Primrose Way act31 (完結)
►2007/10/31 20:00
「…ずっと一緒にいよう、アーサー」
それはアーサーが長く待ち望んでいた言葉だった。この言葉を手に入れる為に自分がどれだけ愚かな努力をしてきたか、どれだけのものを犠牲にしてきたか知れない。
自らの輝かしい地位も名声も、新しく育まれるはずだった恋も投げ打って自分の元に居ることを選んだレイをアーサーは呆然と見つめていた。そして頭の中は最初の衝撃波が過ぎ去った後、次第に冷静さを取り戻していった。
レイが自分に向ける感情には一点の曇りもない。その言葉に嘘はないことは、揺るぎなく自分を見つめ返してくる強い意志のこもった瞳を見れば分かる。しかし、自分に向けられる純然たるその感情がなぜ「恋情」ではないのだろう?レイが自分に向けるそれは聖母が人民に向ける深い慈愛と同じものだ。そしてそれこそが、アーサーを長らく苦しめてきた元凶だと知る。
本当は辛かった。
あんなにも酷い凌辱を受けながら一切アーサーを責めることなく、現状に不満をもらすわけでもなく、解放を乞うこともしないレイが逆にアーサーには苦痛だった。そんなレイを見るにつけ、とうに捨てたはずの罪悪感がアーサーを苦しめた。後ろめたさからレイと顔を合わせることもできなくなった。ジッと見つめてくるレイの視線に何もかも見透かされている気がして怖かった。だから自分は逃げた。
…しかしそれも限界だった。
アーサーはレイの腕の輪の中から抜け出すと、自らのシャツのボタンを外して首から鎖で下げていた鍵を引きちぎる。その鍵でレイの手枷と足枷の錠を外してやる。
「ア、アーサー!?」
驚愕で目を見開いたレイは何が起きたのか分からない様子でおろおろするばかりだ。
そんなレイに、アーサーは冷たい言葉を言い放つ。
「同情などいらない!!」
(愛してる、レイ…)
レイを解放する。しかしこれは自分の束縛からレイを解放するのではない。レイから解き放たれるのは自分だ。アーサーは、レイから解放されるのだ。
「どうして、ねえ、アーサー、どうして!?」
「同情などで付き合ってもらうほど落ちぶれたつもりはない!!」
(さよならだ、レイ…)
同情などではないことは、アーサーが一番よく分かっている。レイは心の底から自分を心配してくれている。だが、それが余計に辛い。
アーサーは奥の部屋からレイの所持品を持ち出す。ここに来るまでに着ていた衣類一式と財布や携帯電話。永遠に閉じ込めておくつもりなら処分して然るべきもの。それでもそれらを取ってあったのは最初から分かっていたからなのかもしれない。こんなことが長く続くわけがないことを。
「今から人が外に出る。丁重にお帰り願え」
部屋の外で待機している警備員にインターフォンでそう伝え、アーサーはレイの二の腕を掴み引きずるようにして所持品と共にドアの外に放りだした。
「日本でも何処でも帰るがいい」
(君を、愛していた…)
「アーサー!!待って、アーサー!!」
レイの悲鳴のような声が重たいドアに阻まれ聞こえなくなる。
(これでいい。これで終わったんだ…)
ひっそりと静まり返った室内で、アーサーは倒れ込むように膝をつく。
「…フ……、ク…ゥ……」
身体を引き裂かれるような激しい喪失感がアーサーを苛み、室内に嗚咽の声だけが響く。
どんなに焦がれても手に入らぬ非情な運命をアーサーはひたすらに憎んだ。
楽になるはずの選択肢が、なぜかアーサーを苦しめる。
今はただ、喪失の苦しみに痛哭するばかりだった。
〜『Primrose Way』END〜

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それはアーサーが長く待ち望んでいた言葉だった。この言葉を手に入れる為に自分がどれだけ愚かな努力をしてきたか、どれだけのものを犠牲にしてきたか知れない。
自らの輝かしい地位も名声も、新しく育まれるはずだった恋も投げ打って自分の元に居ることを選んだレイをアーサーは呆然と見つめていた。そして頭の中は最初の衝撃波が過ぎ去った後、次第に冷静さを取り戻していった。
レイが自分に向ける感情には一点の曇りもない。その言葉に嘘はないことは、揺るぎなく自分を見つめ返してくる強い意志のこもった瞳を見れば分かる。しかし、自分に向けられる純然たるその感情がなぜ「恋情」ではないのだろう?レイが自分に向けるそれは聖母が人民に向ける深い慈愛と同じものだ。そしてそれこそが、アーサーを長らく苦しめてきた元凶だと知る。
本当は辛かった。
あんなにも酷い凌辱を受けながら一切アーサーを責めることなく、現状に不満をもらすわけでもなく、解放を乞うこともしないレイが逆にアーサーには苦痛だった。そんなレイを見るにつけ、とうに捨てたはずの罪悪感がアーサーを苦しめた。後ろめたさからレイと顔を合わせることもできなくなった。ジッと見つめてくるレイの視線に何もかも見透かされている気がして怖かった。だから自分は逃げた。
…しかしそれも限界だった。
アーサーはレイの腕の輪の中から抜け出すと、自らのシャツのボタンを外して首から鎖で下げていた鍵を引きちぎる。その鍵でレイの手枷と足枷の錠を外してやる。
「ア、アーサー!?」
驚愕で目を見開いたレイは何が起きたのか分からない様子でおろおろするばかりだ。
そんなレイに、アーサーは冷たい言葉を言い放つ。
「同情などいらない!!」
(愛してる、レイ…)
レイを解放する。しかしこれは自分の束縛からレイを解放するのではない。レイから解き放たれるのは自分だ。アーサーは、レイから解放されるのだ。
「どうして、ねえ、アーサー、どうして!?」
「同情などで付き合ってもらうほど落ちぶれたつもりはない!!」
(さよならだ、レイ…)
同情などではないことは、アーサーが一番よく分かっている。レイは心の底から自分を心配してくれている。だが、それが余計に辛い。
アーサーは奥の部屋からレイの所持品を持ち出す。ここに来るまでに着ていた衣類一式と財布や携帯電話。永遠に閉じ込めておくつもりなら処分して然るべきもの。それでもそれらを取ってあったのは最初から分かっていたからなのかもしれない。こんなことが長く続くわけがないことを。
「今から人が外に出る。丁重にお帰り願え」
部屋の外で待機している警備員にインターフォンでそう伝え、アーサーはレイの二の腕を掴み引きずるようにして所持品と共にドアの外に放りだした。
「日本でも何処でも帰るがいい」
(君を、愛していた…)
「アーサー!!待って、アーサー!!」
レイの悲鳴のような声が重たいドアに阻まれ聞こえなくなる。
(これでいい。これで終わったんだ…)
ひっそりと静まり返った室内で、アーサーは倒れ込むように膝をつく。
「…フ……、ク…ゥ……」
身体を引き裂かれるような激しい喪失感がアーサーを苛み、室内に嗚咽の声だけが響く。
どんなに焦がれても手に入らぬ非情な運命をアーサーはひたすらに憎んだ。
楽になるはずの選択肢が、なぜかアーサーを苦しめる。
今はただ、喪失の苦しみに痛哭するばかりだった。
〜『Primrose Way』END〜
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