Love Paradox act1
►2007/12/02 20:00
新連載「Love Paradox」スタートです。
時間軸的には「You are my shining star」の後、「Primrose Way」act13の前になります。新キャラ里村さんをよろしくお願いします♪
里村雅己(さとむらまさみ)はその日、一人静かに飲んでいた。
最近見つけた落ち着いた雰囲気のバーに、週に一、二度通うようになったのは、三か月程前からだ。
齢(よわい)40も越えると、さすがに雑然とした居酒屋には行く気分にもなれない。
若く見えるのに老成したような感のあるマスターは、カウンターで顔をつき合わせていても、まったく酒の味を損なわせることはない。たまに交わす言葉も機転が利いていて彼の頭の良さを窺わせる。
しかし、里村がそのバーに足繁く通うようになったのは店の雰囲気の良さと物静かなマスターだけが理由ではなかった。
店の奥、ちょうど里村がいつも座るカウンター席からギリギリ見える位置にあるテーブル席は彼のお気に入りの場所だ。その席は壁際にあり、小さな噴水が設置されていた。彼は時折その噴水を眺めては目を細めてほほ笑んだり、指を入れて遊んだりしている。
世間一般に広がっているイメージとは裏腹に、ここでの彼は人懐っこい笑顔でよく笑う。そこにはメディアで見るような、怜悧な微笑を浮かべるクールビューティーは存在しない。おそらくそれは彼のメディア戦略なのであり、本当の彼は無邪気で子供っぽい一面をもつ普通の青年なのだろう。
彼の名前は荻久保玲人といい、世界中にその名を知られるミュージシャンである。
手がける曲は必ずヒットすると言われる名プロデューサーで、日本でよりもむしろ欧米でのほうがその認知度は高いと聞く。
しかし、彼の名を知らしめているのは音楽の才能だけではない。
「天は二物を与えず」というが、彼は例外であったらしい。
里村は初対面の人間の顔をジロジロと不躾に見るのは失礼だという基本的な礼儀はわきまえているつもりだ。しかし、初めて彼を間近で見たとき、そのあまりに人間離れした美貌に視線を外すことができなかった。同じ男とは思えない、まるで絵画の中から抜け出してきたかのようなその美貌に、里村はしばらく呆けてしまったほどだ。
今まで荻久保玲人に対して、あまり良いイメージを持っていなかった里村であったが、その日を境に彼に興味を持ちはじめ、意外な一面を見るにつれ、彼への好感度は高まっていった。
最近では、彼を目当てにバーに通っているふしがあった。
40歳を過ぎて芸能人にミーハーするのも如何なものかと自嘲するが、彼を見ているだけで得られる幸福感は、他では得ることのできない里村の癒しだった。
その日も彼は自身がプロデュースをする女性歌手と楽しげに会話している。
不意に、その女性歌手と里村の視線がぶつかった。
慌てて目線を逸らしたが、直後に笑われたと思ったのは気のせいだったのだろうか?
目のやり場に困った里村がマスターを見やると、小さく笑って背を向けた。
気のせいではなかった。
「何笑ってるの、しぃちゃん?」
突然目の前の女性が笑ったので、玲人は小さく首をかしげた。
「何でもないわよ」
玲人は気がついていないが、シエラにはいつもカウンターの端に座る強面の男が、玲人を見ていることを知っていた。40過ぎと思われる、貫禄と落ち着きを備えたその男は玲人を見つめる時だけ、ふとその強面が優しく緩む。
静かに、そして優しく見守るような視線にかすかな恋情が混じるようになったのはいつ頃からだったろうか。
「さあ、今日は帰りましょう。明日からアンタも忙しいんでしょう?」
多忙ゆえ、恋愛に時間を割く余裕もない生活を送っているのはシエラも玲人も同じだった。しかし、そんな生活は味気なく、張りもない。特に玲人には、次こそ幸せな恋愛をしてほしいと心から願っている。寛容で、懐の深い、愛情細やかな人間が玲人には相応しい。さて、あの男はどうだろう?
清算を済ませ、出口に向かおうとする玲人をシエラが小突く。
「ねぇ、カウンターにいる男に笑いかけてあげなさいよ」
「えぇ!?なんで〜?」
「いいから。行くわよ、ホラ!」
何が何だか分からずに、玲人はシエラに言われた通りにカウンターの男に微笑みかけた。
シエラにはそれがどんなものだったのか見ることができなかったが、それは必殺一撃の微笑だったに違いなかった。銅像のように表情を変えることのなかった男が、ギョッと目をむいた後、固まってしまった。
「もう、変な奴だって思われたじゃないか」
店を出るなり堪え切れない笑いを爆発させたシエラに、玲人は不満をもらしたが笑い止まないシエラにつられて玲人も笑いだす。
「あら、そうとも限らないわよ?」
そううそぶいたシエラにも、この先の二人が辿る紆余曲折の道など知る由はなかったのである。
〜To Be Continued…〜

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最近見つけた落ち着いた雰囲気のバーに、週に一、二度通うようになったのは、三か月程前からだ。
齢(よわい)40も越えると、さすがに雑然とした居酒屋には行く気分にもなれない。
若く見えるのに老成したような感のあるマスターは、カウンターで顔をつき合わせていても、まったく酒の味を損なわせることはない。たまに交わす言葉も機転が利いていて彼の頭の良さを窺わせる。
しかし、里村がそのバーに足繁く通うようになったのは店の雰囲気の良さと物静かなマスターだけが理由ではなかった。
店の奥、ちょうど里村がいつも座るカウンター席からギリギリ見える位置にあるテーブル席は彼のお気に入りの場所だ。その席は壁際にあり、小さな噴水が設置されていた。彼は時折その噴水を眺めては目を細めてほほ笑んだり、指を入れて遊んだりしている。
世間一般に広がっているイメージとは裏腹に、ここでの彼は人懐っこい笑顔でよく笑う。そこにはメディアで見るような、怜悧な微笑を浮かべるクールビューティーは存在しない。おそらくそれは彼のメディア戦略なのであり、本当の彼は無邪気で子供っぽい一面をもつ普通の青年なのだろう。
彼の名前は荻久保玲人といい、世界中にその名を知られるミュージシャンである。
手がける曲は必ずヒットすると言われる名プロデューサーで、日本でよりもむしろ欧米でのほうがその認知度は高いと聞く。
しかし、彼の名を知らしめているのは音楽の才能だけではない。
「天は二物を与えず」というが、彼は例外であったらしい。
里村は初対面の人間の顔をジロジロと不躾に見るのは失礼だという基本的な礼儀はわきまえているつもりだ。しかし、初めて彼を間近で見たとき、そのあまりに人間離れした美貌に視線を外すことができなかった。同じ男とは思えない、まるで絵画の中から抜け出してきたかのようなその美貌に、里村はしばらく呆けてしまったほどだ。
今まで荻久保玲人に対して、あまり良いイメージを持っていなかった里村であったが、その日を境に彼に興味を持ちはじめ、意外な一面を見るにつれ、彼への好感度は高まっていった。
最近では、彼を目当てにバーに通っているふしがあった。
40歳を過ぎて芸能人にミーハーするのも如何なものかと自嘲するが、彼を見ているだけで得られる幸福感は、他では得ることのできない里村の癒しだった。
その日も彼は自身がプロデュースをする女性歌手と楽しげに会話している。
不意に、その女性歌手と里村の視線がぶつかった。
慌てて目線を逸らしたが、直後に笑われたと思ったのは気のせいだったのだろうか?
目のやり場に困った里村がマスターを見やると、小さく笑って背を向けた。
気のせいではなかった。
「何笑ってるの、しぃちゃん?」
突然目の前の女性が笑ったので、玲人は小さく首をかしげた。
「何でもないわよ」
玲人は気がついていないが、シエラにはいつもカウンターの端に座る強面の男が、玲人を見ていることを知っていた。40過ぎと思われる、貫禄と落ち着きを備えたその男は玲人を見つめる時だけ、ふとその強面が優しく緩む。
静かに、そして優しく見守るような視線にかすかな恋情が混じるようになったのはいつ頃からだったろうか。
「さあ、今日は帰りましょう。明日からアンタも忙しいんでしょう?」
多忙ゆえ、恋愛に時間を割く余裕もない生活を送っているのはシエラも玲人も同じだった。しかし、そんな生活は味気なく、張りもない。特に玲人には、次こそ幸せな恋愛をしてほしいと心から願っている。寛容で、懐の深い、愛情細やかな人間が玲人には相応しい。さて、あの男はどうだろう?
清算を済ませ、出口に向かおうとする玲人をシエラが小突く。
「ねぇ、カウンターにいる男に笑いかけてあげなさいよ」
「えぇ!?なんで〜?」
「いいから。行くわよ、ホラ!」
何が何だか分からずに、玲人はシエラに言われた通りにカウンターの男に微笑みかけた。
シエラにはそれがどんなものだったのか見ることができなかったが、それは必殺一撃の微笑だったに違いなかった。銅像のように表情を変えることのなかった男が、ギョッと目をむいた後、固まってしまった。
「もう、変な奴だって思われたじゃないか」
店を出るなり堪え切れない笑いを爆発させたシエラに、玲人は不満をもらしたが笑い止まないシエラにつられて玲人も笑いだす。
「あら、そうとも限らないわよ?」
そううそぶいたシエラにも、この先の二人が辿る紆余曲折の道など知る由はなかったのである。
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