Sweet Bitter Chocolate act1
►2008/03/25 20:00
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ミュージシャン荻久保玲人の素顔を知る者は、業界でも数少ない。
しかし、一度でも会った人間なら、例外なく彼に好印象を持つようだった。
「思っていたより気さくでいい人だよ」
というのが彼らの一致した感想である。
荻久保玲人には残念ながら悪い噂が絶えないが、そういったものは一度も会ったことない人間が広めているのかもしれない。
「アイツって、ワガママっぽくない?」
誰かが何気なく発したその一言が、「ワガママらしいよ」に変わり「ワガママだ」に確定されてしまうのは、伝言ゲームの例を示すべくもない噂というものの特性なのだろう。
二月から荻久保玲人のマネージャーを務めることになった徳島美智(とくしまみち)も、そんな数々の噂に不安を抱いていた。
この仕事が決まり、まず一番にそれを知らせた母も心配そうであった。
『大丈夫なの?だってあの人って…』
…ホモなんでしょ?
母が思わず声をひそめたくなる理由も分からないわけではない。この時代、同性愛者がそう珍しくもなくなってきているとはいえ、まだまだ美智の母くらいの年代の人間には受け入れ難いものなのだろう。美智本人としては、自分がそういった性愛の対象にならないことが逆に安心材料であった。
美智が以前担当していたタレントは好色なことで有名な元アイドルで、美智はその堅物な性格を買われて彼のマネージメントを任された。決して器量の悪くない美智が彼の餌食にならなかったのは、ひとえに美智の頑なな拒絶があったせいだったが、その代わり彼は美智を使い走りのように扱った。コーヒーが飲みたいと言えば近くのカフェでテイクアウトをし、マンダリンが飲みたかったのにと言われれば買い直しにまたカフェに走った。そんな扱いを受けても不平も言わず耐えてきた美智だったが、ある日突然気まぐれに解雇されてしまった。
『お前、真面目すぎてつまんねぇんだよ』
というのが、その理由だった。
厳格な家庭で育ち、そういう風にしか生きれなかった美智はそんな言葉を投げつけられることにも慣れていた。美智が最も忌むべきものとしているのは、ふしだら・不真面目・不誠実で、その見本市のような男に何を言われても傷ついたりしない。逆に、その任を解かれて清々しているくらいだ。
そんな経験のある美智なので、個人的な性癖の一つや二つはどうということはない。問題なのはやはり玲人本人の性格だろう。
新年の慌ただしさもすっかり落ち着いた二月の始め、美智は指定されたビルのフロアに指定よりも10分早く到着していた。そこは荻久保玲人のレコーディングスタジオで、美智は今日初めて玲人と対面し仕事内容の説明や軽い面談を行うことになっている。
まだ時間前だからなのかフロアには誰もおらず、休憩用のソファとベンディングがある以外はガランとしている。ドアは三つあり、そのうちの一つに『Now Recording』というプレートが掛けられていることから、そこがスタジオであり、今はその最中なのだとわかった。取り込み中と判断した美智は立ったまま人が通るのを待っていたが、予定の時間を過ぎても人が出てくる気配がない。どうしたものかと悩んでいると、スタジオから立派な体格をした男が姿を現した。まるで悪役レスラーのような男の圧倒的な存在感に美智が怯んでいると、男の方から美智に声をかけてきた。
「もしかして、新しいマネージャーさん?」
「あ、はい。今日から荻久保玲人のマネージャーを務めさせていただきます徳島美智と申します」
形通りの挨拶の後、名刺を手渡そうとすと男は手を振って、
「ああ、いいから」
と、受け取りを断った。
「俺なんかにくれても紙がもったいないだけだ。…俺は大門(おおも)。よろしくな、徳島さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
大門は鷹揚に頷いて見せると、美智にソファに座るように勧めた。
前歴の所為でもなく、男性恐怖症の気がある美智は緊張を顔に出さぬようにソファに腰かけた。特に大門のようにフランクに話しかけてくる男性に苦手意識を持っていた。仕事で関わり合いになるのならビジネスライクな距離感が一番楽だ。打ち明け話などされて、他人の生々しい一面を見せつけられるのが美智は苦手だった。
「今、玲人はちょっと手が放せねぇんだ。茶でも飲みながら待っててくれ」
大門はそう言って、ポケットをジャラジャラいわせて小銭を取り出した。
「何がいい?」
どうやら奢ってくれるつもりらしい大門に、美智は慌てて、
「いいえ、結構ですから」
と遠慮したが、大門はニヤリと笑って、
「いいって。今日だけだから」
冗談めかしてそう言われて、美智は断れなくなった。
見た目は怖いが悪い人間ではなさそうだ。ブラックコーヒーの入った紙コップを受け取りながら美智はそう判断した。
〜To Be Continued…〜

↑読んで下さってありがとうございます☆お気に召しましたら、ポチっとお願いします♪
【言い訳】
間が空いて申し訳ないです。中途半端なところで終わってしまって申し訳ないです。主人公が出てこない小説で申し訳ないです…。
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しかし、一度でも会った人間なら、例外なく彼に好印象を持つようだった。
「思っていたより気さくでいい人だよ」
というのが彼らの一致した感想である。
荻久保玲人には残念ながら悪い噂が絶えないが、そういったものは一度も会ったことない人間が広めているのかもしれない。
「アイツって、ワガママっぽくない?」
誰かが何気なく発したその一言が、「ワガママらしいよ」に変わり「ワガママだ」に確定されてしまうのは、伝言ゲームの例を示すべくもない噂というものの特性なのだろう。
二月から荻久保玲人のマネージャーを務めることになった徳島美智(とくしまみち)も、そんな数々の噂に不安を抱いていた。
この仕事が決まり、まず一番にそれを知らせた母も心配そうであった。
『大丈夫なの?だってあの人って…』
…ホモなんでしょ?
母が思わず声をひそめたくなる理由も分からないわけではない。この時代、同性愛者がそう珍しくもなくなってきているとはいえ、まだまだ美智の母くらいの年代の人間には受け入れ難いものなのだろう。美智本人としては、自分がそういった性愛の対象にならないことが逆に安心材料であった。
美智が以前担当していたタレントは好色なことで有名な元アイドルで、美智はその堅物な性格を買われて彼のマネージメントを任された。決して器量の悪くない美智が彼の餌食にならなかったのは、ひとえに美智の頑なな拒絶があったせいだったが、その代わり彼は美智を使い走りのように扱った。コーヒーが飲みたいと言えば近くのカフェでテイクアウトをし、マンダリンが飲みたかったのにと言われれば買い直しにまたカフェに走った。そんな扱いを受けても不平も言わず耐えてきた美智だったが、ある日突然気まぐれに解雇されてしまった。
『お前、真面目すぎてつまんねぇんだよ』
というのが、その理由だった。
厳格な家庭で育ち、そういう風にしか生きれなかった美智はそんな言葉を投げつけられることにも慣れていた。美智が最も忌むべきものとしているのは、ふしだら・不真面目・不誠実で、その見本市のような男に何を言われても傷ついたりしない。逆に、その任を解かれて清々しているくらいだ。
そんな経験のある美智なので、個人的な性癖の一つや二つはどうということはない。問題なのはやはり玲人本人の性格だろう。
新年の慌ただしさもすっかり落ち着いた二月の始め、美智は指定されたビルのフロアに指定よりも10分早く到着していた。そこは荻久保玲人のレコーディングスタジオで、美智は今日初めて玲人と対面し仕事内容の説明や軽い面談を行うことになっている。
まだ時間前だからなのかフロアには誰もおらず、休憩用のソファとベンディングがある以外はガランとしている。ドアは三つあり、そのうちの一つに『Now Recording』というプレートが掛けられていることから、そこがスタジオであり、今はその最中なのだとわかった。取り込み中と判断した美智は立ったまま人が通るのを待っていたが、予定の時間を過ぎても人が出てくる気配がない。どうしたものかと悩んでいると、スタジオから立派な体格をした男が姿を現した。まるで悪役レスラーのような男の圧倒的な存在感に美智が怯んでいると、男の方から美智に声をかけてきた。
「もしかして、新しいマネージャーさん?」
「あ、はい。今日から荻久保玲人のマネージャーを務めさせていただきます徳島美智と申します」
形通りの挨拶の後、名刺を手渡そうとすと男は手を振って、
「ああ、いいから」
と、受け取りを断った。
「俺なんかにくれても紙がもったいないだけだ。…俺は大門(おおも)。よろしくな、徳島さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
大門は鷹揚に頷いて見せると、美智にソファに座るように勧めた。
前歴の所為でもなく、男性恐怖症の気がある美智は緊張を顔に出さぬようにソファに腰かけた。特に大門のようにフランクに話しかけてくる男性に苦手意識を持っていた。仕事で関わり合いになるのならビジネスライクな距離感が一番楽だ。打ち明け話などされて、他人の生々しい一面を見せつけられるのが美智は苦手だった。
「今、玲人はちょっと手が放せねぇんだ。茶でも飲みながら待っててくれ」
大門はそう言って、ポケットをジャラジャラいわせて小銭を取り出した。
「何がいい?」
どうやら奢ってくれるつもりらしい大門に、美智は慌てて、
「いいえ、結構ですから」
と遠慮したが、大門はニヤリと笑って、
「いいって。今日だけだから」
冗談めかしてそう言われて、美智は断れなくなった。
見た目は怖いが悪い人間ではなさそうだ。ブラックコーヒーの入った紙コップを受け取りながら美智はそう判断した。
〜To Be Continued…〜
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【言い訳】
間が空いて申し訳ないです。中途半端なところで終わってしまって申し訳ないです。主人公が出てこない小説で申し訳ないです…。
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