恐怖のバクテリア〜バクテリア王国へようこそ〜

御厨鈴音(みくりやれおん)が勝手に作り上げた恐れるにたらぬ王国。小説とも呼べない駄文ばかりですので、読むときっと後悔します。そんなの嫌だ、という方と18歳未満の方、BLという二文字に嫌悪を感じる方は今すぐお逃げ下さい。
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御厨 鈴音

Author:御厨 鈴音
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Primrose Way act31 (完結)

►2007/10/31 20:00 



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「…ずっと一緒にいよう、アーサー」
 それはアーサーが長く待ち望んでいた言葉だった。この言葉を手に入れる為に自分がどれだけ愚かな努力をしてきたか、どれだけのものを犠牲にしてきたか知れない。
 自らの輝かしい地位も名声も、新しく育まれるはずだった恋も投げ打って自分の元に居ることを選んだレイをアーサーは呆然と見つめていた。そして頭の中は最初の衝撃波が過ぎ去った後、次第に冷静さを取り戻していった。
 レイが自分に向ける感情には一点の曇りもない。その言葉に嘘はないことは、揺るぎなく自分を見つめ返してくる強い意志のこもった瞳を見れば分かる。しかし、自分に向けられる純然たるその感情がなぜ「恋情」ではないのだろう?レイが自分に向けるそれは聖母が人民に向ける深い慈愛と同じものだ。そしてそれこそが、アーサーを長らく苦しめてきた元凶だと知る。
 本当は辛かった。
 あんなにも酷い凌辱を受けながら一切アーサーを責めることなく、現状に不満をもらすわけでもなく、解放を乞うこともしないレイが逆にアーサーには苦痛だった。そんなレイを見るにつけ、とうに捨てたはずの罪悪感がアーサーを苦しめた。後ろめたさからレイと顔を合わせることもできなくなった。ジッと見つめてくるレイの視線に何もかも見透かされている気がして怖かった。だから自分は逃げた。
 …しかしそれも限界だった。
 アーサーはレイの腕の輪の中から抜け出すと、自らのシャツのボタンを外して首から鎖で下げていた鍵を引きちぎる。その鍵でレイの手枷と足枷の錠を外してやる。
「ア、アーサー!?」
 驚愕で目を見開いたレイは何が起きたのか分からない様子でおろおろするばかりだ。
 そんなレイに、アーサーは冷たい言葉を言い放つ。
「同情などいらない!!」
(愛してる、レイ…)
 レイを解放する。しかしこれは自分の束縛からレイを解放するのではない。レイから解き放たれるのは自分だ。アーサーは、レイから解放されるのだ。
「どうして、ねえ、アーサー、どうして!?」
「同情などで付き合ってもらうほど落ちぶれたつもりはない!!」
(さよならだ、レイ…)
 同情などではないことは、アーサーが一番よく分かっている。レイは心の底から自分を心配してくれている。だが、それが余計に辛い。
 アーサーは奥の部屋からレイの所持品を持ち出す。ここに来るまでに着ていた衣類一式と財布や携帯電話。永遠に閉じ込めておくつもりなら処分して然るべきもの。それでもそれらを取ってあったのは最初から分かっていたからなのかもしれない。こんなことが長く続くわけがないことを。
「今から人が外に出る。丁重にお帰り願え」
 部屋の外で待機している警備員にインターフォンでそう伝え、アーサーはレイの二の腕を掴み引きずるようにして所持品と共にドアの外に放りだした。
「日本でも何処でも帰るがいい」
(君を、愛していた…)
「アーサー!!待って、アーサー!!」
 レイの悲鳴のような声が重たいドアに阻まれ聞こえなくなる。
(これでいい。これで終わったんだ…)
 ひっそりと静まり返った室内で、アーサーは倒れ込むように膝をつく。
「…フ……、ク…ゥ……」
 身体を引き裂かれるような激しい喪失感がアーサーを苛み、室内に嗚咽の声だけが響く。
 どんなに焦がれても手に入らぬ非情な運命をアーサーはひたすらに憎んだ。
 楽になるはずの選択肢が、なぜかアーサーを苦しめる。
 今はただ、喪失の苦しみに痛哭するばかりだった。



〜『Primrose Way』END〜



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Primrose Way (完結) | Comment(10) | Top ▲

Primrose Way act30

►2007/10/30 20:00 


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 レイの憐れむような視線がアーサーに突き刺さる。
 出来ることなら知られたくなかった。しかし、自分にそれ以外の道があったとは思えない。それが弱さだというのならアーサーは否定しない。自分の身を滅ぼすものと知っていても、その時の自分には必要なものだったからだ。
 確かなものと信じて疑わなかった自らの足許が崩れようとしている今、これ以上失くして惜しいものはない。…レイ以外は。
 近日中に『IBC』の役員会議が開かれ、アーサーのCEO解任は決定されるだろう。アーサーがこの身を削ってまで守ってきたものが、あっさりと失われてしまうのだ。これが自暴自棄にならずにいられようか。こうして自分は世界から少しずつ締め出され、抹殺されていく。
 拭い切れない失望を胸にアーサーはレイのいる部屋へ戻る。今はただ、レイの温かな身体を抱きしめていたい。あの夜以降、そういったスキンシップからは遠ざかっていた。しかし、今日ばかりはレイを求めずにはいられない。
「アーサー、お帰り」
 昨夜の出来事など気にも掛けていないように、レイが笑顔で迎えてくれる。今すぐにでも抱きしめてその身体を滅茶苦茶に愛したい衝動に駆られるが、あの夜の失態がアーサーの理性にブレーキをかける。優しくしたいと心では思っていても、自制が働くとアーサーは自然と無愛想になってしまう。「ああ」とだけ応えて、アーサーはネクタイを緩める。
「アーサー、あのさ、今日はちゃんと話し合おう?」
 レイが恐る恐るといった感じに提案してきた。アーサーは内心ギクリとしながらも平静さを装った声を作る。
「話し合いなど必要ない」
 レイはアーサーの腕の痣について問い詰めるつもりなのだろう。
 しかし今はそんなことを話し合う気分にはなれない。そもそも、ドラックを使うに至った経緯などレイに話すつもりはなかった。
「ここに来てから僕達、ろくに話してなかったでしょ?ちゃんとアーサーと会話したいんだ」
 今更何を話し合うというのか。これ以上、心をかき乱されたくはない。膿んだ心の傷は、今はそっとしておいてほしい。
「君とするべき話などない」
 会話など今は必要ない。今アーサーに必要なのは、全てを忘れるための確かな熱だ。情熱に身を任せて一時的にでも全ての煩い事から解放されたい。 
「アーサー、ちゃんとこっち見て。僕を見て話して」
 レイはアーサーの前に回り込み、優しく諭す。
「怖がらないで。…じっとしてて」
 そう言うとレイは手枷を嵌められた腕の中に、アーサーを閉じ込めた。レイの腕の輪の中にガッチリと拘束されアーサーは身動き出来なくなる。
「よいしょっと。…結構キツイね。でもちょっとだけ我慢して。こうでもしないとアーサー逃げるでしょ?」
 レイの予想もしなかった行動に、アーサーは呆然としていた。
 身体を隙間なく密着させ、今にも触れ合いそうな距離にレイの顔があった。レイはひどく嬉しそうな表情でアーサーを見つめていた。何がレイをそんな顔にさせているのか分からず、アーサーは内心困惑する。
「あ〜あ、酷い顔。せっかくのハンサムが台無しだよ?ちゃんと鏡見てる?」
「…いいや」
 レイが何を言いたいのか分からず、アーサーはその意図を図りかね、戸惑う。
 優しく目を細めてレイはアーサーを見つめる。それがアーサーをひどくくすぐったい気分にさせた。
「君の顔好きだよ。夏の海の色をした瞳とか、少し垂れ目なとことか。とがった高い鼻とか、厚すぎない唇とか…全部、好きだよ」
 レイの言葉はアーサーの心を優しく撫でていく。ささくれ立った心が次第に丸みを帯びていくようだった。
「顔だけじゃない。頭良いくせに不器用なとことか、ぶっきらぼうだけど本当はすごく優しいことも知ってる。僕のことを誰よりも愛してくれてることも…知ってる」
 アーサーはようやくレイと正面から視線を合わせることが出来た。優しい色を浮かべた瞳がアーサーを見つめていた。嘘偽りのない、真実がそこにあった。
「…ずっと一緒にいよう、アーサー」
 それはアーサーがずっと待ち望んでいた言葉だった。


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Primrose Way act29

►2007/10/29 20:00 




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 レイはまるで信じられないものを見るような眼でアーサーを見つめた。
 まさかアーサーが…という思いと、激しい焦燥とがごちゃ混ぜになり頭の中が混乱していく。
「アーサー、この痕は何…?まさか君、まさか…」
 アーサーの左腕にできた無数の紫斑はどこかにぶつけたにしては不自然過ぎた。
 精悍な面立ちはやつれ、まるで金糸のようだったブロンドは艶を失くしまるで打ち捨てられた藁のように萎びている。肌や唇も所々皮膚がめくれて白く粉を吹いていた。
 改めて確認するまでもなく、今のアーサーの姿は酷いものだった。
 紫斑が意味するところの答えはアーサーを問い詰めずとも明白だった。
「どうして、どうしてこんなことに…?」
 問うように呟いて、しかしそれが自分の所為なのではないかと思い付く。
 アーサーとの関係の破綻…。しかしそれは仕方の無いことだと思っていた。自分がアーサーから身を引くほうが彼の将来にとって望ましいことのように思えた。男同士の恋愛に未来はない。ましてやアーサーは名家の御曹司で、未来に血統を残さなければならないという半ば強制的な義務を背負っている。アーサーがどんなにレイを愛していても、自分たちの関係は何も生み出さない。世間から非難されるだけの不毛な関係なのだ。
 アーサーにはそのことを何度も繰り返し諭してきた。アーサーとて分かっていないわけではないだろうが、彼がレイの言葉に耳を貸すことはなかった。それでもいつか、アーサーが心変わりすることを、またアーサーに大切な人が出来ることをずっと祈り続けてきた。しかし、アーサーのレイへの想いは想像以上に強く、激しいものだった。自分の身を滅ぼしてしまうほどに…。
 どうしてもっと早く気付いてあげられなかったのか。こんなことになる前に何かできることがなかったのだろうか?
 後悔がレイを苦しめ、激しい焦燥へと駆り立てる。
「駄目だよアーサー、こんなこと絶対に駄目だ!」
 力を込めて揺さぶったレイの手は、アーサーによって乱暴に振り払われた。
「君には関係のないことだ」
 一切視線を合わせることなく、アーサーは立ち上がると部屋の一つに入っていった。カチリと施錠の音が聞こえ、レイは拒絶されたのだと知る。
 話し合いがしたいと思ったが、アーサーのあの頑なな態度では今日は無理そうだった。
 レイはその夜、簡単に眠りにつくことができずひたすらアーサーのことばかり考えていた。
 そうしていつしか訪れた眠りは浅く、レイは久しぶりに過去の悪夢を見た。


 恐ろしい場面で目が覚めて、レイは自分の身体が汗で不快に濡れていることに気づく。
 再び寝入る気分にもなれず、レイは水を求めてキッチンへと向かう。
 キッチンに行くにはリビングを通らなければならない。レイはふとリビングで物音が聞こえて立ち止まった。
 リビングの壁は今はロンドンの夜景を映し出していた。そしてその窓の前には人影があった。
 他でもないその人物は琥珀色の液体の入ったグラスを手に背を丸め、身体を震わせていた。
 アーサーの噎び泣くような声に、レイはその場に立ち尽くし締め付けられるような胸の痛みに呼吸を奪われた。
(アーサー…)
 声を掛けて慰めてあげたい、と思ったがとてもそんな雰囲気ではなかった。そして今の自分にそんなことをする権利はないと気づいた。
 世界の経済をリードする類い稀なるカリスマを持った青年はその実、あまりにも孤独だった。


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Primrose Way act28

►2007/10/28 20:00 



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 四日目の夜もレイの縛めはシャワーを使う時以外は解かれることなく、レイは窮屈な生活を強いられていた。枷の下には包帯を巻いて皮膚が傷つかないように保護してあるが、手首には赤黒い痣ができていた。長時間圧迫され続けた影響である。骨にまでは影響は出ていないようだが、この状態が長く続けばどうなるかはわからない。
 今のところレイに出来ることは指が鈍らないようにエアピアノでイメージトレーニングをすることくらいで、実際には鍵盤を叩く勘が鈍り始めていることは自覚していた。
 アーサーにピアノを使わせて欲しいと懇願してみようかと思ったが止めた。答えは聞く前から分かっていたからだ。もちろん答えは否、だ。
 シャワーを使いながらそんな風に考え事をしていたせいで、普段から有るとは言い難い注意力が散漫になっていたらしい。濡れて滑りやすくなっていた浴室のタイルの上で足を滑らせてしまった。レイが派手な叫び声を上げたので、すぐにアーサーが様子を見にやってきた。
「どうしたんだ、一体…」
 浴室で尻持ちをついているレイを見てアーサーが怪訝そうな顔をした。
「転んじゃって…」
 照れ笑いをしてみっともなく晒している全裸を少しでも隠そうと閉じようとした足を、アーサーに掴まれた。ギョッとするレイを尻目に、アーサーが眉をひそめた。
「血が出ている」
 どうやらわずかに突き出したタイルの縁で足の裏を切ってしまったらしい。怪我をしたレイよりもアーサーの方が苦しげに顔を歪めている。最近のアーサーは表情が無く感情を読み取りづらいが、心配してくれているのだとその時ははっきりと感じることができた。
「あ、あの、ごめんね…?」
 そんな風に心配させてしまったことに対しての謝罪のつもりだったのだが、アーサーは忌々しそうに舌打ちをしただけだった。レイが謝ったことが気に食わなかったらしい。そしてアーサーは有無を言わさずレイを横抱きに抱え上げると、居間のソファにレイを乱暴に下した。
 何が始まるのかとレイはビクビクしながらアーサーの動向を見つめていたが、アーサーはバスタオルと救急箱を持ってきただけでレイが懸念していたような性的かつ暴力的な行為はなかった。
 ぬれ鼠だったレイはバスタオルで身体を拭きながら、足をアーサーに委ねていた。アーサーはレイの足の裏を注意深く消毒したあと、傷薬を塗ってくれた。
「たいした怪我じゃない。大丈夫だろう」
 それはまるでアーサーが自身に言い聞かせているようでもあった。言った後、ホッとしたように嘆息したアーサーをレイは見逃さなかった。突き放されているようで、実はひどく気にかけていてくれていることをレイは理解した。出会った頃は様々な言葉を用いて、レイを嬉しがらせたり、聞いている方が恥ずかしくなるようなことを平気で口にするようなアーサーだったが、それは彼のプレイボーイ的な一面なのであって、本当の彼は実は不器用で口下手な人間なのかもしれないとレイは気づく。そんなアーサーに初めて親しみを覚え、そしてそんなアーサーの人間臭さが好ましく思えた。
「ねえ、アーサー…」
 レイがアーサーの腕に手を添えると、彼は驚いたように僅かにビクリと身体を震わせた。そして気まずそうに視線を逸らす。何が彼を驚かせたのかと、レイはアーサーの視線を追う。アーサーは腕まくりしていたシャツをしきりに気にしていた。アーサーの剥き出しの腕に目をやると、そこには黒ずんだ紫斑が無数にあった。
 レイはその痣に見覚えがあった。逞しい腕にあるそれは弱さの象徴。破滅への、道。
 昔、ドラックについて特集された報道番組を目にした。酷い依存性と精神への影響。快楽と引き換えの破滅への道だと誰もが知っているようで、その本当の恐ろしさを誰も知らない。
 恐ろしいと思いはしたが、それは違う世界の話だと思っていた。自分とは無縁の話だとそう思っていた。自分の最も信頼する男の腕にその紫斑を見止めるまでは。
 その時の記憶がレイの中でフィードバックする。
『ケイゴ、その痕、何…?』
「アーサー、その痕、何…?」
 レイの問う声が知らず知らずのうちに震えた。まるで、あの時と同じように…。


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Primrose Way act27

►2007/10/27 20:00 



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 レイが全く不満を漏らさないことにアーサーは逆に不安を感じていた。
 この現状にレイが満足しているはずもなく、アーサーに対して言いたいことが山ほどあるはずなのにレイはそんなことを億尾にも出さない。
 ただ一つ、日本にいる友人達に連絡を取りたいと言ってきたがそんなことをアーサーが許可できるわけもない。その電話を逆探知でもされれば、この場所を知られ兼ねない。それはレイがいくら「逃げたりしないから」とアーサーを説得しても防げるものではないからだ。
 レイを手放したくない。手放せるはずがない。今レイが自分の世界から居なくなってしまえば、自分の世界は崩壊する。ギリギリのラインで保たれているこの世界は、レイがいるからこそ成り立っている。
 …思えば、レイに出会ったあの瞬間からアーサーの世界はレイを中心に回り出した。それまで自分中心だった世界が、レイ一色に染まった。他の人間など目に入らず、ただひたすらレイだけを見つめ続けた。
 しかし、世間はそれすらも許してはくれなかった。自分たちの恋は全否定され、彼らの悪意に満ちた批判はやがて二人の仲を引き裂いた。愛し合っていたはずだった。やり直せると思っていた。それなのに…。
 どこで道を誤ってしまったのだろう。
 何がいけなかったのだろう。
 レイを再びこの腕に戻すために様々な手を講じてきたが、何一つ上手くいかない。思い通りにならない。ならばもう、閉じ込めてしまうしかないではないか。レイの意思など関係なく、自分の目の行き届く『檻』の中に閉じ込めて、自分のことだけを見て自分のことだけを感じていればいい。
 あの部屋はアーサーそのものだ。レイ以外に何も見るべき価値のない世界。レイが全てでレイ以外何もない世界。レイがいなければ、存在すらしなくなる。だから、レイもそうなってしまえばいい。自分以外何も見えない、自分がいなければ何もできない、アーサー・ギルフォードという存在が全てを支配するそんな世界になってしまえばいい。そのためには、今レイの大部分を占めている『音楽』という要素は排除すべきカテゴリーだった。
 何もない部屋で、ひたすらテーブルに向かって指を動かし鼻歌混じりに音楽を奏でていたレイからは音楽に対する執念すら感じた。どんな物理的障害もレイの音楽への情熱を打ち砕くことはできなかった。これから先、社会的にレイジ・オギクボという人間が作った音楽が消滅していくことはあっても、レイの中にある音楽は鳴り止むことはないのかもしれない。それでは駄目なのだ。
 自分が捧げているのと同等の愛が欲しい。同じだけ自分に夢中になって欲しい。
 それが自身の子供っぽいエゴだとわかっていても抑えようがない。
 …おそらく、『IBC』のCEO解任は時間の問題だろう。
 しかし、そんなことはもうどうでもよかった。アーサーには一生働かずともこの先暮らせるだけの貯えがある。
 レイがいればいい。レイさえ傍にいれば、後は何もいらない。
 なのに、この胸に痞(つか)えるような苦しさは何なのか?一つの目的を達したはずなのに、まったく心が浮き立たないのはなぜなのか?
 自分とレイの将来が見えないという恐怖にアーサーは一人うち震えた。


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Primrose Way act26

►2007/10/26 20:00 



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 朝はアーサーに起こされて目が覚めた。
 室内には時計が見当たらないので正確な時刻が把握できないが、朝食と言われて出されたものを例によってアーサーの手自ずから食べさせられ、仕事へ出かけるアーサーを見送った。
 人間は朝日の光で朝を判断するというが、窓のないこの室内ではアーサーの行動を頼りに時間を判断するしかない。
 アーサーが自分を解放するつもりはないらしいことは新たに嵌められた手枷から察することができた。寝ている間はさすがに外してくれていたようだが、朝目覚めるのと同時に枷が嵌められた。足首にも同様に鎖で繋がれた枷が嵌められていて、歩くのに支障がない長さに調節されている。歩くたびにジャラジャラと金属の擦れ合う音がして、拘束の身であることを実感させられる。
 逃げる意思がないことを伝えたが、アーサーは聞く耳を持とうともしなかった。
 アーサーは一体何のためにこんなことをしているのだろう。そしていつまで…?
 考え出すとキリがなく、しかし、テレビもラジオもなく他に何もすることがないこの室内ではどうしても思考回路に集中してしまいがちで、何の希望の兆しもない今の現状ではつい考えも沈みがちになる。
 せめてピアノがあれば何時間でも時間を潰すことができるのにと、レイは思う。
 悪い方向へ流れてしまいそうな気分を払拭するため、レイは頭の中にピアノを思い浮かべる。拘束されたままの不自由な両手をテーブルの上に置いてそこにまるでピアノがあるかのように指を動かす。鼻歌で音楽を奏でながら、レイはいつか再び本物のピアノが弾けることを夢見た。


 アーサーは昼に一度レイに昼食を食べさせるため部屋に一度戻り、数時間後に再び帰ってきた。正確な時間はわからないが夜になったのだろう。ここへ来て三日目の夜になる。
 今日は手枷を外して一人でシャワーを使わせてもらうことができた。身体をきれいにした後は再び枷を嵌められ、アーサーが夕食を食べさせてくれる。しかしアーサーは決してレイと食事をすることはない。この部屋に閉じ込められてから一度もアーサーが食事を摂っている姿を見たことがないことに気づき、とたんに心配になる。
 アーサーは明らかに以前よりやつれていた。顔色も悪く、目の下には影が落ちている。むしろ閉じ込められているはずのレイの方が健康的だった。
「アーサー、ちゃんとご飯食べてる?」
 レイが不安げに問うと、アーサーはやはり皮肉気に笑い、「ああ」としか答えない。
「嘘だ、アーサー痩せたよ。顔色もよくないし…どっか、身体悪いの?」
 するとアーサーは目を細めて優しい顔つきで微笑んだ。痛々しさすら感じられる微笑にレイは胸苦しさを覚えた。
「心配してくれるのか…?」
 アーサーをこんなにも儚く感じたことはない。触れたら今にも崩れてしまいそうなほど、目の前のアーサーは脆い。
「心配だよ。僕はいつだって君が心配だ」
 レイの言葉にアーサーが苦い笑いを浮かべる。
「僕はいつだって君の幸せを…」
 しかし、レイの言葉を遮るようにアーサーが言葉を被せてきた。
「落ち着いたら君にいいものを見せてやろう。きっと気に入る」
 釈然としない思いのまま、レイは立ち上がったアーサーを見つめた。
 アーサーは鍵を手にし、それを壁に差し込んだ。すると壁だと思われていたものが左右に割れる。そして現れた光景にレイは目を奪われた。
 そこには煌びやかなロンドンの夜景が広がっていた。それは映像などではない。地下かどこかだと思っていた部屋は、実は空中に浮かぶ楼閣だったのだ。
「すごい…」
 驚いて声も出ないレイに、アーサーはフッと笑う。
「夜景が好きだったろう?」
 アーサーのその言葉にレイは訳もなく胸がざわめいた。
 もしかしたら、アーサーはレイの為にこの空間を作りあげたのだろうか?逃げられないように万全のセキュリティーを施し、時計も一切の娯楽もない、まさに監禁部屋…。そして唯一心を和ませることができる夜景…。
 どうして、という言葉が出かけて止めた。怖ろしくて、聞くことなどできなかった。
 

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Primrose Way act25

►2007/10/25 20:00 

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 アーサーが寝室に戻ると、レイはすでに寝具に包まれて静かな寝息を立てていた。
 レイが目を覚ました時、アーサーは自分が罵られることを覚悟していた。部屋に監禁し、薬物を使ってその身体を犯した揚句、拘束具をはめられたまま自由を奪われているのだ。レイとて多忙の身だ。仕事も詰まっていたはずだった。
 それでもレイがアーサーに対し、怒りや苛立ちをぶつけることはなかった。
 昼間にレイがポツリと呟いた言葉が頭の中に響く。
『アーサー…、僕はどうしたらいい…?』
 憤るどころか、レイは自分のために何ができるのか模索している。
 アーサーが理不尽な要求を出すたびにレイは「どうして」「なぜ」と口応えしたが結局はアーサーの言葉に従った。アーサーが再び力での服従を強いるのを恐れた為だとも取れるが、レイはそうしながらアーサーの考えを推し図ろうと努力している様が見られた。
 しかし、アーサーはレイに何を要求しているわけでもなかった。だからレイの努力は徒労に終わるだろう。
 …ただ傍にいてくれればいい。
 そう思っていた。そうすれば自分の心は満たされる。そう思っていたのに、現実はまるで違った。
 欲しいものを手に入れたとたん、今度はそれを失う恐怖に怯えている。部屋にレイが居ることを常に確認していなければ気が済まず、時間を置かず部屋に設置している監視カメラをチェックする。全てが夢なのだと誰かに肩をたたかれれば、アーサーは納得してしまうだろう。それくらい、レイがいるあの空間は砂で出来た城の如く脆い。
 そして次に恐れるのは自分自身。
 昨日は自分でもどうにかしていたとしか思えない。レイをあんな風に傷つけるつもりなど更々なかった。負の感情をコントロールできなくなり、暴走した。全て薬物の所為だとは言い難い。あれは自分の中にある本当の欲望。
 アーサーは気づいてしまった。
 自分はレイを殺してしまいたいのだと。
 他の誰かに奪われるくらいなら、自分の手で殺してしまいたい。
 …そうすれば、レイは永遠に自分のものになる。
 そんな、どうしようもなく昏い欲望が自分の奥深くに潜んでいることにアーサーは気づいてしまった。いつまた、その猛獣のような感情が暴れ出すかわからない。だからアーサーは一切の薬物の摂取を断った。もう二度とあんな真似をしないように。
 なのに、アーサーの理性は早くも危機を迎えている。
 先ほどレイに薬を塗布した時、アーサーの理性はいともあっさり自身を裏切った。
 レイの身体が与える視覚的な刺激は、一切薄まることのない興奮をアーサーにもたらす。形のいい小さな白い尻や、奥に秘めた蕾などは何度見てもアーサーに性的興奮を呼び起こさせる。「見慣れている」などと口にしても、身体の方はアーサーのその言葉を嘲笑うかのように欲情していた。
 そして、レイが自分の指の動きに反応して喘ぎ声を漏らした時、興奮は頂点に達した。このまま自分の欲望をレイの中に挿入してしまいたいという衝動がアーサーを支配した。レイの身体を思うさま貪って、この美しい身体を自分の欲望で汚してしまいたいと激しく渇望した。
 しかし、レイの「いやだ…」という言葉が辛うじてアーサーの衝動を押し留めた。
 それはレイが昨夜何度も口にした拒絶の言葉。そしてそれはアーサーを拒むものとも、アーサーの与える快感を拒むものとも取れた。どちらにしろ、レイのこの快感は生理的な身体の反応なのであり、アーサーに欲情したわけではないのだ。その事実に気づき、アーサーの心は冷えていった。そして同時にレイの無意識の媚態に打ち勝った自分に安堵していた。
 自分はまだ大丈夫だ、レイを殺すような真似などするわけがないと確信する。


 そんな、理性と狂気がせめぎ合う表裏一体の精神状態がアーサーを不安定にさせていた。
 そしてまた、愛と狂気も同じ顔を持つ背中合わせの双生児なのだということをアーサーはその身をもって知ったのだった。


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Primrose Way act24 (R-18)

►2007/10/24 20:00 



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 レイは渋々ベッドに上がると、手枷のついた不自由な手でぎこちなく下ばきをおろす。膝まで下したところでアーサーに止められ、後ろを向くことを要求された。
「手をついて、腰をこちらに向けるんだ」
「や、やだ。なんで…」
「今更だろう。君の裸など見慣れている。言う通りにして」
 相変わらず、アーサーは意地悪な言葉でレイを突き放し辱める。レイは絶望的な気分になりながら、アーサーに言われた通りの屈辱的な姿勢を取る。レイの秘められた部分をアーサーにさらけ出す形になり、いくら何度となく見られているとはいえあまりの羞恥に泣きたくなる。
 アーサーがベッドに腰掛ける気配がして、すぐにその部分に滑るような感覚が走る。昨夜の荒淫で熱を持ったようにひり付くそこにわずかにひんやりとしたものが塗り込められるのを顔から火が出そうなほどの羞恥をもって受け止める。性交の最中に、熱に浮かされたような気分の中で弄られるのとは訳が違う。冷徹なまでに冷めきった目に恥ずかしい部分を晒し、その手で触れられていると思うと居たたまれない気分になる。
 温もりの感じられない無機質な感覚のものが中に侵入してきてレイを脅えさせる。それがゴム手袋をはめたアーサーの指だと分かっていても、レイの中に芽生えた恐怖は増長するばかりだ。
「う、う、う…。いやだ、もう止めて…」
 アーサーは沈黙するばかりで、指でレイの中を擦りあげることに集中している。
 しかしその手つきは昨夜のような執拗にレイの快楽を引き出すものではなく、機械的に傷に薬を塗り込めるだけのものだった。
 それでも過敏になった粘膜は貪欲にその心の伴わない刺激にさえ快楽の芽を見出す。何も感じまいと感覚を閉ざそうとすればするほど余計にその感覚に意識が集中してしまい、ついには性器が快楽の兆しを見せはじめた。
「いや、もうやめて…。いやだ、いやだ…!」
 かぶりを振ってその快感を否定するが、レイの思いとは裏腹に欲望は理性を飲み込んで大きくふくれていく。
 アーサーが背後で息を飲む気配がして、次の瞬間には育ちきってしまった性器を握り込まれていた。
「出していい」
 低い声で囁かれて、レイは背筋を震わせた。
 手を前後に動かされ強弱をつけて扱かれて、レイはあられもない声を上げた。
 後孔に入れられた指がレイの快楽のポイントを巧みに突いて、レイはあっけなく達してしまった。
「あ、あ…ン……ッ」
 アーサーの手の中に欲望を吐き出し、レイは脱力したようにシーツの上に身体を投げ出した。放心状態のレイの衣類を整えたアーサーは、レイの身体に上掛けをかけてやる。
「休んだほうがいい…。おやすみ、レイ」
 今日聞いたアーサーの言葉の中で最も優しい響きがあった。その甘い声色に次にキスが来ると身体を強張らせたレイは、あっさりと離れていったアーサーに拍子抜けしてしまった。
 汚れた手を洗いに行ったのだと理解はしたが、いつもの行動パターンとは違うアーサーにレイは戸惑う。そして今日一日のアーサーの奇妙な態度について考えを巡らせようとするが、レイの意識はどんよりと重く沈んでいく。
 睡魔に身体を乗っ取られたレイは結局そのまま眠りについてしまったのであった。


〜To Be Continued…〜


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Primrose Way act23

►2007/10/23 20:00 




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 再び手首と足首に枷を付けられてしまったレイは目の前に運ばれて来た美味しそうな料理の数々を前に困惑していた。フルコースのようなメニューの傍らには、ある筈のナイフやフォークなどの食器がない。それらはアーサーの目の前に並べられ、アーサーの手に握られている。
「食事くらい、自分で食べたいんだけどな」
 レイの言葉はあっさりと無視され、アーサーはスプーンにスープを掬いレイの口元に運ぶ。
「さあ」
 促すように突きつけられたスプーンをレイは身を引いて避ける。
「おかしいよ、こんなの。自分で食べさせてくれないなら食べない」
 三食こんな調子で食べさせられるようなことになったら自分にもアーサーにもストレスになるはずだ。それでもアーサーは自分の手でレイに食事を与えようとする。その意図がレイには理解できず、理解したいとアーサーを見つめるが、いつものように余裕の表情で皮肉げな笑みを浮かべている彼の姿からは何の感情も読み取ることができなかった。
「なら私が無理やり口移しで食べさせてやろうか?…それも悪くないな」
「…わかったよ。食べる」
 本気で口移しを遣りかねないアーサーに、レイは折れるしかなかった。
 アーサーは辛抱強くレイに食事を与え続け、全ての料理を食べ終わるまでに長い時間を要した。その間アーサーは苛立つこともなく、ただ淡々とレイの要望に応え続けた。レイは監禁されている状況でありながら自身の扱いがおよそ監禁とは掛け離れたものであることに気づき、内心は疑心暗鬼でいっぱいだった。昨夜はともかく、先ほどからのアーサーの過剰なほどのケアぶりはまるでレイを王侯貴族か何かであるような気分にさせていた。手足の枷さえなければ、至れり尽くせりの最高の環境と言えなくもない。しかし、この部屋が醸し出す一種の閉塞感がレイを息苦しくさせていた。
 …この部屋にはどこにも窓がないのだ。
「次は薬の時間だ」
 食後のお茶を飲み終えた頃、アーサーがそう言った。
「薬?僕はどこも悪くないよ?」
「君の身体に塗る薬だ。寝室に行こう」
 寝室という言葉にレイはゾッと身体を震わせた。
 また自分は身体を好きにされてしまうのだろうか、という恐怖にレイの顔が自然と強張っていく。そんなレイの変化に気づいたアーサーが、わずかに眉間にしわを寄せて言った。
「…昨夜、君の身体に傷を負わせた部分に薬を塗るだけだ。それ以上は何もしない」
 傷などあっただろうかとレイは首を捻る。少なくとも先ほど身体を洗った時には気がつかなかった。
 レイはアーサーに促されるまま寝室に向かう。それは先ほどまでレイが寝ていた部屋とはまた違う部屋だった。昨夜凌辱を受けた部屋とも違う。ここには何部屋寝室があるのか、レイはただただ驚くしかない。
「ベッドに上がって、下ばきをさげてくれ」
 アーサーの言葉にレイは思わず身体を委縮させた。
「な、なんで!」
「そうしないと薬が塗れないだろう。いいから言う通りにしてくれ」
 アーサーは小さなプラスティックの容器を取り出し、医療用のゴム手袋を自分の右手に装着している。何が始まるのか分からず、レイは恐れをなしてただその場に立ち尽くす。
「全く、君は脅されないと何も出来ないのか。力ずくで下半身を剥き出しにされるのと、自分で大人しく簡潔に済ませるのとどちらがいいんだ?」
 結局は従うしかないのだとレイはそれ以上の抵抗を諦めるしかなかった。枷をはめられていなくても、レイとアーサーの力の差は歴然としている。
 レイは渋々ベッドに上がると、手枷のついた不自由な手でぎこちなく下ばきをおろした。


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Primrose Way act22

►2007/10/22 20:00 



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「レイ、起きるんだ」
 どこか冷めたアーサーの声がし、肩を揺すぶられて目が覚めた。
「う…アーサー…?」
 うっすらと目を開くと、不機嫌そうな表情をしたアーサーが自分を見下している姿が見えた。どれだけ眠っていたのか。スーツを着込み、ネクタイを緩めたアーサーの姿から想像するに、今は夜で、あれから丸一日眠り通していたらしい。
 眠り過ぎた為なのか、昨日の薬の影響なのか頭が割れるように痛んだ。酷い頭痛に顔を歪めながら、拘束された両手を使って何とか身体を起こそうとするとアーサーが背中を支えて起こしてくれた。
「気分はどうだい?」
 気遣うような響きはなく、ただ義務的に状況を確認するための問いだった。頭が痛いと言うレイの言葉にも謝意を表す返答はない。期待はしていなかったが、その憤然とした態度には納得がいかなかった。
「食事を用意させてあるが、先にバスを使うか?」
 日本で言うところの新婚さんの会話の定番のようなセリフにレイは思わず吹き出す。
 当然そんなことを知るはずもないアーサーが、ますます不愉快そうに眉を寄せて言った。
「何が可笑しいんだ。無礼だぞ」
「ゴメン、ゴメン。違うんだ、君を笑ったわけじゃないんだよ。…そうだね、シャワー浴びたいかな」
 アーサーの機嫌をこれ以上悪くしないために、レイは意思を伝える。
 ベッドから降りてすぐに腰砕けになったレイをアーサーは横抱きにして、シャワールームまで運ぶ。昨日に比べれば格段に丁重な扱いだが、アーサーの態度はあくまでも素気ない。
 アーサーはジャケットを脱ぎ棄てると、ネクタイを取りシャツのボタンを外し始める。
 自身が脱がされる覚悟はしていたが、アーサーの脱衣は想定外だったレイは機嫌を損ねることは覚悟で話しかける。
「どうしてアーサーが脱ぐの」
 アーサーがシャツの袖を捲り始めたのを見て全部脱ぐわけではないらしいと悟る。
 そしてアーサーははだけた胸元から細いチェーンに下げられた複数の鍵を取り出す。
「それ、手枷の鍵?」
 アーサーは答えず、代わりに行動でその答えを示す。
 鍵はレイの手枷と足枷を外し、レイを解放した。
 アーサーはレイの四肢に巻かれた包帯を取り除く。現れた手首や足首は赤黒い痣ができていた。
 アーサーはやはり何も言わない。淡々とレイのパジャマに手をかけボタンを外していく。
「いいよ、自分でやるから」
 とレイが言っても、
「君は黙って」
 と、アーサーに突っぱねられる。
 そんなに機嫌が悪いなら自分のことなど放っておけばいいのに、とレイは思ったがそれでもアーサーはこわい顔をしながらも面倒そうな素振りを見せるわけでもなく、黙々とレイの世話をやく。そうしてアーサーの手を借りて入浴を済ますと、アーサーが新たな包帯を手にしているのを見てレイはおののいた。
「ねぇ、逃げたりしないからそれ付けるのやめてくれない?」
 レイの言葉など、聞く耳持たずのアーサーは慣れない手つきでレイの手首に包帯を巻きつけていく。
「駄目だ。枷は外さない。絶対に」
 揺るぎないはっきりとした言葉で言い切られて、レイはそれ以上言うのをやめた。おそらく、彼が納得するようにしなければ強引にそうされるだけなのだろうと分かったからだ。また、今のレイの状況ではアーサーの言う通りにするしかないというのも現状だった。
「これじゃあご飯も食べられないじゃないか…」
 落胆したように呟いたレイに、アーサーが不機嫌な表情から一転してようやくニヤリと笑う。
「私が食べさせてやるさ」
 その言葉に思わず言葉を失くしてしまったレイだった。


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Primrose Way act21

►2007/10/21 20:00 

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 レイが目を覚ました時、傍らにアーサーはいなかった。
 ひどく長く眠っていたような気がするが、時計を見ようと身体を起こしかけ、両手首を身体の前でまとめられて枷をつけられていることを知る。足首にも鎖のついた拘束具が装着されていた。やはりアーサーは自分を自由にするつもりはないらしいと半ば諦めにも似た思いが胸をふさぐ。
 そして次に思ったのは日本にいる友人やスタッフたちのことだった。そして、彼の顔も浮かんだ。
 このまま閉じ込められたまま帰国することができなければ、彼らに多大な心配と迷惑をかけることになるだろう。それを考えると、早くここから逃げ出さなければと思うのだが今は身体が思うように動かない。
 体中が痛み、頭も鉛を詰め込まれたように重いが、行為の後の身体がべたつくような感覚はない。さらりとした肌触りがしてよく見ると、美しいシルクのパジャマが着せられていた。全部アーサーが処理をして身体を清め、服を着せてくれたのかと思うと、やはり気恥ずかしい。
 薬物を使用された後孔は未だ異物感を残し、熱を持ったように痛むが薬の効果は切れていて、あの疼くような感覚はもうなかった。
 催淫効果のある薬を使われたのは初めてだったが、やはり、あまり気分のいいものではない。途中から意識が途切れ途切れになり、ほとんど記憶はないが、あられもない声を上げてよがり狂っていたのを微かに覚えている。
 自分は淫らな懇願を口にしたりしなかっただろうか?
 それがひどく気がかりだった。
 身体は好きにさせても、精神までは自由にさせないとアーサーに伝えたかった。
 …アーサーは変わってしまった。
 出会った頃のような、変革をもたらす圧倒的な力を持った堂々たる青年の姿は今は面影もない。弱々しく暗い光をその目に宿し、狂気をはらんだ笑みを浮かべる青年はもはやレイの知るアーサー・ギルフォードではない。
 一週間前、レイが電話をした時、祝福してくれたアーサーの言葉をレイは疑いもしなかった。長く会わない間に心の変化が起き、レイの幸福を祈ってくれるまでになったのだと勝手に解釈していた。しかしそれはレイ自身の利己的な願望に過ぎなかった。そうあってほしいと思いこみ、そうであるはずだとアーサーに押し付けた。その結果がこの事態を生んだのだと、レイは解釈した。
 こんなことになると分かっていたら、アーサーに対して自分の恋愛について嬉しげに語ることなどしなかった。
 もしかしたら自分はアーサーに見せつけたかったのかもしれないとレイは思う。
 過去の関係に囚われたまま、自分に固執するアーサーに新しいステップに進んだ自分の姿をまるで上から見下ろすがごとく示したかったのかもしれないと。
 それはおそろしく傲慢で愚かな考えだった。
 そんなレイの考えを感じ取り、アーサーが今回の行動を起こしたのだとしたらレイにはアーサーを責める権利などない。
 彼の酷い有様が自分の所為だとするならば、自分には何ができるのだろう?
「アーサー…、僕はどうしたらいい…?」
 アーサーが仕掛けた盗聴器が部屋中にばら撒かれていることを知らないレイが、途方に暮れたように呟く。答えの出ない問題に頭を悩ませているうちに、眠気に襲われ始める。
 レイの疲労しきった身体は再び闇の中に沈んでいったのだった。


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Primrose Way act20 (R-18)

►2007/10/20 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(アーサーとレイの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。




 

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 アーサーはレイのひざ裏に手をかけ足を抱えると、硬くそそり立ったものをレイの蕾へとあてがう。レイは本能的に逃げ腰になるが、四肢を拘束された状態では逃げ道などない。
 腰を抑えつけられ、熱いものに一息に奥まで押し入られて、レイはあられもない悲鳴を上げる。
 そして同時に限界まで張りつめていたものが弾けた。
 断続的に身体を震わせて、自らの下腹に白い淫液を吐き出す。
 それでもまだ昂りが萎えることはない。一度達したくらいでは薬による催淫効果は終わらなかった。
 アーサーはレイの軟襞の痙攣をやり過ごすと、ゆっくりと律動を開始させる。
 直接的な接合はやはり、アーサーに今までにないほどの快楽をもたらした。脳髄を蕩かすような甘美な悦楽にアーサーは酔いしれる。
 感情の高まりに比例して、突き上げる速度も徐々に増していった。
「レイ…、もう、どこにも行かせはしない…!」
 激しく突き上げながら、アーサーは想いのたけを口にする。
 しかし、レイがその言葉を解しているとは到底思えなかった。
 目は虚ろに開かれたまま視線を宙に彷徨わせ、口はだらしなく唾液を垂れ流した状態で甲高い喘ぎ声を上げ続けている。
 薬物によって人間の理性を奪われたレイは、今はただの快楽を感じるだけの人形に成り果ててしまった。
「誰にも、やるものか…っ。君は私の…!」
「あ、あ、あぁぁぁー!!」
 ほとんど意識もなく、それでも身体だけは快楽を貪り、はっきりとした絶頂もないままに淫液を撒き散らしている様がなんとも哀れだった。
 レイを快楽で縛りつけ、征服した男はそれでも足りないものがあるかのようにその白い身体を貪る。やっと手に入れた…それなのに、この胸にわだかまる虚しさは一体なんなのか?
「君は、私の、ものだ…っ!!」
 確かな熱を求めてアーサーはレイをかき抱く。
 レイの首が力なくがっくりとのけ反るが、絶望に打ちひしがれるアーサーはそれを気にも留めない。
 やがてアーサーにも終わりが訪れる。
 これ以上なく激しく腰を振るうと、最奥で動きを止める。
「ウッ…ああッ!!」
 レイの孔内にアーサーが所有の証を注ぐ。
 しばらくはレイを腕に抱いたまま呼吸が整うのを待っていたが、レイの体内から自らを引き抜くとベッドを下りる。
 しかしこれで終わったわけではない。
 アーサーはレイの四肢の鎖を外すと、ぐったりと横たわるレイの身体を裏返す。腹の下にクッションを入れて尻を突き出す格好を取らせると、血の混じった精液を垂れ流す秘孔に再び立ち上がった欲望を突き立てた。
「まだだ…。夜はまだこれからだろう、レイ?」
 わずかなうめき声を発して、レイがぐったりと項垂れた。
 その夜はレイにとって残酷なほど長い夜になった。


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Primrose Way act19 (R-18)

►2007/10/19 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(アーサーとレイの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。多少ではありますが、暴力的表現有り。ご注意ください。




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「ほら…そろそろ欲しくなってきただろう。ここが疼いて仕方無いんじゃないのか?」
 アーサーはわざと卑猥な物言いでレイを嬲る。
 指で愛撫を続けた秘孔はすでに二個目のキューブが溶けグズグズに蕩けているのに、レイは一向にアーサーを求めてこない。
 媚薬が効いていないわけではない。それは触れずとも今にも弾けそうに立ちあがった性器を見れば一目瞭然である。
 それでもレイは唇を噛みしめて、声を漏らすまいと必死に堪えているのだ。
「強情だな、君も…」
 しかし、レイがそんな虚勢を保っていられるのも時間の問題と思われた。
 更なる快楽を与えるべく、アーサーはレイの胸元に顔を寄せる。
 可憐に立ち上がった二つの花芽を舌と指で同時に愛撫した。
 するとレイは、アーサーから逃れようと必死に身をよじらせる。
 そんなレイの往生際の悪さに苛立ち、アーサーが声を荒げた。
「大人しくしろ!噛み千切られたいのか!」
「…ウッ!」
 苛立ったアーサーがレイの頬を平手で打つ。加減をしたつもりだったが、レイが唇を噛み締めたままだった為に歯がレイの唇を傷つけたらしい。レイの唇から赤い筋が流れた。
「…クソ!!」
 レイの身体に傷を付けるのは本意ではない。しかし、内から沸き起こる暴力的な衝動を抑えきれる自信がなかった。その時のアーサーはすっかり失念していた。レイが過去にも同じように暴力によって虐げられてきたことを。
「口を開け…。噛み締めるんじゃない」
 かぶりを振って抵抗を見せるレイの額を抑えつけて、顎関節を力づくで開かせる。
 傷がそう深くないものだとわかるとアーサーは強引に抑えつけたままのレイに酷く優しいキスを落とした。そして顎を伝いおちた血液を恍惚の表情で舐めとる。青白い顔で舌を赤く染めるその姿はまるで吸血鬼のようにさえ見えた。
「従順にしていれば優しくしてやる。抵抗しようなどと思うな」
 すでにレイは二個目の媚薬が効きはじめ、視線が虚ろだ。アーサーの手によって強引に開けられた口からは荒い吐息が漏れるだけだった。
 アーサーは頭を拘束していた手を離すと、再びレイの下半身に執着する。
 レイの蕾から零れ落ちた媚薬をすくい取り、再び中に押し込む。
「アア…フ、ウゥゥ…」
 中を掻き回されてたまらない感覚がしたのか、レイが切なげに喘ぐ。
 アーサーもそろそろ限界が近づいていた。早くレイの中に押し入って、その甘い軟襞の締め付けを味わいたかった。
 アーサーはわざと前立腺への愛撫を避け、焦らすように指の動きを緩慢にさせた。
「もう指では物足りないだろう…。欲しいと言ってみろ。私が欲しいだろう?ここに」
 中に入ったままもどかしい動きをみせるアーサーの指に焦れたレイが切なげな吐息を漏らして腰を振る。性器からは止めどなく透明な蜜があふれ、淡く生えそろった茂みを濡らしていた。レイ自身も限界が近いはずだった。しかし、なかなかアーサーの望む言葉を発しようとしない。
「言え、私が欲しいと。入れて欲しいとねだってみろ」
 指を最奥まで突き入れてグチャグチャとかき回す。レイは悲鳴を上げて悶えるが、決して自分から淫らな要求を口にしようとはしなかった。かろうじてレイが発した言葉はやはり拒絶の言葉だった。
「い、やだ…。ぜったい、いや…」
 薬物で理性を奪われてもなお自分を拒み続けるレイに、アーサーはついにその暴力的衝動を爆発させた。
「嫌だと…?私を拒むというのか、君さえも!!許さないぞ、絶対に…ッ!!」
 アーサーが、レイの内壁に指を勢いよく突き立てる。その時、アーサーの爪先に妙な引っ掛かりがあった。引き抜いてみると、指には血液が絡みついていた。手入れを怠っていたアーサーの伸びた爪がレイの内壁を傷つけたのだ。
 レイは薬物で高揚しているため、痛みを感じている風ではない。
 アーサーはレイの血が付いた指を呆然と見つめた。先ほどの様な偶発的な事故ではなく、自らの手でレイを傷つけたという事実がアーサーを昏い絶望へとおとしめた。しかし、その赤く染まった指はアーサーの本能的な凶暴性を目覚めさせるものでもあった。
「君が悪いんだ…。君が私を拒むから…!!」
 アーサーはレイのひざ裏に手をかける。
 もうアーサーに迷いはなかった。


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Primrose Way act18 (R-18)

►2007/10/18 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(アーサーとレイの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。





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「逃げることは不可能だ。君は一生ここで過ごすんだよ」
 レイにとっては死刑宣告同様の言葉を、アーサーは嬉々として口にした。
「そんな、バカなことを…」
「君にとってはそうかもしれない。でも私は真剣なんだよ」
 アーサーはすでに狂気に支配されている。
 それは、薄ぼんやりと霞みがかったようなレイの頭でも理解できた。
 目は血走り、視線もどこか定まらない。荒い吐息混じりの言葉はまるで獣じみている。
「さあ、おしゃべりはこの辺にしておこうか。君も辛いだろう…ここが」
 グイっと後孔に指を突き立てられて、レイはその激しい感覚に身体をのけ反らせた。
 今までに感じたことのない爛れたような熱さに、ただただ悲鳴を上げるしかない。
「感じているね…。そうだ、余計なことは考えなくていい。君はただ感じていればいい…」
「アァ!!イヤーァッ!!イヤ、イヤだ…」
 グチュグチュと体内をかき回される音にレイも正気を失いそうになる。
 ひたすら拒絶の言葉を口にすることだけが、かろうじてレイの意識を繋ぎ止めていた。
「ふっ…嫌だと言いながら感じているじゃないか。ほら、ここが…」
 性器を掴まれて、先端を指の腹で擦られただけでレイは思わず達してしまいそうになる。
 たったそれだけの刺激で、背骨がグズグズにとろけてしまいそうなほど気持ちがいい。
 何かがおかしい、とレイは錯乱する頭の片隅で思う。
「何で、こんなの、おかしぃ…ッ」
 アーサーにひっきりなしにかき回される後孔は、もう原型を留めていないのではないかと思われるほど溶けている様な感覚さえした。最奥が熱を帯びて更なる刺激を欲し、指では足りないと激しく疼く。
「おかしくなどないさ…。薬を使えば、誰でもこうなる」
 アーサーのその言葉を聞いて、納得したあと絶望的な気分に襲われる。
 やはり、この異常なまでの快楽は人為的なものだったのだ。
 そんなものを使ってまで自分を貶めようとするアーサーの意図が分からない。
 もしこれがアーサーの言う『愛』だというなら、それはもはや愛ではない。
 愛憎ゆえの狂気、または常軌を逸した執着。
 愛という名を借りた暴行である。
「さあ、そろそろここに欲しくなってきただろう…?もっと熱くて大きいものが」
「いや、だ、アーサー、もうやめ…て」
「まだそんなことを言う余裕があるのか。仕方ない、もう一つ入れてあげよう」
 アーサーの指が引き抜かれる。その分の空隙がもっと確かな質量を欲して蠢く。自分の浅ましい身体の反応を恨めしく思いながら、唇を噛みしめて必死にこらえる。
 …自ら猥らがましい懇願を口にしないように。
 アーサーはサイドチェストから小さな袋を取り出すと、その包みを破り中から鮮やかなピンク色の物体を取り出す。それを指でつまみ、レイの目の前にさらす。
「これが君の身体の中に入って、君を快楽に突き落とす。あんまり煩いと三つ目を挿入するぞ。危険だと言われたが場合によっては仕方あるまい」
 アーサーがそれをレイの秘孔へと押しこむ。もはや拒絶の言葉などアーサーには届いていないが、それでも口にせずにはいられなかった。
 今でもこんなに理性を保つことが危うくなってきているのに、更に薬を使われたら一体自分の身体はどうなってしまうのだろう。
 レイは不安と恐怖で知らず知らずのうちに身体を震わせた。


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Primrose Way act17 (R-18)

►2007/10/17 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(アーサーとレイの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。




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 汗と精液でしどどに濡れた衣服を脱ぎ棄て、アーサーは裸身を晒す。
 室内の冴えた空気が湿った肌をひんやりと撫でるが、その程度のことでアーサーが正気に戻ることはなかった。
 レイの孔内はローションと、レイが分泌させた体液とで十分に潤っている。
 そこに先ほど男から受け取った媚薬入りのキューブを挿入する。バラ色に色づいた蕾が毒々しいピンク色の塊を飲み込んでいく様には淫靡な美しさがあった。
 体内で溶ける仕組みのキューブは使用した者に壮絶な快感をもたらすという。
 快楽に弱いレイの身体がどの様に変化するのか見ものだった。
 レイがキューブを押しださないように指で栓をしながら、アーサーは薄い胸についた二つの花芽を舌と歯で愛撫する。眠りが浅くなってきたのか、レイが時折微かな喘ぎをもらす。
 後孔に埋めた指に濡れた感覚がして、キューブが割れたことを知らせる。
 アーサーは効能が早く回るようにと内壁に塗りつけるように激しく指を動かす。
 ぐちゅぐちゅと濡れた音がアーサーの鼓膜を犯していく。
「アァ…ウウゥ、アァァ…」
 まだ完全に覚醒していないレイの口から意味の成さない言葉が漏れる。
 眠りながらも快感を得ているのか、レイの小振りな性器はすでに立ちあがって透明な蜜を溢れさせていた。
「…レイ、起きるんだ。私を放っておく気か?」
 アーサーは耳元でそう囁いて、そのまま耳の穴を舐めねぶる。そこもレイの性感帯であることはアーサーも熟知している。
「ア、あふぅ…」
 感じすぎる感覚を持て余すように、レイがもどかしげに身体をよじらせる。
 そろそろ媚薬が効き始めてきたらしい。白い肌がほんのりと色づき、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「レイ、起きて…」
 アーサーは甘く囁いてその唇に何度もキスを落とす。
「ウゥ…、アァァ……」
 瞼がピクピクと痙攣し、ようやくレイが目を覚ます。
 しばらく呆けたようにボーっとしていたが、自分の取らされている格好を確認し、手足の枷に気づくと、レイはじたばたと抵抗を見せた。
「な、に?なんで、こんな!?」
 鎖を引きちぎろうとするかのように無駄に暴れるレイの腕をアーサーが封じる。
「動くな。君の身体に傷がつく」
「やだ、離して!!」
「…眠ったままの方がよかったな」
 とアーサーが一人ごちて笑う。
 レイは半ばパニックを起こしながら、アーサーに叫ぶ。
「嫌だやめて、離して、お願い…!!」
 怯えた目で涙を浮かべて訴えるレイに、アーサーは残酷な甘さをもって囁きかける。
「無駄だよ。ここから君は出られない。一生ね…」
 レイの瞳が驚愕と恐怖で大きく見開かれた。


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Primrose Way act16 (R-18)

►2007/10/16 20:00 

 まず始めにお断りを。本文は男性同士の性描写を含んでいます。18歳未満の方、男性同士の性描写に嫌悪を持たれる方、または(アーサーとレイの絡みなんて読みたくなかったよ〜!!)という方は、ここで引き返して下さい。下の文章からR-18指定とさせていただきます。





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 アーサーは未だ薬で眠ったままのレイの四肢を拘束してベッドの支柱に鎖でつなげた。
 もうこれでレイはどこにも逃げられない。
 白い肌に黒い革の拘束具が映えてグロテスクなまでの視覚美をもたらしている。
 アーサーはレイの腰を持ち上げてクッションを挟めると、膝を立たせて秘めた部分を詳らかにした。
 慎ましやかに閉じたそこに、アーサーはローションで濡らした指で円を描くようにマッサージを施す。しばらくそうしているうちに蕾がわずかに綻び、タイミングを見計らってまずは人差し指を挿入する。初めてコンドーム越しではなく直接触れるレイの柔らかな内壁にアーサーは感慨深げな溜息を漏らす。
 今まで、どんなに興奮状態になろうともレイの中に指や性器を挿入する時はコンドームを装着することを欠かせたことはなかった。レイとて、いくら見目が美しいといってもそこは自分と同じ人間で、挿入に使うその器官は排泄器官なのだ。衛生面を考えてアーサーはそこに直接触ることをしなかった。
 しかし、心のどこかでそこに直接触れてみたいといつも思っていた。薄い膜越しではなく、ダイレクトな感覚を味わってみたいと思っていた。それを今実現させて、アーサーは性器を挿入する以上の興奮を感じていた。
 先ほど打ったドラックの影響も大きい。アーサーの皮膚感覚はいつも以上に研ぎ澄まされて、指の腹で感じるレイの内壁のうねりや微かな痙攣を、性器で感じるよりもより微細に感じることができた。
「アア…レイ、すごくイイよ…」
 熱に浮かされたような感極まった声でアーサーが呟く。
 アーサーはまるでレイと交わっているような疑似感覚に捉われていた。レイに挿入した指をいやらしくくねらせて出し入れしながら、指で感じる感覚を性器に置き換えてセックスを楽しんでいた。
「…クゥ…ん」
 レイはまだ夢の中だが、内壁の刺激が深層意識に働きかけているようだ。
 子犬のような鳴き声をもらして腰を揺らす。
 まるで男を誘うようなその媚態にアーサーはますます興奮していく。
「ハァ…アァ…レイ、レイ…」
 獣のように荒い息を吐きながら、アーサーは次第に昇りつめていく。
 パンツの下のアーサーの雄芯は布生地を押し上げて、その存在を主張していた。
 限界まで張りつめたそれは熱く滾り、捌け口を求めるようにビクビクと震えている。
 アーサーは乱暴にレイの髪を掴むと、頭を固定させてその唇を嬲った。
 理性を失っているアーサーは咬みつくようにその唇を犯し、下肢への愛撫をよりいっそう激しくさせる。
「レイ、レイ、レイ………ッ!!」
 突然アーサーに絶頂が訪れた。
 自身には指一本触れぬまま、レイに指を挿入させただけで達してしまったのである。
 アーサーの下着の中が生温かく濡れた。
 それは絶望的なまでの快楽だった。


〜To Be Continued…〜



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Primrose Way act15

►2007/10/15 20:00 

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 ベッドの上には一糸まとわぬ姿になったレイが横たわっている。
 薬がまだ効いているのか眠り続けたままだ。
 目が覚めた時、レイが憤るのか泣き叫ぶのか、それは想像ができない。ただ、これだけは決めていた。レイが何と言おうとも、決してここから出すことはしないと。
 ここはレイと待ち合わせたホテルの一室ではない。レイが眠っている間に『檻』に移動していた。『檻』とは、アーサーがレイを閉じ込めるためだけに作った巨大な箱である。レイと自分を引き離すような出来事が起きた場合、レイを守るために作らせていた。もう二度と誰にも干渉されないために作ったそれが、完成してすぐに使用されることになるとは思わなかった。 
 アーサーがうっそりと目を細めてレイの白い裸身を愛でていると、室内に無粋なブザー音が響く。
 モニター付きのインターフォンから警備の男が写し出される。
『お客様がお見えです』
『よう。オレだ』
 警備員を押しのけるようにしてモニターに映り込んだのは待ちわびた人物だった。
「わかった。通してくれ」
 ここには、アーサーがモニターで許可した人間以外は出入りできない仕組みになっている。
 すなわち、アーサーがいないときにはこの建物は完全に閉ざされるのだ。
 数分後、チャイムを鳴らした訪問客をアーサーは無愛想に迎え入れた。
「依頼した品は持ってきたか?」
「ああ、ばっちりな」
 大きめのトランクボックスをテーブルの上にドスンと置いて、男は早速その中身を開いて見せた。
「クスリはこれだ。10個用意してる。1個でもかなりクルが、2個入れるとかなりぶっ飛ぶ。3個はやめておけ。保障できねぇ」
「ああ。わかった」
「こっちが拘束具。腕用と足用だ。鎖でつなぐ金具がついてる。こっちは両手を拘束するヤツだ。身体にキズをつけたくねぇなら下に包帯を巻いとけ。ちゃんと用意しといた」
「助かる」
「こっちはあんたのクスリだ。そろそろ切れる頃だろ?」
「…ああ」
「打ちすぎんじゃねぇぞ。アホになるぜ」
「心配してくれるのか」
「バカ、ちげーよ。死んじまったら、商売できなくなるだろうが」
「この程度で死にはしないさ」
 自嘲気味に笑ったアーサーを男は歪んだ笑みを浮かべて見やった。
「金は振り込んでおく。またよろしく頼む」
 後ろ姿を見せようとしたアーサーを男が引きとめる。
「おい、ちょっと待てよ。冷てぇなあ、あんたも」
「何だ」
「何だじゃねえよ。あんたの可愛いニャン子を拝ませてくれないのか」
「断る」
「何も俺が個人的に仲良くしたいって言ってるわけじゃない。あんたが可愛がってるところを見せてほしいだけだ」
「尚更断る」
 レイの媚態を見せろと迫る男に、そっけない言葉で拒絶する。指一本触れなくとも、頭の中でレイを犯すことすら許せない。そんなアーサーの狭量さを嘲笑うように、男はフンと鼻で笑う。
「いいじゃねえかよ、減るもんじゃなしに」
「減るんだよ。お前のような下品な輩に見せるもんじゃない。さっさと帰れ」
 アーサーが冷徹な視線で睨みつけると男は首をすくめて見せ、
「ケチな男だねぇ」
 と言い残して、すごすごと去って行った。
 レイが目覚めるまで、まだ時間がある。
 アーサーは男が置いていったドラックを注射し、拘束具をレイに取りつける準備を始める。
 四肢に包帯を巻きつけると、黒い革製の拘束具を装着させる。
 ベッドは四つ角に支柱のついた特注品で、鎖が取り付けられるようになっている。鎖を拘束具に繋げば、レイはもうベッドに磔にされた状態になる。
 完成した姿をアーサーは感嘆の思いで見つめた。
 これでレイは自分のものになったのだと。


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Primrose Way act14

►2007/10/14 20:00 

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 レイがロンドンのアーサーのもとを訪れたのはそれから一週間後のことだった。
 いつものようにホテルの一室にレイを呼び寄せたアーサーは、心の奥深くに潜む昏い劣情を柔和な笑みで巧みに隠し、レイを部屋に招き入れた。
 レイは何の疑問も不審も感じず、言われるままに部屋に足を踏み入れた。レイの鈍感さが今は救いだった。
 ソファに腰掛けお互いの顔を見合った時、レイがまじまじとアーサーの顔をのぞき込み、その柳眉をひそめて怪訝な顔つきになった。
「アーサー、少し痩せた?顔色も悪いし…。ちゃんとご飯食べてる?」
 レイにそんな顔をさせるほど、自分は酷い有様なのだろうか?
 最近まともに鏡を見ていないアーサーには自分がどんな姿になっているかさえわからなかった。
「大丈夫さ、少し眠れないだけだ」
 全ては今日という日が解決してくれる。
 明日からは、全てが好転する。
 …レイという存在さえ手に入れば。
「それで、件の人はどんな人なんだい」
 自分から話題を振ったものの、アーサーにはそんな人物に興味などなかった。
 今日を限りにレイはその人物のことを忘れざるをえないだろうから。
「まだ、つき合ってもいないんだ。僕の片思い、かな」
 夢見るような顔でそう語るレイを、アーサーはジリジリと痛む胸を自覚しながら見つめた。
 自分はレイにそんな表情をさせたことがあっただろうか。その表情をさせたのが自分ではないことにアーサーは苦悶した。見たこともないレイの恋の相手に殺意さえ覚えた。
「まだ一回食事に行っただけなんだけどね。多分、その人のことが好きなんだと思う…。気がつくとその人のことばかり考えてる。こういうの、恋っていうんだよね、やっぱり…」
 どうしてそれが自分ではなかったのだろう。どんなに強く、強く希求しても手に入らないもの。どんなに手を伸ばそうとも届かないものが他の誰かのものになろうとしている。
 …許さない。そんなことは絶対に、許さない。
「ああ、そうだ。今日は君の為に最高のシャンパンを用意したんだ」
 アーサーはおもむろに立ち上がり、冷蔵庫で冷やしていた黒いビンと二つのグラスを取り出した。
 コルクを開けると微かな煙とともに豊潤な香りがただよう。
 グラスに注がれた黄金色の液体が、音を立ててはじけた。
「君の新しい恋に乾杯」
 グラスがぶつかりあう音が心地よく響く。
 ためらいもなくレイはその液体を口にした。
 それに何が入っているか、知りもせずに。
「…美味しい。ありがとう、わざわざ僕のために…」
「さあ、もう一杯どうだい」
「うん、いただくよ」
 レイはさらにグラスを空ける。
「アーサー、君には幸せになってほしい。僕がこんなことを言う資格はないのかもしれないけど…」
 即効性のある薬とはいえ、まだ効き目は現れない。
 その兆候を見逃すまいと、アーサーはじっとレイを見据える。
「ありがとう、私も君の幸せを願っているよ」
「ごめんね…。僕は君を、幸せに…、アーサー…、ごめん…」
 レイの様子が明らかにおかしくなってきた。ようやく薬が効き始めたらしい。瞼を何度も開閉させるが、睡魔の誘いには逆らえないのだろう。身体をぐらつかせたあと、ソファに身体を預けた。
「なんか、眩暈が、する…」
「そう…。少し身体を横にするといい。楽になるよ」
 アーサーの囁きが睡魔の誘惑となり、レイはそのままソファに倒れ込んだ。
 シャンパンに仕込んだ即効性の睡眠薬は効果てきめんだった。
 アーサーも同じシャンパンを口にしていたが、すでに睡眠薬に免疫があるアーサーにはまったく効果はない。
 ソファの上で強制的な眠りに落ちたレイを見下して、アーサーはその顔に満足げな、歪んだ笑みを浮かべた。
「これで君は永遠に私のものだ…」


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Primrose Way act13

►2007/10/13 20:00 



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 レイの日本での活躍ぶりもすぐにアーサーの耳に入ってきた。
 レイが探しだした女性は『CIERA(シエラ)』という名前で日米同時デビューを果たし、瞬く間に世界中のヒットチャートを席巻した。
 そして、同時にレイのプロデューサーとしての地位も揺るぎないものになった。
 アーサーには最早その勢いを止めることなどできなかった。
 時代が彼を欲し、また彼が時代の求めるものに応じた結果なのだろう。
 一方、アーサーはというと、レイとは逆に下降の一途を辿っていた。
 例の騒動から経営状況が回復しない『IBC』は年々株価が下がり続け、ヨーロッパ経済に大きな影を落としていた。そんな状況を打破すべく日々奔走するアーサーだったが、アーサー自身不眠症に悩まされており、体調も良いとは言えなかった。
 睡眠薬に依存するようになり、それすらも効き目が無くなった時、アーサーが選んだのはドラックと言う破滅への道だった。


 レイから電話がかかってきたのはそんな時だった。
 レイが日本に拠点を移してからすでに二年が経過していた。レイは相変わらず多忙で、その頃には逢瀬も間遠になっていた。
『好きな人ができたんだ』
 電話越しにも恥じらうような気配が窺われる、そんな声だった。頬を染めてはにかむような笑顔を浮かべているレイが容易に想像できた。
 いつか、そんな日が来るのではないかと予測はしていた。
 しかしそれまでに行ったどんなシュミレーションも今ほど絶望はしなかった。
 …深く、昏い絶望に飲み込まれていく。もはやそれを止める術などない。
「そうか、おめでとう」
 意外なアーサーの言葉に、しばしレイは言葉を失っていたが、
『…祝福してくれるの?』
 訝しげに、しかし嬉しそうに問われアーサーは、
「ああ、もちろんだとも」
 どこか心の籠らない口調でそう言った。
 感激している風なレイにはわからなかっただろう。
 そして電話越しではアーサーが今、どんな冷たい表情を浮かべているかも伝わらない。
「レイ、君を是非お祝いしたい。最後に一度だけ会えないか?」
 躊躇うように間を開けるレイにさらにアーサーがたたみ掛ける。
「本当ならば私から会いに行きたいとこだが、今私は動けないんだ。…色々君には謝りたいこともあるしね」
 『アレ』はもう完成している。
 チャンスはもう今しかない。
 …レイを手に入れる、最後のチャンスは。
 アーサーの愁傷な言葉に、レイも心を動かされたようだった。
『…うん、わかった。何とかスケジュールを調節して行くから』
 『檻』は獲物を待つばかりとなった。


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Primrose Way act12

►2007/10/12 20:00 



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 その年のクリスマスをマーガレットの家で賑やかに過ごし、年末は日本で過ごしたレイは年明けから本格的に日本での活動に向けて準備を始めた。
 昔世話になっていたスタッフに声をかけ、チームを組み、レコード会社にも声をかけデビューの手筈は整えた。
 そして三月からいよいよ、日本での生活が始まる。
 あの悲劇的な事件から四年半、ついにレイが日本に戻る日がやってきた。


 JFK空港にはマーガレットと、その子供達が見送りに来ていた。
 幼い二人の子供達は車に初めて来た空港に興奮気味だったが、レイが手続きを済ませ各ターミナルへ移動するためのエアートレインに乗り込もうとする時になると、さすがに寂しくなったのか目に涙を浮かべてすがりついてきた。
「行っちゃうの?ほんとに行っちゃうの?」
「やだよ、行かないでよ〜!」
 そんな子供たちをマーガレットは「わがまま言わないの」とたしなめるが、子供達はグズグズと泣き続けてレイから離れようとしない。
「来年のクリスマスも一緒にお祝いしようって言ったでしょ?絶対また来るよ。日本のお土産いっぱい持ってくるから」
 レイがそう言うと、子供達はようやく顔を上げて、
「キティ、買ってきてくれる?」
「僕、ピカチュウ!!」
 と現金な反応を見せて、レイを笑わせた。
「いい子にしてたらね」
 レイとて寂しいが、いつかは覚悟しなければならない別れだった。
 次のステップに進むための別れなのだ。
「レイ、私も作詞頑張る。いつか、レイに使ってもらえるように」
 一番上のサナは16歳になった。今は作詞家を目指しているらしい。
「うん、楽しみにしてる。首が伸びきらないうちに頼むよ」
 レイの言葉にサナが強気の笑みを見せる。
「そんなに待たせないから!」
 そして、「元気で」という言葉と共にハグを交わす。
「レイ、ちゃんとご飯食べて、身体に気をつけて頑張るのよ」
 と、母親らしい言葉と共にハグをしたのはマーガレット。
「ありがとう、マーガレット。貴女がいなかったら、僕はとっくに飢え死にしてた」
「まったく、あなたは一番手のかかる子だったわ」
 母親の愛情に恵まれなかったレイにとっては、マーガレットこそが真の母親だった。
「マム、どうかお元気で。みんなも、マムの言うことちゃんと聞くんだよ」
 四人に手を振り、乗り場に向かおうとしたその時、マーガレットに呼び止められた。
「レイ、あそこに…」
 マーガレットが指さした方向に、ダークカラーのロングコートを羽織った青年紳士が立っていた。どこにいても、この人ごみの中でも際立つ存在感。それは他でもない、アーサー・ギルフォードだった。
 アーサーには今日旅立つことを教えていないはずだった。
「アーサー、見送りに来てくれたの?」
 駆け寄ってきたレイをアーサーは何も言わずいきなり抱きしめた。
「ア、アーサー…!?」
 突然の抱擁にレイも驚き、言葉がない。
 しばらくそのままの状態が続き、レイはなだめるようにアーサーの背中を撫で擦る。
「…今生の別れってわけじゃないんだから、また会えるよ。生きてさえいれば」
「…必ず会いに行く」
「友人としてね。それならばいつでも歓迎するよ」
「いや、だ」
 抱擁を解いたアーサーが今度はレイの唇を無理やり奪いにかかる。
 レイも抵抗を見せるが、強い力で束縛されてはそれも意味を成さない。
「…愛してる」
 呟かれた言葉に、レイは戦慄を覚える。
 アーサーの呪縛からは逃れられない。そう感じた瞬間だった。


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Primrose Way act11

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