Sweet Bitter Chocolate act5
►2008/03/31 20:00
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それから数日後、百合花が事務所を訪れたのは、里村が外回りに出かけたのと入れ違いだった。まるで見計らったかのようなタイミングで訪れた百合花に、吾一はひどく嫌な予感がしていた。
事務所に入るなり仁王立ちになり、どこからかき回してやろうかと辺りを見回す百合花に、吾一の背筋に戦慄が走った。
「ちょ…、お嬢さん、今日は里村さん、いませんよ…?」
無駄とわかりつつ吾一は恐る恐るそう言ってみたが、百合花は吾一を歯牙にもかけない素振りで里村のデスクに向かった。里村の不在をいいことに、百合花は里村のプライバシーを暴こうというつもりらしい。机の上の書類などを引っかき回し始めた百合花に、さすがの吾一も見かねて制止を入れた。
「お、お嬢さん、それはちょっと…!」
書類に触れたことが知れて後で怒られるのは吾一なのである。勘弁してくれと心の中で叫びながら、どうか玲人に繋がるような証拠が出てきませんようにと祈った。百合花は机の上ばかりか、引き出しの中身まで探りを入れたが、結局望んだようなものは出てこなかったようだ。
安堵した吾一だったが、その矛先が今度は自分に向いたことに脅威を覚えた。
「なぁ、里村の女、知ってるんやろ?どんな女なん?」
「い、いや、どんなって…」
知っているだけに、どう嘘をつくべきか迷ってしまう。まさか、相手があの荻久保玲人だなどとは口が裂けても言ってはならない。
「ウチより若い…ってことはないやろ?何歳なんやろ?顔は?ウチよりキレイ?」
「あ…と。えぇっと…。さぁ、どうなんすかね?あはは…」
今更しらばっくれても遅いことはわかっていたが、この質問に正直に答えればきっと自分の命はない。特に、最後の質問は。
百合花は、今どきの女性らしく目鼻立ちのくっきりとしたどちらかといえば派手な顔立ちの美人だったが、女性のメイクオフ後のリアルな現実を知る吾一には、それがメイクテクニックによる幻だということくらいわかっていた。長いまつ毛も、美しく整えられた眉毛も、アイラインで大きく見える瞳も、数々のメイクアイテムと彼女らの労力の賜物である。
しかし、新年早々に見知ってしまった玲人の本物の美しさに、百合花が敵うはずもなかった。もちろん、里村が美貌だけで玲人と付き合っているとは思えないが、それで勝負をしようとすればその勝敗は明らかだった。
「何やねん、はっきり言わんかいな。どうせ、どこぞの商売女なんやろうけど、そんな年増に里村はやらへん。ウチのほうがピッチピチやん。なぁ?」
「はぁ…」
追及の手が緩んだことに安心しきっていたために、そのあと百合花がとった行動にまで気を回していられなかった。百合花は「喉乾いた」と呟くと、冷蔵庫に手をかけた。吾一がその存在に気が付いたときにはもう手遅れであった。
「…ちょっと。何やねん、コレ」
百合花の手にあるのは、里村に頼まれて吾一が買ってきたチョコレートの包装箱だった。いかにも高級感を漂わせるそれは、どうみても本命チョコにしか見えない。
自宅に置いておくとたまに訪れる玲人に見られてしまう可能性があるため、事務所の冷蔵庫で保管していたのだが、それが仇になってしまうとは里村も思わなかっただろう。
「コレ、銀座の有名な店やんなぁ?女からもらったん?それにしては、早すぎちゃう?まだ一週間もあんのに…」
「い、いや…。それは、その…」
焦りのために吾一の掌が変な汗で湿る。それが貰ったものではなく、これからあげるものだとは百合花は思いもしないだろうが、確かにこの時期にそんなものがあるのは不自然だ。
「それは、俺が貰ったんですよ…。当日には会えそうもないからって…」
吾一がついた苦し紛れの嘘はいとも簡単に見破られてしまう。
「アホか。お前にこんな高い本命チョコやる女がいるわけないやん。ありえへん」
確かにそうなのだが、あまりにも酷い言葉でそう決めつけられて、吾一は涙目である。
「ひ、ひどいっすよ、お嬢さん…」
「わかるわ、そんなもん」
吐き捨てるようにそう言って、百合花はその口元にしたたかな笑みを浮かべる。
含みのあるその微笑に、吾一の胃がざわりと騒ぎ、落ち着かない気分になった。
「…ふん。まあ、ええわ。こんなもんで負けたとも思わんし」
事務所に乗り込んできた時の勢いから、チョコレートの箱を踏みつぶすくらいのことはするかと思われたのに、百合花は大人しくそれを冷蔵庫に戻した。それが吾一には逆に恐ろしく、不気味にすら感じられた。
「ウチが今日ここに来たこと、里村には言ったらあかんで。わかってるやろ?」
暗に例のナンパのことをにおわせて、百合花は念を押した。
「は、はぁ…」
ナンパしたことをばらされるよりも今はもっと怖いものがある気がして、吾一は嫌な予感を覚えるのだった。
〜To Be Continued…〜

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事務所に入るなり仁王立ちになり、どこからかき回してやろうかと辺りを見回す百合花に、吾一の背筋に戦慄が走った。
「ちょ…、お嬢さん、今日は里村さん、いませんよ…?」
無駄とわかりつつ吾一は恐る恐るそう言ってみたが、百合花は吾一を歯牙にもかけない素振りで里村のデスクに向かった。里村の不在をいいことに、百合花は里村のプライバシーを暴こうというつもりらしい。机の上の書類などを引っかき回し始めた百合花に、さすがの吾一も見かねて制止を入れた。
「お、お嬢さん、それはちょっと…!」
書類に触れたことが知れて後で怒られるのは吾一なのである。勘弁してくれと心の中で叫びながら、どうか玲人に繋がるような証拠が出てきませんようにと祈った。百合花は机の上ばかりか、引き出しの中身まで探りを入れたが、結局望んだようなものは出てこなかったようだ。
安堵した吾一だったが、その矛先が今度は自分に向いたことに脅威を覚えた。
「なぁ、里村の女、知ってるんやろ?どんな女なん?」
「い、いや、どんなって…」
知っているだけに、どう嘘をつくべきか迷ってしまう。まさか、相手があの荻久保玲人だなどとは口が裂けても言ってはならない。
「ウチより若い…ってことはないやろ?何歳なんやろ?顔は?ウチよりキレイ?」
「あ…と。えぇっと…。さぁ、どうなんすかね?あはは…」
今更しらばっくれても遅いことはわかっていたが、この質問に正直に答えればきっと自分の命はない。特に、最後の質問は。
百合花は、今どきの女性らしく目鼻立ちのくっきりとしたどちらかといえば派手な顔立ちの美人だったが、女性のメイクオフ後のリアルな現実を知る吾一には、それがメイクテクニックによる幻だということくらいわかっていた。長いまつ毛も、美しく整えられた眉毛も、アイラインで大きく見える瞳も、数々のメイクアイテムと彼女らの労力の賜物である。
しかし、新年早々に見知ってしまった玲人の本物の美しさに、百合花が敵うはずもなかった。もちろん、里村が美貌だけで玲人と付き合っているとは思えないが、それで勝負をしようとすればその勝敗は明らかだった。
「何やねん、はっきり言わんかいな。どうせ、どこぞの商売女なんやろうけど、そんな年増に里村はやらへん。ウチのほうがピッチピチやん。なぁ?」
「はぁ…」
追及の手が緩んだことに安心しきっていたために、そのあと百合花がとった行動にまで気を回していられなかった。百合花は「喉乾いた」と呟くと、冷蔵庫に手をかけた。吾一がその存在に気が付いたときにはもう手遅れであった。
「…ちょっと。何やねん、コレ」
百合花の手にあるのは、里村に頼まれて吾一が買ってきたチョコレートの包装箱だった。いかにも高級感を漂わせるそれは、どうみても本命チョコにしか見えない。
自宅に置いておくとたまに訪れる玲人に見られてしまう可能性があるため、事務所の冷蔵庫で保管していたのだが、それが仇になってしまうとは里村も思わなかっただろう。
「コレ、銀座の有名な店やんなぁ?女からもらったん?それにしては、早すぎちゃう?まだ一週間もあんのに…」
「い、いや…。それは、その…」
焦りのために吾一の掌が変な汗で湿る。それが貰ったものではなく、これからあげるものだとは百合花は思いもしないだろうが、確かにこの時期にそんなものがあるのは不自然だ。
「それは、俺が貰ったんですよ…。当日には会えそうもないからって…」
吾一がついた苦し紛れの嘘はいとも簡単に見破られてしまう。
「アホか。お前にこんな高い本命チョコやる女がいるわけないやん。ありえへん」
確かにそうなのだが、あまりにも酷い言葉でそう決めつけられて、吾一は涙目である。
「ひ、ひどいっすよ、お嬢さん…」
「わかるわ、そんなもん」
吐き捨てるようにそう言って、百合花はその口元にしたたかな笑みを浮かべる。
含みのあるその微笑に、吾一の胃がざわりと騒ぎ、落ち着かない気分になった。
「…ふん。まあ、ええわ。こんなもんで負けたとも思わんし」
事務所に乗り込んできた時の勢いから、チョコレートの箱を踏みつぶすくらいのことはするかと思われたのに、百合花は大人しくそれを冷蔵庫に戻した。それが吾一には逆に恐ろしく、不気味にすら感じられた。
「ウチが今日ここに来たこと、里村には言ったらあかんで。わかってるやろ?」
暗に例のナンパのことをにおわせて、百合花は念を押した。
「は、はぁ…」
ナンパしたことをばらされるよりも今はもっと怖いものがある気がして、吾一は嫌な予感を覚えるのだった。
〜To Be Continued…〜
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