」
 こんな風に、百合花が事務所に現れると全てが百合花ペースになってしまう。生まれながらにして女王様気質の百合花は周囲の人間をたちまちにして下僕にしてしまうようであった。
「なにこの、やっすい紅茶!…まあええわ。どうせティバックなんやろうけど、今度ええ茶葉買っとき」
 出された茶にも一言ケチをつけて、百合花はソファの上で足を組んだ。
「…で、今日は、何の御用で?」
 言い方によっては失礼になってしまう言葉を、里村は出来る限り百合花を刺激しないように努めながら言った。
「何の用って…。そんなん里村の顔見に来たに決まってるやん」
「………」
「ほんま、つれないわ〜里村は。ウチがこないにアプローチしてんのに、そんな言い方ないやん」
「からかうのはやめてください」
 百合花はよくこんな風に里村に気があるような言葉を口にする。里村としては娘ほども年の離れた百合花がそんなことを本気で言うとは考えられず、からかわれているとしか思えなかったが、いつも二人のやり取りをそばで聞いている吾一は百合香が本気なのを察していた。年齢の割に色恋沙汰にうとい里村は百合花の想いにはまったく気が付いていない…というより、そのような可能性について考えたことすらないようである。
「ところで里村。14日、空いてんの?」
 それまで傲慢に振舞っていた百合花が、少し躊躇いがちに言う。14日といえば、バレンタイン、女性が意中の男性に愛を告白する日だ。ついに百合花は里村に告白するつもりなのだろうかと、吾一は息を飲んで二人の様子をうかがっていた。
「いえ、14日は…。予定が入っています」
 当然、里村としてはその日は玲人と過ごすつもりでいた。吾一に頼んで買ってきたチョコレートを渡して、文字通りの甘い時間を過ごす予定である。
 しかし里村の言葉に百合花はとたんに色めき立った。
「里村、まさか女?女がおるん?」
「ええ、まぁ…」
 女ではないが恋人はいる。そこまで百合花に言うつもりはなかったが、そういう存在がいるということくらいは言っても構わない気がした。しかし、里村には恋人がいないと信じていた百合花は里村の言葉にいきり立った。
「そんなん聞いてない!いつの間にそんなん作っとったん!?ウチ、なんも聞いてへん!!」
「つい最近です。お嬢さんに言わなかったのは、悪かったと思いますが」
 おそらく本来ならば、このような個人的なことをいちいち報告する義務などないはずなのだが、あまりの百合花の剣幕に里村も押されてしまう。
 百合花は里村のデスクを力いっぱい手のひらで叩きつけると、身を乗り出して言った。
「いやや!そんなん認めへん!ウチはそんなん絶対に認めへんからな!!」
 癇癪を起したようにそう叫んで、百合花は事務所を飛び出していった。
 百合花の激昂の理由がわからない里村は、報告もなしに恋人をつくったことに腹が立ったのかと解釈したが、百合花の想いを知る吾一はこの後に起こる騒動をなんとなしに予感していたのであった。


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Sweet Bitter Chocolate(完結) | Comment(0) | Top ▲

Sweet Bitter Chocolate act3

►2008/03/27 20:00 

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 新年の嵐のような忙しさも一段落ついた二月の始め、吾一は里村に呼ばれ、なぜか一万円札を手渡された。
「小遣いっすか?」
 目を輝かせた吾一に、里村はムッとしかめっ面になった。
「馬鹿野郎」
 唸るような低音で一蹴して、里村は気まずそうに咳払いをした。
 恋人の前では蕩けるように優しくなるのに吾一に対しては徹底的に冷たい。この優しさの十分の一でも優しくしてくれればいいのにと吾一は思う。
「あー…、あれだ。ほら、14日の。なんかあるだろう。それを買ってこい」
 どうやらバレンタインが近いのでチョコレートを買ってこい、ということらしい。
 れっきとした男である里村が誰にチョコを贈るつもりかなど、吾一は問わずとも推測ができた。今年の始め、ひょんなきっかけで知ってしまった里村の秘密の恋人は、たいそう可憐で美人ではあるが男である。しかも世界規模で有名なミュージシャンである彼は非常に多忙で、滅多に会うことがかなわないらしい。そんな恋人のために、恋人達のイベントであるバレンタインにチョコを贈りたいという気持ちは里村という人と形(なり)に似合わず健気だ。
 それにしても、こんなことを吾一に頼むというのは信頼されているのか、開き直ったのか、もしくはあの女の欲望うずまくチョコレート売り場に女に混じって買い求めたくないのか。いずれにせよ例の如く吾一に使い走りをさせようとしているのは明白で、遠まわしに惚気られている吾一としては面白くない。
「いいんですか、オレなんかが買ってきて。玲人さんがっかりするだろうなぁ。里村さんが自分で買ってきてくれたほうが玲人さんも喜ぶと思うんだけどなぁ」
 芝居がかった言い様に里村は吾一を睨みつけたが、里村に関しては百戦錬磨の吾一がその程度で動じるはずもない。結局里村は諦めたような嘆息を吐いて懐から財布を取り出す羽目になった。
「ほら。これでいいだろう」
 里村はもう一枚万札を取り出して吾一に突き出した。
「ええっ!いいんですか!?うわ〜、さすが里村さんは太っ腹だなぁ」
 玲人と交際しているという弱みを握られている里村は、最近上司の威厳を失いつつある。
 謙虚な言葉の割にそそくさと万札をポケットにしまう吾一を呆れたように見つめて、里村は言う。
「そこらへんの安いもん買ってくるんじゃねぇぞ」
「はいはい、わかってますよ。何かご指定のブランドありますか?」
「何だそのブランドっていうのは。…あれか、有名な……、ゴ…ゴルバチョフ…、だったか?」
 吾一には『ごるばちょふ』が何なのかはわからなかったが、里村の言いたかった名前は分かるから、思わず吹き出してしまった。
「あは!それを言うなら『ゴディバ』でしょう」
 吾一の突っ込みに、里村は恥ずかしさを押し隠したようなふてくされた表情になる。
「そう、それだ。それを一万円分買ってこい」
「そうすっか。でも最近はいろんな店ありますからね。銀座にあるショコラティエなんかも美味しいらしいですよ」
 さすがに吾一は女性関係が派手なだけあって、スイーツに関する情報に詳しかった。『ショコラティエ』が何たるかもわからない里村は全てを吾一に任せるしかない。
「お前の好きなようにしろ」
 本当は自分で買いに行くべきなのだろうが、甘いものを好まない里村はおそらく玲人の好むものをチョイスできないのではないかという懸念があった。吾一に頼むのは少なからず気恥ずかしいが正解だったと里村は思う。
「へいへい、了解しましたよ」
 不真面目な返事をして、早速吾一はチョコレートを買い求めに事務所を飛び出していった。
 甘いものの中でも特にチョコレートを好む玲人はきっと喜んでくれるに違いない。玲人の嬉しそうな笑みを想像して、思わず口元が弛んでしまう里村なのであった。


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Sweet Bitter Chocolate(完結) | Comment(0) | Top ▲

Sweet Bitter Chocolate act2

►2008/03/26 20:00 

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「お忙しそうですね」
 美智がそう言うと大門は「ああ」と頷いてみせた。
「今は特にな。シエラのセカンドアルバムを作ってる最中だから余計忙しいんだ」
 煙草吸っていいか、と問われ、美智は「どうぞ」と灰皿を差し出した。
「年末の忙しい時期に前のマネージャーが辞めちまってな。それから俺がやってたんだ。ったく、スタジオミュージシャンを何だと思ってんだか」
 本来はギタリストだという大門は玲人とは近しい関係らしい。言葉の端々からそれが窺えるが、まさか大門が玲人の恋人ということはないだろうかと、美智でさえも勘繰りたくなる。
 不埒な想像をしてしまいそうになった頭を切り替えて、美智は当初の懸念について質問することにした。「お聞きしてもよろしいですか」と前置きして美智は言った。
「前任の方はどうしてお辞めになったんでしょうか?」
 辞めた理由が玲人にあるのなら美智も相応の覚悟をしなければならない。大門は煙草の煙を吐き出しながら、苦い表情になる。それは一概に煙草の所為でもないようだった。
「玲人のマネージャーは長続きしねぇんだわ」
 美智はやはり…、と少なからず落胆した。玲人が意外に「気さく」で「いい人」というのは偏った情報だったのかもしれない。しかし大門は煙草の灰を灰皿に落としながら言葉を続けた。
「帰国してから三年経つけどな。その間に四人変わった。あんたで五人目か。最初の奴は国立大卒のエリート君だった」
 フーっと長く紫煙を吐き出して、遠くに視線を飛ばした大門を美智はじっと見つめる。単純に計算すれば一人あたり一年も続いていない。そうなってしまった理由が玲人にはあるというのだろうか。
「玲人はあの顔だろう。勉強一筋で恋愛経験もないガリ勉君がよ、一日中あんなのと一緒にいたら、まぁ、しょうがねぇっちゃあしょうがねぇがな」
 大門は濁すような言い方をしたが、玲人と彼の間に何が起きたのかは想像に難くない。確かに玲人の容姿はどちらかといえば女性よりも男性にうったえるものがある。美智も恋愛経験が豊富とは言えず、その男の気持ちを推し量ることなどできないが、そうなってしまっても仕方のない美貌だというのは理解できる。
「そんな感じで三人辞めてった。色ボケで仕事に支障が出始めるからな、仕方ねぇ。…でも最後の奴はちょっと違う」
 どうやら玲人のマネージャーが次々と辞めていった理由は、玲人の所為ではあってもその性格によるものではないらしい。わずかな安堵と、大門が言う「最後のマネージャー」のことが気になって、美智は話の続きを待つ。
「玲人に心酔してるって点では同じだったんだが、それが行き過ぎてた。どんどんエスカレートしていってな、玲人の私生活にまで口を挟むようになった。玲人は我慢したさ。でも玲人の恋人に『別れろ』って電話したらしくってな。玲人がついにキレてクビにした」
 よくもった方だと大門は呟いて、煙草をもみ消した。そこには今語られた以上の何かがあったのだろうと想像できるが、それ以上尋ねることは躊躇われた。そこには人間の感情の生々しさが潜んでいるような気がしたからだ。玲人にそこまで入れ込んでしまった人々の気持ちは美智には理解できない。しかし、自分を見失ってまで誰かに執着するその執念が美智には怖ろしかった。
「まぁそういうことだからよ、仕事以外のことで玲人に口出ししないでやって欲しいんだ。仕事に差し障るようなら注意してもかまわねぇが」
「はい…」
「あいつ自身は悪いヤツじゃないんだぜ。ただちょっとヌケてるところがあるからそれをフォローしてやるのが俺達の務めだ。あいつは音楽以外のことはからっきし何もできねぇ。でも音楽に関しては間違いなく天才だ。だから俺達は音楽以外のことであいつを煩わせないようにそれらを請け負ってやる。それだけだ」
 言い方は乱暴だが大門が言いたいことは伝わった。そして大門がどれだけ玲人の才能を認め、尊敬しているのかも伝わってきた。大門は言い終わると少し恥ずかしそうに「まぁ、そういうことだ」と頭を掻く。
 美智はもう新しい雇用主について心配はしていなかった。大門が正しい見識の持ち主であることがわかった今、その大門に尊敬される玲人が悪い人間だとは思えなかった。
 それから大門から仕事の内容について説明を受けていると、レコーディングスタジオの扉が開き、そこからぞろぞろと疲れた顔をした男達が現れた。そして、最後に姿を見せた人物に美智の身体に緊張が走る。
 仕事柄、様々な著名人に会ってきたがこれほど鮮やかなオーラを持った人間を美智は他に知らない。美智が何も言えずただ玲人に見とれていると大門の方から玲人に声をかけてくれた。
「玲人、新しいマネージャーさん来てるぞ」
 大門はまるで子供に優しく諭すようにそう言うと、玲人は美智の目の前に立ち首を少し傾げて微笑んだ。それはまるでいち早く春が訪れたような華やかさで、美智は一瞬自失した。
「こんにちわ。よろしくおねがいしますね」
 少し子供っぽい、しかし優しさがにじみ出るような声でそう言われて、美智はここに来て本当によかったと心の底から思ったのであった。
「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」
 この人を全力でサポートしていこう。そう心に決めた美智なのであった。


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Sweet Bitter Chocolate(完結) | Comment(0) | Top ▲

Sweet Bitter Chocolate act1

►2008/03/25 20:00 

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 ミュージシャン荻久保玲人の素顔を知る者は、業界でも数少ない。
 しかし、一度でも会った人間なら、例外なく彼に好印象を持つようだった。
「思っていたより気さくでいい人だよ」
 というのが彼らの一致した感想である。
 荻久保玲人には残念ながら悪い噂が絶えないが、そういったものは一度も会ったことない人間が広めているのかもしれない。
「アイツって、ワガママっぽくない?」
 誰かが何気なく発したその一言が、「ワガママらしいよ」に変わり「ワガママだ」に確定されてしまうのは、伝言ゲームの例を示すべくもない噂というものの特性なのだろう。
 二月から荻久保玲人のマネージャーを務めることになった徳島美智(とくしまみち)も、そんな数々の噂に不安を抱いていた。
 この仕事が決まり、まず一番にそれを知らせた母も心配そうであった。
『大丈夫なの?だってあの人って…』
 …ホモなんでしょ?
 母が思わず声をひそめたくなる理由も分からないわけではない。この時代、同性愛者がそう珍しくもなくなってきているとはいえ、まだまだ美智の母くらいの年代の人間には受け入れ難いものなのだろう。美智本人としては、自分がそういった性愛の対象にならないことが逆に安心材料であった。
 美智が以前担当していたタレントは好色なことで有名な元アイドルで、美智はその堅物な性格を買われて彼のマネージメントを任された。決して器量の悪くない美智が彼の餌食にならなかったのは、ひとえに美智の頑なな拒絶があったせいだったが、その代わり彼は美智を使い走りのように扱った。コーヒーが飲みたいと言えば近くのカフェでテイクアウトをし、マンダリンが飲みたかったのにと言われれば買い直しにまたカフェに走った。そんな扱いを受けても不平も言わず耐えてきた美智だったが、ある日突然気まぐれに解雇されてしまった。
『お前、真面目すぎてつまんねぇんだよ』
 というのが、その理由だった。
 厳格な家庭で育ち、そういう風にしか生きれなかった美智はそんな言葉を投げつけられることにも慣れていた。美智が最も忌むべきものとしているのは、ふしだら・不真面目・不誠実で、その見本市のような男に何を言われても傷ついたりしない。逆に、その任を解かれて清々しているくらいだ。
 そんな経験のある美智なので、個人的な性癖の一つや二つはどうということはない。問題なのはやはり玲人本人の性格だろう。
 新年の慌ただしさもすっかり落ち着いた二月の始め、美智は指定されたビルのフロアに指定よりも10分早く到着していた。そこは荻久保玲人のレコーディングスタジオで、美智は今日初めて玲人と対面し仕事内容の説明や軽い面談を行うことになっている。
 まだ時間前だからなのかフロアには誰もおらず、休憩用のソファとベンディングがある以外はガランとしている。ドアは三つあり、そのうちの一つに『Now Recording』というプレートが掛けられていることから、そこがスタジオであり、今はその最中なのだとわかった。取り込み中と判断した美智は立ったまま人が通るのを待っていたが、予定の時間を過ぎても人が出てくる気配がない。どうしたものかと悩んでいると、スタジオから立派な体格をした男が姿を現した。まるで悪役レスラーのような男の圧倒的な存在感に美智が怯んでいると、男の方から美智に声をかけてきた。
「もしかして、新しいマネージャーさん?」
「あ、はい。今日から荻久保玲人のマネージャーを務めさせていただきます徳島美智と申します」
 形通りの挨拶の後、名刺を手渡そうとすと男は手を振って、
「ああ、いいから」 
 と、受け取りを断った。
「俺なんかにくれても紙がもったいないだけだ。…俺は大門(おおも)。よろしくな、徳島さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
 大門は鷹揚に頷いて見せると、美智にソファに座るように勧めた。
 前歴の所為でもなく、男性恐怖症の気がある美智は緊張を顔に出さぬようにソファに腰かけた。特に大門のようにフランクに話しかけてくる男性に苦手意識を持っていた。仕事で関わり合いになるのならビジネスライクな距離感が一番楽だ。打ち明け話などされて、他人の生々しい一面を見せつけられるのが美智は苦手だった。
「今、玲人はちょっと手が放せねぇんだ。茶でも飲みながら待っててくれ」
 大門はそう言って、ポケットをジャラジャラいわせて小銭を取り出した。
「何がいい?」
 どうやら奢ってくれるつもりらしい大門に、美智は慌てて、
「いいえ、結構ですから」
 と遠慮したが、大門はニヤリと笑って、
「いいって。今日だけだから」
 冗談めかしてそう言われて、美智は断れなくなった。
 見た目は怖いが悪い人間ではなさそうだ。ブラックコーヒーの入った紙コップを受け取りながら美智はそう判断した。


〜To Be Continued…〜



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 【言い訳】

間が空いて申し訳ないです。中途半端なところで終わってしまって申し訳ないです。主人公が出てこない小説で申し訳ないです…。


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Sweet Bitter Chocolate(完結) | Comment(0) | Top ▲

Crush on You act10 (R-18)

►2008/03/20 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(エドとエリスの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。




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 エドの長い指で後孔をさんざんになぶられて、俺はもうそれだけで達してしまいそうだった。それでもイケなかったのは、エドがお仕置きと言わんばかりに俺の性器を戒めていたせいだった。
「エド、イタイ…、放してよ…!」
「ダメだ。オレがいいって言うまでイカせねえ」
「アッ…!うぅぅ………」
 俺の口でイカされたのが余程悔しかったらしい。射精を許されず快感を与えられるこの状態は苦痛以外の何物でもない。
「だいぶ、解れたか?」
「うん、もういいから、エド、入れて…!」
 俺はじれったく腰を揺らす。恥ずかしい部分をエドに晒しているという羞恥心も、そのころには頭から飛んでいた。
 エドが獣じみた目で俺を見つめる。俺は肉食獣に組み敷かれた獲物のごとく、ただじっと食べられる時を待つしかない。怖くて、それでもその先にある快楽を知っている身体は淫らに疼いてしまう。
「入れるぞ」
 低く、痺れるような声音でそう言われた瞬間に、エドの熱い塊が俺の中を力強く侵していた。
「ああ………っっ!!」
「くっ…!!」
 その圧倒的な質量に、俺は肺まで圧迫されてしばらく呼吸もままならないほどだった。しかし、エドは俺の呼吸が整うのを待たず、腰を律動させてくる。
「ま…っ、え、エド…っ!くるし…ッ」
「ここまで来て、待てるか、バカ…!」
 次第に激しくなる動きに俺はついてゆけずに、ただエドの熱を受けることしかできない。
「お前のここ、凄すぎて、加減できねぇよ…!」
「エド、エド…!!」
 エドが俺の身体でこんなに夢中になってくれてるのが嬉しい。汗で滑る背中に必死にしがみつきながら、俺はひたすら愛しい人の名前を呼ぶ。言葉だけでは満たされなかった何かが、今ようやく俺の心を満たす。満たされすぎて溢れ出るほどのそれは何と呼べばいいのだろう。
「好きだ、エリス!お前だけだ、エリス!!」
「エド…、俺も、エドだけだよ!好き、好き…!!」
 叫びながら、俺はおぼろげに思い出していた。こんな風に、あの時も必死に想いを口にしていた。必死さでは今と変わらなくても、今はあの時のような虚しさはない。心からの至福はあの時とは違う涙を誘う。温かく流れ出るものを、俺は止めることもなく溢れさせた。
「好き、好き、愛してる…!!」
 素直になれなかった。拒絶されるのが怖くて、ずっと気持ちを閉じ込めていた。でも今は全てをエドに晒すことも怖くない。受け入れてくれる、その確証があるから、俺は素直になれる。
「エリス、エリス、………うあっ……!!」
「あっ、あぁぁ…ん、エド………!!」
 俺の奥に熱い液体が吐き出され、俺はそれをこの上なく幸福な思いで受け止めた。そしてほとんど同時に俺も絶頂を迎える。お互いに満足そうに息をついて視線を合わせると、少し恥ずかしそうにエドが笑った。
「悪ぃ。なんか、歯止め利かなかった…」
「うん…。俺も…」
 フッと笑って、エドが唇を合わせてくる。始めは触れあうだけだったそれが、次第に深くなり、激しくなる。そして、俺の中に入ったままだったエドが再び硬くなるのを感じて俺は思わず喘いでしまう。
「あ、ああ…ん、エド…」
「やべぇ…、止まんねぇ…。なぁ、もう一回、いいか?」
「う、うん…」
 唇を重ねたまま、動きだしたエドに合わせながら、俺は身体ごと愛される歓びを感じていた。しかしその代償は、次の日にやってきたのだけれど。


 途中で気を失った俺が目を覚ましたのは、次の日の朝だった。昨日は夕方あたりから抱き合っていたと思うが、それにしても少し寝過ぎたみたいだ。この身体のだるさが、寝過ぎに因るものなのか昨日の荒淫の所為なのかはわからないけど。
「よう、やっと起きたか」
 俺がベッドの上で寝起きの身体を持て余していると、エドがマグカップを両手に現れた。
「起きられるか?ミルク、いっぱい入れといたから飲めよ」
 どうしてエドは俺がコーヒーにミルクを多めに入れて飲むことを知っているのだろうか?もしかしたら、ずっと前からエドは俺のことをちゃんと見ていてくれていたのかもしれないと思うと恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
 言うことを聞かない身体をエドの手を借りて起き上がらせて、マグカップを受け取る。ミルクと砂糖が多めに入ったコーヒーは起きぬけの胃に優しい。
「身体、大丈夫か?昨日は無理させちまったからな」
 寝ぐせをなだめるみたいに撫でてくるエドの手がひどく心地よくて、猫が首元を撫でられる時ってこんな風なのかなと思う。思わず目を細めてしまいたくなるくらい気持ち良くて、幸せだった。
「大丈夫だよ。ちょっと腰がだるいけど」
 そうか、と少し安心したように言ったエドの顔に、幸せそうな笑みが浮かんでいて俺は胸が温かくなる。好きな人が笑っているというだけでこんなに幸せな気分になれる俺は随分と安上がりだ。
 そうだ、と言ってエドは腰を上げ、またどこかに行ってしまう。戻ってきたときにエドの手には小さな箱のようなものが収まっていた。
「昨日渡そうと思って忘れてた。まあ、あの状況じゃ忘れててもしょうがねぇと思うけどよ」
 少しはにかみながらそう言って、エドはその箱を開ける。それは指輪の台座で、その中には銀色の光を放つリングが納められていた。俺が言葉を失っていると、エドが口元を歪めて複雑な顔で笑った。
「喧嘩して別れた後、オレなりに考えたんだ。どうしたら俺の本気を伝えられるかって。俺はお前の一生をもらい受ける覚悟だってできてるのに、お前は信じてくれそうにもないしな。言葉じゃダメなら、ちょっと反則だけどこういうもんでお前に俺の覚悟を知ってもらうしかないと思ったんだ」
 ホントに反則だと思う。不意打ちでこんなものを出されては、俺は驚いて固まるしかない。
「オレがデザインしたんだ。お前のイメージでな。宝飾のデザインなんかしたことねぇから、あんまりいいもんじゃないかもしれねぇけど…。出来上がったらまっすぐお前に会いに行こうと思ってたのに、案外時間かかっちまってよ。ちょっとつけてみろよ」
 二か月以上エドが姿を見せなかった理由がわかって、俺はホッとした。俺はじっとその指輪を見つめたまま、動けずにいた。エドが俺のためにデザインしてくれたなんて、もったいなくて触れない。動かない俺を見かねて、エドが台座から指輪を抜き取って、俺の左手をグイッと掴んだ。
 アッ、っと思った時には、指輪は俺の左手薬指に収まってしまっていた。
「よし、サイズはばっちりだな」
「エ、エ、エド…!?」
 柔らかな曲線を描く美しい螺旋の模様が入った銀色の指輪は、これが俺のイメージだとは思えないほど美しい。そして、エドからこんな大それたものを受け取れるような人間じゃないと否定したがる自分がいる。指輪の嵌まった指がとてつもなく重く感じられ、俺はうち震えた。
「ダメだよこんなの!受け取れない、こんなの、俺貰えない!」
 指輪を外そうとした俺の手をエドに止められ、その思いもしない強さに俺はハッとしてエドを見る。
 揺らぎのない、強い瞳に捉われて俺は言葉を失った。
「お前に拒否権はねぇ。それはもうお前のもんだ。その指輪はお前がオレのもんだって印なんだからな。外したら、ただじゃおかない」
「エド…。俺でいいの…?俺なんかで、ホントにいいの…?」
「お前以外に誰がいるんだ。お前以上に俺を愛してくれるやつはいない。お前以上に愛せるやつなんか他にいねぇんだよ」
「エド、エド…!!」
 愛する人にこんなにも強く求められて、俺はこの上なく幸せだった。飛び付いた俺を優しく抱きとめたエドは、耳元で優しく囁く。
「愛してる。エリス、お前だけを愛してる」
 きっと、ずっと前からお前だけを愛してた。
 甘く、優しく囁かれる言葉に俺は酔う。きっとこれが愛というものなのだと思いながら。


〜『Crush on You』END〜



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【あとがき】

やっと終わりました…。結構ノリノリで書いてしまったために予定より長くなってしまいました(^_^;)
タイトルの『Crush on You』とは、「君にべた惚れ」とかそういう意味です。これはエドにもエリスにも取れる言葉だと思います。
とにかく最後は私史上最甘なラストになってくれて、まぁまぁ満足?もうちょっとエリスのバックボーンを書きたかったけど、思った以上にエリスの独り言が多くて書き切れませんでした★ちょっと反省。
次はまた『里村&レイ』に戻りたいと思います。タイトルは『Sweet Bitter Chocolate』、タイトル通りバレンタインのお話になります。連載が滞ってしまったために非常にKYな題材になってしまったことをお許し下さい_(._.)_
これからも精進していきたいと思っておりますので、よろしければお付き合いくださいませ♪





 
 
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Crush on You act9 (R-18)

►2008/03/18 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(エドとエリスの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。




>> ReadMore
 エドの背中に必死に縋りながら、甘く深いキスに溺れる。俺はエドの手によって全ての衣服が剥ぎ取られていたけれど、エドはまだジャケットを脱いだだけの格好で、シャツ越しにしか触れられないもどかしさに俺は焦れた。
「エド…、早く脱いでよ…!」
「ちょ、待てって…!」
 シャツをたくし上げようとする手をエドに掴まれてベッドに抑えつけられる。
「ちょっとお前落ち着け」
「…何で!?」
 もしかしてエドはやっぱり俺じゃダメなのかな…なんて、またネガティブな思考が頭をよぎる。すると、そんな俺を見透かしたようにエドが言った。
「またお前余計なこと考えただろ?」
 ズバリと言い当てられて、俺は返す言葉もない。
「ちょっと落ち着けって。俺は逃げねぇよ。例えお前が逃げたくなっても、今日はこの部屋から出さねぇから、覚悟しとけ」
 ゾクリとするほどセクシーな声でそう言われて、俺は思わず息を飲んだ。エドの声も好きな俺には媚薬みたいなセリフだった。
「逃げるわけない…、だから、しよ?いっぱい、しよ?」
 俺が涙目になりながら放ったセリフは、エドに火をつけてしまったらしかった。
「くそ…!お前はほんとに…!」
 もどかしくシャツのボタンを外して、エドは上半身を晒す。室内で設計図に向かっているだけの仕事のはずのエドの身体は、俺なんかよりよっぽど逞しかった。
「かっこいい、エド、好き、好き…」
「お前、ちょっとネジゆるんでねーか?」
 まあ、可愛いけど。エドはそう言って、俺の首筋に食らいついてくる。優しく歯を立てられてはなだめる様に舌を這わされて、俺はそれだけで蕩けそうになる。
「はぁ…、エド、もう…」
 それだけで高ぶってしまっている下半身が、触れられてもいないのに頻りに滴をこぼしている。エドもそんな状態の俺を分かっているくせに、そこに触れようとしないのがもどかしい。
「触って、お願い…。俺もエドの、するから…」
 布越しのエドの下半身に触れてみれば、エドもはち切れそうに大きくなっているのが分かって嬉しい。
「触んな。俺だってもう限界なんだ」
 エドは自らベルトを外して、下ばきを脱いだ。俺の視線は当然そこに目がいってしまい、その大きさに思わずため息を漏らしてしまう。
「エド、おっきいね…」
「あ、コラ!ヤバいって…!」
 俺は引き寄せられるように、それに舌を這わせていた。色も形も大きさも、俺なんかとは全然違う。そして、同性の性器を口に含んでこんなにも喜んでいる自分は、やはり根っからのゲイなんだと自覚する。けれどもう、エド以外の男のものなんて考えるだけで吐き気がしそうだった。もうエド以外の男とこんなことするなんて、絶対にいやだ。エドとだからこんなにも興奮してしまう。エドとだからこんなにも大胆になれる。
「バカ、お前、入れる前に出たらどうすんだ…!」
「いいよ、俺飲みたい、エドの…。出して、口の中に…」
「う…あぁ…っ!」
 抵抗したけど俺はそこに食らいついて、結局エドは俺の口の中で達した。
 青臭い、生温かいそれが口の中いっぱいに吐き出される。断続的に排出されるそれを、俺は全て受け止めて飲み下した。
「マジで飲んだのか?」
「うん…。美味しかったよ」
 バカ、とまた言われて、でも俺は幸せだった。


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Crush on You act8

►2008/03/15 20:00 

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 事の前にシャワーを浴びたいという俺の懇願は、エドにきっぱりと拒否された。
 仕事の後で、汗臭いから嫌だって言ってるのにエドは聞く耳を持たない。
「三年もヤッてないんだぞ。これ以上、一分も我慢できねーよ」
「三年って…。じゃあ、あれから一度もしてないの?誰とも?」
「おい…。誰の所為だと思ってんだ…」
「…?」
 俺がキョトンとしていると、エドが呆れかえった深いため息を吐いた。
「まぁいい。意識的にやってるんだとしたらこっちも萎える」
「…はぁ?」
 何の話をしているのか俺には理解できなくて首を傾げるが、エドはそれについて説明するつもりはないらしい。エドが何を言いたかったのかは分からないけど、エドがあれから誰とも寝ていないとわかって嬉しい。余計な嫉妬をしなくて済むから。
「いいからこっち向けよ」
 そう言ってエドはその話を打ち切った。エドは俺の両肩をがっちりと抑えて、俺はもうエドから逃げられなくなる。逃げるつもりなんてないけど、真っ直ぐに向けられたエドの目が俺を射抜くみたいに鋭くて少し怖い。
「お前は?あれから他の奴とヤッたのか?」
「まさか…。してないよ。ずっと、エドのこと好きだったもん」
 気持ちを疑われているようで癪に障るけど、これは嫉妬だと思っていいんだろうか。居もしない俺の架空の相手に嫉妬するほどエドは俺のことを好きでいてくれているんだろうか?
「それに、俺モテないし…」
 あんまりこういう卑屈なことは言いたくないけど、エドが納得していない顔をするから仕方ない。
 俺がそう言うと、ようやくエドはその目を優しく細めた。
「バカ。お前は十分可愛いんだよ。他の奴が気が付かないだけで。…ま、気が付かなくていいんだけどな」
 俺のことを可愛いなんていうのは、エドくらいだと思う。それに、そう言ってくれるのはエドだけでいい。この先、エド以外の人と好きになるなんて今の俺にはもう想像できないから。エドだけが俺を見てくれればそれでいい。
「ずっと俺だけ見ててよ。俺もずっとエドしか見ないから」
「エリー…」
 エドが俺を呆然と見つめたかと思ったら、いきなり抱き寄せられてキスされた。俺も一瞬何が起こったのか分からず、頭が真っ白になったけど、俺の舌に熱く柔らかいものが絡まってきた時にそれがエドの舌だと気づき、一気に身体が熱くなった。
 三年前にエドと抱き合ったときにはキスなんかしなかった気がする。あの時はただただ物理的に身体を繋げただけで、お互いの気持ちなんて存在しない粗末な行為だった。だからこうして情熱的に求められると、身体が歓喜で打ち震えるほど嬉しい。ホントにエドが俺のことを欲してくれているんだと感じることができて嬉しい。
 俺は夢中になってエドのキスに応える。頭を抑えつけられて、水音が立つほど激しく舌を絡ませ合っているうちに、俺はそれだけでイってしまいそうになる。
「ハァ…っ、エド…、俺もう限界…!」
 俺が息を喘がせながらそう言うと、エドはなぜか悔しそうな顔になって舌打ちをした。
「だからお前エロすぎなんだよ…!」
 そう言うなりエドは俺をベッドの上に押し倒した。自分がどんな顔をしているのか分からない俺は戸惑うしかない。ただエドが、ギラギラと欲望を剥き出しにした目で俺を見るので、恐怖にも似た期待が電気のように俺の背筋を走り抜ける。
 俺はエドの手によって荒々しい手つきで服が脱がされていくのをじっと耐えるしかなかった。


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Crush on You act7

►2008/03/13 20:00 

 

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 やっぱりエドはまだレイジのことが好きなんだ。そうでなければわざわざ日本まで会いに行くわけがないと俺が内心落ち込んでいると、エドが言った。
「ちゃんとケジメをつけなきゃいけないと思ったんだよ。こんなんじゃお前にちゃんと好きだって言ってやることもできないだろ」
「…え?」
 今とんでもないことをさらりと言われた気がする。俺に好きって…。そう聞こえたけど、本当だろうか。期待と、それを打ち消そうとする臆病な心が葛藤する。長すぎた片思いの時間が、俺を疑心暗鬼にさせていた。
「日本に行って、あいつに会って、俺ははっきりとわかった。あいつの顔見ても、もう懐かしさしか感じなかった。あいつにも言われたよ。『今好きな人いるんじゃない?』ってよ。そしたら無性にお前に会いたくなって、こっちに着いて真っ先にお前に会いに行ったのに、俺がフラれたっつっても無関心だし」
 そっか、あの時まっすぐに会いに来てくれてたんだ。長旅で疲れてただろうに。なんか、嬉しい。
「我慢しきれなくて告ってみれば、お前はキレやがるし」
「ご、ごめん…」
 ホントに恥ずかしい。俺はずっと自分に自信が持てなくて、自分を好きになれなくて、卑屈になるあまり、エドの言葉を捻じ曲げて勝手に怒って逃げ出した。エドが本気で俺なんかと付き合ってくれるなんて信じられなかった。それは今この瞬間もそうだけど、前みたいに卑屈な感情はもう俺の中にはなかった。
「オレに不満があるんなら全部オレにぶつけろよ。もう逃げんな。オレが全部受け止めるから」
 こんな展開は夢みたいで信じられない。いつもは俺をからかったり、すぐに話を茶化したりするエドがいつになく真剣な顔をしているのをどこか不思議な気持ちで見ていた。
 エドの手が躊躇いがちに伸びて、俺の頬をかすめた。今までは手加減なく乱暴に触れていた手が、震えるように緊張しているのを感じて俺はたまらない気分になった。エドも怖いんだと気づいて俺は少しホッとして、そしてエドがもっと好きになった。抱きしめたい、キスしたい。もっとエドに触れてみたい。欲望とは違う、もっと深い部分で俺はエドを欲していた。
「…信じてもいいの?俺、エドのこと信じてもいい?エドのこと、好きでいい?エドのそばに居てもいい?」
 情けないくらいに声が震えた。縋るみたいな俺の言葉は、何のフィルターも通さず吐き出された俺の今の心情そのものでカッコ悪いことこの上なかったけど、それを聞いたエドはまるで苦虫を噛み潰したみたいなしかめっ面をした後、いきなり頭を抱き寄せてきた。
「…っぷ!な、何っ!?」
 何かおかしなことを言ってしまっただろうかと不安に思っていると、エドは俺の顔をグリグリと自分の顔に押し付けてきた。
「バカ、お前、可愛すぎ!いいに決まってんだろ!?そうしてくれないとオレが困るんだよ!」
 どうやら気分を害したわけではないと分かってホッとしたけど、俺はこの不自然な体勢が苦しくて仕方無かった。
「エ、エド、ちょ、くるし…」
「信じろよ、オレにずっと惚れてろ。一生オレのそばにいろ。ずっとオレのことだけ見てろ。オレもずっとお前だけだから」
 俺の胸が、歓喜で大きく震えた。好きっていう気持ちが身体中に広がって、どうしようもなく甘い痺れが指先まで伝わっていく。
「エリー、ごめんな。ずっと苦しい思いさせてたよな。もうお前を不安にさせたりしないから。幸せにするから、ずっとオレと一緒にいてくれ」
 まるでプロポーズのようなその言葉に、俺の涙腺は一気に決壊してしまった。今までの片思いの辛さが今この瞬間に報われた気がした。この人に恋をしてよかった。諦めないで、ずっと好きでいてよかった。全てがこの時のためにあったのだと思えた。
 エドが俺を抱き寄せて、頬に舌を這わせてくる。涙を舐められているのだと分かって、恥ずかしさとくすぐったさで身体が熱くなった。
「泣くな、バカ。これじゃ、これからお前を押し倒そうと思ってんのに、できねーだろ」
 エドのその言葉に俺の涙は瞬時に止まった。頭に血が集まるのを感じて、俺はエドの胸に顔をうずめる。きっと今の俺は耳まで赤くなっているに違いない。
「バカ…」
「ほら、あっちに行こうぜ。今日はお前をめちゃくちゃに甘やかしたい」
「………っ!!」
 頭の中がピンク色になってしまいそうだった。いや、すでにそうなっているかもしれない。エドが優しくて、俺なんかがこんなに大事にされていいのかと思う。でも、俺もエドを心から欲していて、もう誰にもエドを渡したくない。エドは俺のだ。そして俺もエドのものになるんだ。
 俺は期待に胸を熱くして、エドに促されるままにベッドルームに足を向けた。


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Crush on You act6

►2008/03/11 20:00 

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 エドの車はロンドンでも随一の老舗ホテルの前で止まった。そこの一番高い部屋を予約してあるとエドに言われて俺はすっかりビビってしまった。何しろ俺の格好といったら仕事中に抜け出してきたそのままで、もう何年も着ているくたびれたTシャツと何度も洗って色褪せたジーンズと最低限服が汚れないために付けているエプロンという、高級ホテルにあまりにも似つかわしくない服装で、俺は明らかにホテルのロビーで浮きまくっていた。だから少しでも自分の姿が隠れるようにエドの背中にくっついて、バラの花束の中に顔を突っ込んでいることしかできなかった。一刻も早く人目から逃れたくて、「早く部屋に行こう」という俺を、人の悪いエドはニヤニヤしながら見ている。こっちは穴を掘って隠れてしまいたいくらい居たたまれないのに、本当にエドは意地悪だ。
「もう、何笑ってんだよ!」
 俺がムスッと頬をふくらませると、エドはその締まりない顔をさらに緩ませた。
「お前、可愛いのな」
 何を言うのかと思えばそんなからかうような言葉で、俺はますます不愉快になる。
 俺がさらに怒れば、エドは「マジでお前は可愛い」と繰り返すので、俺もそれ以上怒るのがバカバカしくなってくる。26歳にもなる男に向かって可愛いとか言うエドの神経はどうかしていると思う。
 ようやく部屋に通された俺達はまずルームサービスで軽く食事を取った。二か月前に、あんな風に喧嘩して離れていたのが嘘みたいに俺は以前と変わらずエドに接することができた。振り返ってみればあの諍いもとても下らないことの様に思えてくる。
 エドは俺に腹を割って話そうと言ってくれた。だからその言葉を信じて、今なら素直に気持ちを打ち明けられそうな気がした。
 腹が満たされて落ち着いたところで、俺は覚悟を決めてエドに向かい合う。
「俺、エドのこと好きなんだ」
 この期に及んでまだ俺はエドの反応を怖れていた。「気持ち悪い」とか、「何バカなこと言ってんだ」とか、そんな風に言われたらどうしようとビクビクしていた。でも、エドの表情からはそんな侮蔑の色は伺えなかった。むしろその表情はひたすら優しく、甘い。何でか俺は急に恥ずかしくなって、その視線から逃げ出したくなった。
「よし、よく言った」
「…は?」
 エドは満面の笑みを浮かべて俺の髪の毛をグリグリとかき回した。乱暴な手つきのそれから逃れて、俺はわけも分からず問う。
「き、気持ち悪くないの?俺、ゲイだよ?」
「知ってるよ、そんなもん。大体、オレはレイと付き合ってたんだぞ。今更気にするかよ」
「でも…」
「それに、お前がオレのことを好きだってのも知ってる」
「………!?」
 俺は思わず絶句した。知ってるって、どういうことなんだろう?この気持ちを言葉にしてエドに伝えたことはなかったはずだ。それともオレがそういう目でエドを見ていたことはバレバレだったのだろうか?
 唖然とする俺にエドはさらに唖然とするようなことを言ってのけた。
「お前、俺とヤリながら何回も好き、好きって言ってただろ」
「……………!?」
 それは間違いなく三年前のあの時のことで、俺は薄れた記憶を必死に反芻するが、まったく思い出せない。あの日のことは、まるで記憶喪失にでもなったかのように本当に思い出せないのだ。それだけあの時は必死だったのだろうけど、だからってこれはあんまりだ。
「俺の上で一生懸命腰振って泣きそうな顔で何回も言っただろうが。忘れちまったのか?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 慌てて口をふさごうとする俺をエドは面白そうに見ている。わざと恥ずかしい言葉でそんなことを言うなんて、ホントにエドは人が悪い!
「わりぃ、わりぃ。でもよ、オレはお前がそう言ってくれるのをずっと待ってたんだぜ?」
「何で…?だって、エドはずっとあの人のこと好きだったじゃん」
 エドがずっとあの人のことを忘れられないのを分かってたから、ずっと何も言わなかったのに。いや、言えなかったんだ。どうせフラれるのがわかってたから。なのに、待ってたなんておかしいじゃないか。
「ああ、まぁな…。でも、お前とあんなことになって、オレはずっとお前のことを考えてた。レイのこともお前のことも大事で、どっちも中途半端で、どうしようもなかった。お前は何もなかったように振舞うし、もしかしたらアレはあの場の勢いみたいなもんかと思ったりした」
「あ、あんなこと、勢いでするはずないじゃん…!」
 確かにあの時は俺も正気じゃなかったけど、相手がエドじゃなきゃあんなこと絶対しなかった。
「わかってるよ。だからさ、お前がもう一回『好きだ』って言ってくれたら、オレももっと早く吹っ切れてたはずなんだ。それがお前、意地張りやがって…」
「俺の所為かよ!!」
 何だよその、俺の所為みたいな言い方。でも、エドが俺のことを少しでも想っててくれたとわかって少し嬉しい。きっかけがアレっていうのが、少し恥ずかしいけど。
「だから、レイが音楽堂を作るって話を聞いた時にはチャンスだと思ったんだ。あいつに堂々と会いに行くきっかけができるってな」
「………」
 やっぱり、レイジのことが今でも好きなのかな。エドは貴重な時間を費やしてまで、選ばれる確証もないコンペに参加したんだから。俺は再び落胆して、エドの次の言葉を待った。


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Crush on You act5

►2008/03/09 20:00 

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 次の日、エドは店にやってきて昨夜の弁解をしようとしたけれど俺が無視を決め込んだため諦めて帰っていった。次の日も、また次の日もエドはやってきたけど、俺はエドを許すつもりもなく、ついに四日目には姿を見せなくなった。エドが来なくなったことは少なからずショックだったけど、あれだけ頑なな態度を取っていたらそれも当然のことだった。
 多分あの『どうせ』という言葉は、俺を下卑しようと思って出た言葉ではないとわかってる。でも人間、ポロリと本音が出てしまうことがある。あれはそういうことだったんだろう。
 ホントはレイジのことがまだ好きなくせに。あんなことを言うなんて、俺も安く見られたもんだと思う。それとも俺はそんな風に思うとこ自体おこがましいのだろうか。俺がこんな態度を取ることは分不相応なことだったのだろうか。俺はエドから交際を申し込まれただけでも喜ぶべきだったのかもしれない。それでも俺のなけなしのプライドがそれを拒んだ。あんな些細な一言に突っかかった俺も大概だと思うけど、見下すようなその一言が我慢ならなかった。
 誰かの代わりに愛されたいわけじゃない。俺だけを見てほしい。対等な立場で愛して、愛されたいと願うのは当然のことのはずなのに…。
 もうエドは俺のことなんて見限ってしまっただろう。嫌われてしまったかもしれない。そんな絶望が胸を押しつぶすように苦しめたけど、俺は自分の行動を後悔してはいなかった。結局、こうなってしまったのは俺とエドの価値観の違いとか、性格の不一致とか、そういうことだったのかもしれない。最初から縁がなかったのだと思えば少しは気が楽になった。
 それから何の音沙汰もないまま日々が過ぎ、俺はすっかりエドのことを諦めてしまっていた。
 しかし、そんな俺の前に再びエドが現れたのは最後に会ってから二か月以上経った頃だった。


 まず俺はエドの姿に度肝を抜かれてしまって咄嗟に言葉が出なかった。
 エドはまるでイタリアの伊達男みたいな決めすぎなスーツスタイルに赤いバラの花束を持って現れた。明るいブラウンの髪は綺麗にセットされて一筋の乱れもない。
 今からデートにでも行くかのような格好で寂れたドーナツショップに現れたエドは、まるでチグハグで滑稽にすら見えた。
 エドは俺を見るなり二ヤリと笑うと、奥にいた顔なじみの店主に声をかけた。
「なぁ、こいつ今日借りてっていいか?ちょっと用があるんだ」
 こいつ、と差した指は間違いなく俺に向けられていて、俺は疑問を持つ間もないままエドによって店の外に連れ出された。
「ちょ、ちょっと!いきなりなんだよ…!」
 グイグイと強引に腕を引っ張るエドに俺は半ば引きずられるようにして、外に停めてあった車に乗せられた。
「もう…、何なんだよ……。意味が分かんない…」
 突然のエドの出現でただでさえ驚いていたのに、まるで攫われるようにして連れ出されて俺はもう呆れるしかない。
「こうでもしないとお前はまた逃げるだろ」
 そう言ってエドは手に持っていたバラを俺に押し付けた。
「これ、俺に…?」
「他に誰がいるんだよ。…お前にやる」
 ぶっきらぼうにそう言って、エドは車のエンジンをかけた。
 仕事用の年季のはいったエプロンをかけた俺には、この綺麗なバラはあまりにも不釣り合いで俺は困惑するばかりだ。
「なんで…。こんなの貰う理由なんかないよ…」
 ようやく最近はエドのことを思いきれそうな気がしていたのに、こうして本人を前にすれば気持ちが乱れてしまう。相変わらずエドは俺をドキドキさせる存在で、性懲りもなくときめいてしまう自分を抑えきれない。
「俺がお前にプレゼントしたいと思ったからやるんだ。だからお前は黙って受け取ればいいんだ」
 相変わらず強引でメチャクチャなことを言って、エドはこのプレゼントの正当性を主張した。
「お前は考え過ぎなんだよ。人の意図を勝手に誤解して、卑屈になって怒って…。不満があるなら俺にそのまんまぶつけろよ。オレも言葉が悪かったことは謝る。でもあれは言葉のアヤってやつで他意はねぇ。それくらい分かれよ」
 真剣な表情で、言葉でそう言われて、俺は今まで頑なに張りつめさせていたものがふと途切れたのを感じた。エドには見せるものかと、必死に壁を作って隠してきたものが顕わにされていくような心もとなさに俺はどうしようもない不安を覚える。
「一人で抱えこむな。もうオレから逃げるな。オレも、ちゃんとお前と向き合うから。今日はお互い、腹割って話そうぜ」
 信じてもいいのだろうか。俺は素直になっていいのだろうか。エドのことを好きだと言ってもいいのだろうか。その言葉を口にするのはひどく怖ろしく、勇気がいるけれども、言うなら今しかないのだということはわかっている。
 エドは車を走らせて、ロンドンの中心部に向かう。
 俺は、全てをエドに話す決意を決めた。


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Crush on You act4

►2008/03/07 20:00 

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 最近はロンドンにも小洒落た料理店が増えてきた。イタリアンやフレンチ、日本料理まで、お金さえ出せば今は何でも好きな物が食べられる。一昔前に比べれば、ロンドンっ子の胃袋事情は大分豊かになったと言える。
 その日エドは俺をステーキハウスに連れていってくれた。ドーナツ屋で働いてるくせにガリ痩せな俺をエドがからかいながらも心配してくれていることは分かっていたので何も言わず付いて行った。本当はあんまり肉は好きじゃないけど、エドとご飯を食べに行くことなんて滅多にないのに不愉快な思いをさせたくはなかった。
 なぜか上機嫌なエドを前に、俺はどこか居心地の悪さを感じていた。さっきからやたらとエドが俺を見ている気がして落ち着かない。顔に何か付いているのだろうか、とか久し振りのエドとの二人きりの食事で顔が脂下がってんのかな、とか色々考えたけどそういうことでもないらしい。理由はよく分からないけど、今日のエドは楽しそうだ。エドが楽しいなら俺は嬉しいけど、やっぱり今日のエドはちょっとヘンだ。
 黒いレザーのライダースジャケットはデザインがシンプルでエドにとてもよく似合っていた。インの白いシャツはボタンが胸元まで外されていて、シルバーのアクセサリーが見えてすごくセクシーだ。昼間のカッチリしたスーツスタイルもカッコ良かったけど、こういうプレイボーイっぽいファッションも似合ってる。先ほどから他の客からの視線を感じるのは、エドが有名人な所為もあるけど女性からのそれは明らかに好意の視線だ。そんなエドの連れが俺みたいなのでいいのかと思う。俺は自分の手持ちの服で一番いいものを着てきたつもりだけど、それでもみすぼらしいのは否めない。俺が居心地の悪い思いをしていたのはそういう理由もあった。
「ほら、ドンドン食え。お前はもうちょっと肉付けたほうがいいぞ」
 運ばれてきたステーキに、エドはさっそくナイフとフォークを突き刺したけど、俺は美味しそうに肉汁を垂れ流すそれにあまり食欲をそそられず、ずっと気になっていた事柄を訊いてみた。
「エド、俺に話があるって言ってただろ。何なの?」
「そんなのメシ食ってからでいいだろ。早く食えよ。肉、硬くなっちまうぞ」
 忙しなく手を動かして次々と肉を口の中に放り込んでいく様は気持ちのいいほどの食べっぷりだけど、俺はエドの話というのが余計に気になってしまって、もう食事どころではなくなってしまった。
「何だよ、気になるだろ?話してよ」
 俺の催促に、エドは仕方なくその手に持ったナイフとフォークを下ろした。大した話じゃねぇよ、と前置きしてナプキンで口元をぬぐう。
「お前さ、今付き合ってるヤツいるのか?」
 唐突なその問いに俺は思わず言葉を失ってしまう。
「……は?」
「だからよ、恋人とか、そういう相手はいるのかって訊いてんだよ」
 少しいらついたようにそう言われて、俺は何て答えていいか分からず視線を落とす。
「何で、そんなこと…」
 恋人なんて、居る訳がないのに。片思いの相手ならば目の前に居るが、そんなことを今ここで言えるはずがないじゃないか。
「何でって…、まぁ、あれだ」
 エドはめずらしく言い淀んで口を濁す。
「何だよ。さっさと言えってば」
「バカ、お前はホントにムードもへったくれもないやつだな!」
 こんな騒がしいステーキハウスでどうやったらムードなんか出せるんだ。ってゆうか、エドと俺でムードを出す意味が分からない。訳が分からず俺がむっすりと黙り込むと、エドはやれやれという風に嘆息した。
「わかったよ、お前相手に気持ちを察しろとか言う方がバカだったよな」
「バカで悪かったね、バカで」
 いつもの悪いパターンで会話が喧嘩腰になりつつある。本当は喧嘩なんかしたくないけど、エドに下心を抱いている俺としては何かにつけ素直になることができない。それが照れ隠しだと自分でも分かっているが、どうしても拗ねるか怒るか無関心なフリをしてしまう。
「バカ、怒るなよ。今から大事な話をするから、こっち見ろって」
 『バカ』っていうのはエドの口癖みたいなものだからまともに受け止めちゃいけないと分かってるけど、今日は何でか突っかかってしまう。エドが緊張しているのが分かるから、俺にもそれが移ってしまったみたいだ。
 エドの言う通りになんかしたくなくてそっぽを向いたまま、俺はその言葉を聞いた。
「オレと付き合ってみないかって、そういう話だ」
 エドが何を言ったのか、俺にはすぐに理解できなかった。呆然とエドの顔を見やると、気まずそうに顔を逸らされた。
 どうやら交際を申し込まれたのだとは理解したが、俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。だってエドの口から失恋をしたと聞かされたのは、つい数時間前のことだ。その舌の根も乾かないうちに俺にこんなことを言い出すなんて、どういうつもりなんだろう?レイジとはもう望みが無さそうだから手身近な俺で済まそうとしているのだろうか?
 そんなはずはない、きっとエドは俺のことを少しでも好きでいてくれているんだと希望を持とうとした俺を、エドは次の一言であっさりと打ち砕いてくれた。
「どうせお前今付き合ってるヤツいないんだろ?」
 だったらいいじゃねぇかと言わんばかりの横暴なその言い様に、俺はぐっさりと切りつけられた。
 ずっとエドが俺のことをどう思っているのか気になっていた。エドにとって俺はどういう人間だと思われているのか、知りたかった。それがこんな形で知ることになるとは思わなかった。
「『どうせ』?どうせって何さ…?」
 どうせ、俺は取り立ててキレイな顔をしているわけでもないし、身長もそんなに高くもなければ痩せっぽっちで貧相で取り柄も何もない凡人で…。エドやあの人みたいに人目を惹くような魅力もない。今までの人生で男にも女にもモテた経験なんて皆無だ。今だって、エドの言う通り恋人もいない。だけど…!
「あ、ワリィ…。違う、今のは…」
 何か言いかけたエドを遮って、俺は癇癪を起した子供みたいに爆発した。他に客がいっぱいいるとか、公共の場所で大声を出しちゃいけないとか、そんなことは俺の頭からは全部吹っ飛んでいた。
「ふざけんな!!どうせ、どうせ俺なんて………!!」
 俺はもうその場にいることさえ耐えられず、逃げるように店を出た。
 走って、走って、ようやく見知った風景に辿りついた時、ようやく少しだけ理性を取り戻して、俺はステーキを一切れも口にしなかったこととか下らないことに気づいた。とにかく頭がエドについて考えることを拒んでいた。結局、エドにとって俺はお手軽な代役でしかなかった。そのことが深く俺を傷付けたのだった。


〜To Be Continued…〜



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