Remain of Love act32
►2009/07/02 20:00
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久しぶりに顔を合わせるレイは、半年前ド・ゴール空港で別れた時に比べて若干ふっくらしたような印象を受けた。以前が痩せすぎだったので、ちょうど元に戻ったぐらいだろう。
やはりメールの文面だけでは相手の健康状態まで察することはできない。この半年間、ずっとレイの様子が気にかかっていた。だから再会の喜びよりも、元気そうな姿を確認できて安堵したという方が大きかった。
「アーサー、ごめんね。急に会いに来たりして…。迷惑だったんじゃない?」
「いや、君がそんな風に言う必要はない。私も君に会いたかった」
今度は誤解されないようにと真摯な目でアーサーがそう言うと、レイは驚いたように一瞬目を見開いて頬を赤く染めた。そんな自分の反応を恥じ入るかのように、レイは顔を背けてしまった。
レイがなぜそんな反応をするのか理解できないアーサーは、レイの手から荷物を取り上げて移動を促した。
「話は後でゆっくりしよう。人が集まり始めているからな」
アーサーとレイの組み合わせは、どうしたって注目を集めてしまう。「う、うん」とぎこちなく返事をしたレイをエスコートして、アーサーはヒースロー空港を後にしたのだった。
予約を入れておいたイタリアンレストランはアーサーのようなVIPのために、他の一般客とは別の入口が設けられており、彼らとは顔を合わせないよう配慮がしてあった。中はもちろん完全個室で、煩いパパラッチが決して中に入ることが出来ない。今日のような密会にはもってこいの場所であった。
ディナーには少し早すぎる時間だったので、アーサーは色鮮やかなブルスケッタをつまみにワインを飲みながら、レイの話に耳を傾けていた。
レイの複雑な過去については、出会ったばかりの頃に聞いたことがあった。その時は、そんな運命にさらされてきたレイを気の毒に思うと同時に、元凶である彼の両親やパートナーであった男に激しい憤りを感じたものだった。しかしそれがレイにどんな影響を与えることになったのかということまでは考えが及ばなかった。自らの恋情を持て余していたその当時のアーサーは、自分の欲求を通すことしか頭になく、レイの心情を考慮する余裕すらなかったのだった。
「今まで僕を雁字搦めにしていたトラウマが、全部吹き飛んだって感じ。…もちろん、僕が感じた恐怖までは消えることはないんだけど」
比較的平穏な幼少時代を過ごしてきたアーサーには、レイが受けてきた虐待の苦痛を想像することは難しい。しかしそんなアーサーでも、記憶を封印してしまいたくなるほどの苦しみを与えた相手を許容するなど、どのような理由があろうとも、とてもできそうにない。レイからその事情や背景を聞いた今でも、そんな理由は言い訳にもならないと思うし、レイが受けた深い傷は癒されるものではないと思っている。
しかし当のレイが、以前のどこか憂いを帯びた陰りを削げ落として、さっぱりとした表情をしているのを見ると、これでよかったのかもしれないとも思う。レイを長く苦しめてきたトラウマから彼を解放するにはきっかけが必要だった。父親の悔恨の手紙がそのきっかけになったのならば、アーサーが異論を唱える立場にはない。
「君がそれで納得しているのなら、私は何も言うことはない。君の慈悲深さは尊敬に値すると思う」
そんなアーサーの言葉にはレイを傷つけた彼らへの隠しきれない怒りが込められていた。言葉とは裏腹に厳しい口調になったアーサーに、レイは戸惑ったようだった。
「…アーサー、怒ってる?」
「ああ、怒っているとも。君にではなく、君を傷つけた彼らに対してね。彼らは君に一生忘れ得ぬ傷を残した。君は彼らを赦したかもしれないが、私は決して彼らの罪を赦さない。絶対に」
念を押すように最後の一言を付け加えて、アーサーは静かな怒りをそう表した。
レイは人が善すぎるとアーサーは思う。自分ならば一度受けた屈辱や恨みは絶対に忘れない。そしていつか必ず、自分をそのような目にあわせた人間に復讐するだろう。
レイの寛容さは彼の美徳の一つでもあるが、時折アーサーの理解の範疇を超える。今回のことも、何時ぞやの監禁の件も然りである。
一人憤慨するアーサーをよそに、レイはそんな彼をクスリと笑った。
「何を笑っている?」
誰のために怒っているのだと、アーサーがレイを睨みつけると、こらえきれない笑みを浮かべたレイが「ごめんね」と言った。
「馬鹿にしたわけじゃないんだ。嬉しいなって、思ったの」
「嬉しい?」
「そう。だって、僕のこと真剣に考えて、それで怒ってくれてるんでしょう?僕はあんまり怒ったりとかできないから、僕の代わりに怒ってくれて、それがすごく嬉しいんだ」
「………」
「…何か、変かな?」
レイのあまりに気の抜けた言葉に、アーサーもすっかり毒気を抜かれてしまった。これ見よがしに溜息をついてみせ、アーサーは手にしていたワイングラスをテーブルに置いた。
「ごめん、何か気を悪くした?変なこと言って…」
「違う、そうじゃない」
アーサーはレイの言葉を遮ると、緩くかぶりを振った。
「君には負けるよ。まったく、君の考えることは私の想像を超越している」
だからこそ面白い。アーサーが苦笑を浮かべると、レイは「そうかな…?」と首をかしげている。
「アーサーの方が僕には新鮮だけど」
「私が?まさか」
自分は古い考えを持つ人間だという自覚があったアーサーは、新鮮だと言われるほど斬新なことなどしてこなかったと思っている。
しかしレイは「ううん」とアーサーの言葉を否定した。
「アーサーにはいつも気付かされることばかりだよ。僕が道を見失いかけていると、いつも君が目を覚まさせてくれる。僕の進むべき道を指し示してくれる。何度僕はそれに救われてきたかわからない。君にはすごく感謝しているんだよ?」
真剣な面持ちでそんな風に言われて、アーサーは戸惑うしかない。仕事の際には躊躇いもなく采配をふるうアーサーも、レイに関しては迷うことばかりで失敗ばかりだという自覚があった。自分のエゴを通すばかりだったアーサーには、自分の行動をそう評価されることに大きな違和感があった。
「それは違う」
と、否定したアーサーに、レイは首を振った。
「違わないよ。アーサーがいなかったら、僕は今ここに存在しなかったもの。奇しくも父と僕は同じ道をたどることになったけど、父と僕が違ったのは、僕にとっての君のような存在が父にはいなかったことだと思うんだ。頬っぺたを引っ叩いてでも『生きろ』と言ってくれる、そんな存在がね」
半年前、無我夢中でしたことをそんな風に言われると我ながら気恥ずかしい。自分がしたことはそんな立派なものじゃない。あの時の行動の理由が不純なものであることは自分が一番よく理解していて、結果レイが立ち直ってくれたことは偶然に過ぎない。
複雑な表情を浮かべるアーサーに、レイは微笑んで更に言葉を続けた。
「僕はね、父の最後の手紙を読んで思ったんだ。父のような後悔はしたくないって。愛する人に自分の気持ちも伝えられず後悔するような人生は送りたくない。そう思ったら居ても立ってもいられなくて、君に会いに来たんだ」
どういう意味だ、とアーサーが息を飲むと緊張した面持ちのレイがこう言い放った。
「僕と、付き合ってください」
〜To Be Continued…〜

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やはりメールの文面だけでは相手の健康状態まで察することはできない。この半年間、ずっとレイの様子が気にかかっていた。だから再会の喜びよりも、元気そうな姿を確認できて安堵したという方が大きかった。
「アーサー、ごめんね。急に会いに来たりして…。迷惑だったんじゃない?」
「いや、君がそんな風に言う必要はない。私も君に会いたかった」
今度は誤解されないようにと真摯な目でアーサーがそう言うと、レイは驚いたように一瞬目を見開いて頬を赤く染めた。そんな自分の反応を恥じ入るかのように、レイは顔を背けてしまった。
レイがなぜそんな反応をするのか理解できないアーサーは、レイの手から荷物を取り上げて移動を促した。
「話は後でゆっくりしよう。人が集まり始めているからな」
アーサーとレイの組み合わせは、どうしたって注目を集めてしまう。「う、うん」とぎこちなく返事をしたレイをエスコートして、アーサーはヒースロー空港を後にしたのだった。
予約を入れておいたイタリアンレストランはアーサーのようなVIPのために、他の一般客とは別の入口が設けられており、彼らとは顔を合わせないよう配慮がしてあった。中はもちろん完全個室で、煩いパパラッチが決して中に入ることが出来ない。今日のような密会にはもってこいの場所であった。
ディナーには少し早すぎる時間だったので、アーサーは色鮮やかなブルスケッタをつまみにワインを飲みながら、レイの話に耳を傾けていた。
レイの複雑な過去については、出会ったばかりの頃に聞いたことがあった。その時は、そんな運命にさらされてきたレイを気の毒に思うと同時に、元凶である彼の両親やパートナーであった男に激しい憤りを感じたものだった。しかしそれがレイにどんな影響を与えることになったのかということまでは考えが及ばなかった。自らの恋情を持て余していたその当時のアーサーは、自分の欲求を通すことしか頭になく、レイの心情を考慮する余裕すらなかったのだった。
「今まで僕を雁字搦めにしていたトラウマが、全部吹き飛んだって感じ。…もちろん、僕が感じた恐怖までは消えることはないんだけど」
比較的平穏な幼少時代を過ごしてきたアーサーには、レイが受けてきた虐待の苦痛を想像することは難しい。しかしそんなアーサーでも、記憶を封印してしまいたくなるほどの苦しみを与えた相手を許容するなど、どのような理由があろうとも、とてもできそうにない。レイからその事情や背景を聞いた今でも、そんな理由は言い訳にもならないと思うし、レイが受けた深い傷は癒されるものではないと思っている。
しかし当のレイが、以前のどこか憂いを帯びた陰りを削げ落として、さっぱりとした表情をしているのを見ると、これでよかったのかもしれないとも思う。レイを長く苦しめてきたトラウマから彼を解放するにはきっかけが必要だった。父親の悔恨の手紙がそのきっかけになったのならば、アーサーが異論を唱える立場にはない。
「君がそれで納得しているのなら、私は何も言うことはない。君の慈悲深さは尊敬に値すると思う」
そんなアーサーの言葉にはレイを傷つけた彼らへの隠しきれない怒りが込められていた。言葉とは裏腹に厳しい口調になったアーサーに、レイは戸惑ったようだった。
「…アーサー、怒ってる?」
「ああ、怒っているとも。君にではなく、君を傷つけた彼らに対してね。彼らは君に一生忘れ得ぬ傷を残した。君は彼らを赦したかもしれないが、私は決して彼らの罪を赦さない。絶対に」
念を押すように最後の一言を付け加えて、アーサーは静かな怒りをそう表した。
レイは人が善すぎるとアーサーは思う。自分ならば一度受けた屈辱や恨みは絶対に忘れない。そしていつか必ず、自分をそのような目にあわせた人間に復讐するだろう。
レイの寛容さは彼の美徳の一つでもあるが、時折アーサーの理解の範疇を超える。今回のことも、何時ぞやの監禁の件も然りである。
一人憤慨するアーサーをよそに、レイはそんな彼をクスリと笑った。
「何を笑っている?」
誰のために怒っているのだと、アーサーがレイを睨みつけると、こらえきれない笑みを浮かべたレイが「ごめんね」と言った。
「馬鹿にしたわけじゃないんだ。嬉しいなって、思ったの」
「嬉しい?」
「そう。だって、僕のこと真剣に考えて、それで怒ってくれてるんでしょう?僕はあんまり怒ったりとかできないから、僕の代わりに怒ってくれて、それがすごく嬉しいんだ」
「………」
「…何か、変かな?」
レイのあまりに気の抜けた言葉に、アーサーもすっかり毒気を抜かれてしまった。これ見よがしに溜息をついてみせ、アーサーは手にしていたワイングラスをテーブルに置いた。
「ごめん、何か気を悪くした?変なこと言って…」
「違う、そうじゃない」
アーサーはレイの言葉を遮ると、緩くかぶりを振った。
「君には負けるよ。まったく、君の考えることは私の想像を超越している」
だからこそ面白い。アーサーが苦笑を浮かべると、レイは「そうかな…?」と首をかしげている。
「アーサーの方が僕には新鮮だけど」
「私が?まさか」
自分は古い考えを持つ人間だという自覚があったアーサーは、新鮮だと言われるほど斬新なことなどしてこなかったと思っている。
しかしレイは「ううん」とアーサーの言葉を否定した。
「アーサーにはいつも気付かされることばかりだよ。僕が道を見失いかけていると、いつも君が目を覚まさせてくれる。僕の進むべき道を指し示してくれる。何度僕はそれに救われてきたかわからない。君にはすごく感謝しているんだよ?」
真剣な面持ちでそんな風に言われて、アーサーは戸惑うしかない。仕事の際には躊躇いもなく采配をふるうアーサーも、レイに関しては迷うことばかりで失敗ばかりだという自覚があった。自分のエゴを通すばかりだったアーサーには、自分の行動をそう評価されることに大きな違和感があった。
「それは違う」
と、否定したアーサーに、レイは首を振った。
「違わないよ。アーサーがいなかったら、僕は今ここに存在しなかったもの。奇しくも父と僕は同じ道をたどることになったけど、父と僕が違ったのは、僕にとっての君のような存在が父にはいなかったことだと思うんだ。頬っぺたを引っ叩いてでも『生きろ』と言ってくれる、そんな存在がね」
半年前、無我夢中でしたことをそんな風に言われると我ながら気恥ずかしい。自分がしたことはそんな立派なものじゃない。あの時の行動の理由が不純なものであることは自分が一番よく理解していて、結果レイが立ち直ってくれたことは偶然に過ぎない。
複雑な表情を浮かべるアーサーに、レイは微笑んで更に言葉を続けた。
「僕はね、父の最後の手紙を読んで思ったんだ。父のような後悔はしたくないって。愛する人に自分の気持ちも伝えられず後悔するような人生は送りたくない。そう思ったら居ても立ってもいられなくて、君に会いに来たんだ」
どういう意味だ、とアーサーが息を飲むと緊張した面持ちのレイがこう言い放った。
「僕と、付き合ってください」
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